*第1夜*
冷たい夜に暖かな君の温もりだけが残る...
1.出逢いの夜
秋も過ぎ、段々と冬らしくなって来た。
真夜中。と言っても午後11時ぐらい。
塾の帰りとか言っても此処まで勉強する奴は珍しいだろう。
人通りも少ない、店も殆閉まっている。
そんな中で俺はギター片手にストリートライヴ。
これはただの趣味、ある意味面白い趣味をしている。
別にストリートライヴと言っても固定されている場所で何時もやっている。
公園の噴水の前。別に此処に固定した理由は特にない。
公園と言ってもあまり人通りのない公園。小耳に挟んで通り縋って行く人が大体。
真面目に聴いてくれる奴なんて本物の物好きだろうに。
今日もまたストリート。
聴いてくれる人、通り縋る人...その前に...人がいない。
でも俺はそんな中でもギターを弾いて声を出す。
冷たい風が体温を奪う。手が悴む。
水飛沫の音を背後に感じながら、自分の事に集中。
目の前には誰も...誰も...?
「上手だね」
いた。
目を瞑って歌っていたから気付かなかった。
目の前にいるのは女。防寒対策はバッチリって感じ。
此処にいたよと目を見開く。
結構な物好き野郎。
構わずに歌い続ける。そのうち行ってしまうだろう。
そう考えて、ギターを引き続けている。悴んだ真っ赤な指先で弦を弾く。
だか、彼女は1曲が終わるまでずっと立っていた。
ぱちぱちと拍手。
初めてもらった、此処でライヴしての初拍手。
結構気持ちのいいもんなんだと思っていた。
いい気になってはいけないと自覚する。
「聴いてて飽きなかった?」
「全然!ずっと聴いてたいって思ったよ」
感想を求めた。即答で返って来る。
嬉しい言葉だ。ずっと聴いていたいは別として飽きなかったと言うのに感動。
彼女は微笑みながら「もう1曲」とアンコールを求めた。
俺は調子に乗ってもう1曲歌い出した。
調子に乗ってとか...何時も3曲ぐらい歌ってるけど...。
ギターの音色は軽快に歌い出される。
もう寒さなんて関係ない。
聴いてくれる人がいるなら俺は楽しく一生懸命に歌い上げるのみ。
歌い上げるともう一度の拍手。
「ありがとう」
「うんん、聴いてて楽しかったから。毎日此処にいるの?」
「あぁ...まぁ一応」
「そう、よかった...貴方名前は?」
「俺...?葛城羽悠」
「私は紀平翠」
彼女は「また明日も来るね」と言い残しその場を去って行く。
後姿を見送りながら最後の1曲。
ギターの音が深夜0時の真夜中に響き渡った。