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紫の章 変態紳士

「で? 何をしに来たんだ?」


 物言う猫は、私が服を着るまで目を合わせないと後ろを向いたままの女性に抱かれたまま、表情豊かにしかめっ面をしてそんな言葉を言ってきた。


「それは酷いな。私は君の依頼の報告に来たっていうのに」


「それは……そうなんだが。窓から入ってくる必要性がわからないし、そもそも何故、服を着ていないんだ?」


「見せびらかしたかったからだ」


「…………それは、そのタトゥーを、という事だよな?」


「いや、裸を」


 この猫は何を言っているんだ。この肉体美が理解できない訳ではなかろうに。


「ライさん、この人は誰なんです?」


 後ろを向いたままの女性が、形の良い耳を真っ赤に染めて僅かに此方を向き、また正面に顔を戻した。

恐らく、このような完璧な均整美を目にして、自らの肉体を恥じているのだろう。

気持ちは分からないでもない。


「誰、と言われても……答えに困ってしまうな」


「私の美しさに取りつかれただけの下僕ですと素直に答えなさい」


「いや、それは違う。……そうだな、仕事上の知り合い、というのが一番的を得た答えだろうな」


「仕事って、こんな人に出来る仕事なんてあるんですか?」


 もしかして芸人さん? と付け加えて、後ろを向いたままの女性はライをぎゅっと抱きしめた。

くぅ、とライの喉から音が漏れるのが聞こえる。


「サラリと失礼な事を言うね、チアキ君は」


「……? 何が失礼だったんだ?」


 この女性にそんな言葉を吐かれた覚えはないが。


「――そうだった。お前はそういう奴だったな」


 何処か疲れた風に、ライは息を漏らして首を振る。


「チアキ君。この男は人類愛の刺青師(シールスター)――『星を見る会』の幹部だよ」


「それは副業。本業は――」


「え!? 人類愛の刺青師(シールスター)って、昔ヒーローランキングで十四週連続一位だったあの!?」


 私の言葉を遮って、背を向けたままの女性は声を今までにない大声をあらぬ方向へと張り上げた。


「昔の話だよ。今はただのペットショップ経営者さ」


「……刺青師なのに?」


 背中しか見せない女性は不満そうな声を漏らす。


「私のは能力から来た『ジョン・ドゥ』だからね。職業は殆ど関係がないんだよ」


「……ジョン・ドゥ?」


 ライを抱いた女性は後ろ向きのまま首を傾げる。


「ん? 公安の人間なのに知らないのかい? それじゃ、ライ。上司だろう。説明してあげなさい」


「君に言われて行動するのはちょっと抵抗があるのだけれど……。ま、いずれ説明しなければならない事だろうしね」


 そんな心にもない事を言って、ライは抱かれていた女性の腕からするりと抜け出す。


「――崩壊種(フォールワン)が、それぞれ特異な能力を持つ事は、知っているね?そしてこの都市が、その能力者達を隔離する為に作られたという事も」


 女性のポニーテールが、首の動きに合わせて揺れた。


「だから、僕らの住むこの都市では、政府がその危険性を加味して、個人のデータが極めて厳しく管理されている。その為、政府に追われる様な生き方をする人々は、出来る限り素性を知られないように本名及び、自身の情報を出来る限り漏らないようにするんだ。コイツとか、中央交差点の死にたがりの兵隊(ネヴァーモア)とかね。まぁ、そういった奴らの情報を掴む為に、公安があるのだけど」


 ライが指した為か、ほんの少し、下に眼を向けないで女性が振り向いたので、軽く微笑んでみる。

が、やはり私の眩しさは彼女には耐え切れなかったようだ。直ぐに眼を逸らしてしまった。


「そこで、便宜上呼ばれる名前となるのが、『ジョン・ドゥ』。これは自分で名乗るか、他人にそう呼ばれて広まるのかの違いはあるが、裏の世界で生きる者達は全員コレを持っている。……まぁ、普通に暮らしている人でも、ランキングレコードに本名での掲載を拒否した時点で『星を見る会』に勝手に名前を付けられてしまうのだけど」


「ま、人のプライバシーは犯さないって訳さ。一々要らない恨みを買うのもなんだしね」


「――という事らしい。チアキ君、解ったかい?」


「……でも」


 ライの呼びかけに、女性が応える。


「でも、精神感応系の能力を持つ人には、バレバレじゃありませんか? そんな子供騙し」


 ま、当然の疑問だね。

精神感応系の原理なんて、公安に入ったばかりの娘が知るわけもないし。


「それは、無理だな」


「何故です?」


「精神感応系の能力者が人間の内部を観測できるのは、その人間が能力を発した際に放出されるある粒子を確認するか、その人間とある程度のコミュニケーションを取るかの、二つしかないからさ」


「……そうなんですか?」


 心底不思議そうに、女性が小首を傾げた。


「あぁ、そうだ……って、チアキ君、もしかして――」


「私、そんな事しなくても、観れますよ? その人の事」


――彼女は、そんな爆弾発言を口にした。


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