第5話 魔王は敵ではない
第五話です。
今回、魔王が登場します。
彼は敵かもしれませんし、味方かもしれません。
少なくとも、世界の事情は知っています。
黒い玉座の間。
魔王は、静かに目を開いた。
「……また、始まったか」
低い声が空間に溶ける。
玉座の前には、魔族の将が膝をついていた。
「勇者が動き出しました。西方砦が一つ、陥落」
「そうか」
淡々としている。
怒りも焦りもない。
「何日目だ」
「六日目です」
「……早いな」
魔王は天井を見上げる。
そこには見えない亀裂が走っている。
他の誰にも見えない。
「今回も七十日前後で割れる」
呟き。
「陛下?」
「いや。独り言だ」
魔王は立ち上がる。
「勇者を刺激するな。
予定通り進ませろ」
「しかし、それでは我らが不利に――」
「構わん」
鋭い視線が将を射抜く。
「勇者が“正しく”進むほど、世界は壊れる」
将は理解できず、黙る。
そのとき、空間がわずかに揺れた。
「……来たか」
玉座の間の中央に転移陣が浮かぶ。
現れたのは、追放された男。
「久しぶりだな、魔王」
「三度目だ」
魔王は訂正する。
「今回は三度目だ」
静寂。
将が息を呑む。
「やはり覚えているか」
「当然だ。私は“終端側”だからな」
魔王は世界が崩壊する瞬間を何度も見ている。
空が割れ、地が沈み、すべてが無に帰す光景を。
「今回も回収するのか」
「ああ」
「間に合う保証は?」
「ない」
即答。
魔王はわずかに笑う。
「ならば協力しよう」
将が顔を上げる。
「陛下!?」
「勇者は補正されている。
放置すれば七十日以内に終わる」
魔王の瞳が細まる。
「私は滅びるのは構わん。
だが、意味もなく繰り返すのは不快だ」
「……利害は一致だな」
主人公は頷く。
「致命的な伏線は三つ」
「聖女、勇者の血、そして私の存在理由」
「話が早い」
魔王は玉座から降りる。
「条件がある」
「言え」
「今回は最後まで見届ける。
強制終了するなら、私がやる」
主人公は静かに笑う。
「いいだろう」
その瞬間。
天井の亀裂が、わずかに広がった。
遠く離れた森で、ルシエルが顔を上げる。
「逸脱値、上昇……」
世界が軋む。
だが今回は、確かに違う。
勇者は正しく進み、
魔王は崩壊を待ち、
回収者は動き出した。
残り六十五日。
物語は、まだ壊れていない。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
魔王は終端側。
勇者は補正側。
では主人公は何側でしょうか。
次回、聖女の“記憶”が揺れます。
残り六十五日。




