第2話 勇者の笑顔が歪んでいた理由
第二話です。
今回は大きな戦闘はありません。
代わりに、少しだけ世界が軋みます。
違和感に気づいた方は、そのまま読み進めてください。
気づかなくても問題ありません。
そのうち、強制的に回収します。
追放から一日。
俺は王都の外れ、古い礼拝堂の裏手にいた。
ここは一周目でも使った場所だ。
物語の本筋には関わらない、いわば“余白”。
余白は歪みにくい。
「……やっぱり来たか」
足音は軽い。
振り向く前に分かる。
この間合い、この呼吸。
「どうして、ここにいるの?」
ミレアは戸惑った顔で立っていた。
勇者パーティーの聖女。
光属性魔法の使い手。
そして――世界崩壊の引き金。
「散歩だよ」
「城門からまっすぐここへ来る散歩がある?」
「ある。二周目ならな」
彼女の眉がわずかに動く。
覚えていない。
だが、言葉のどこかに引っかかっている。
それでいい。
「昨日のこと、気にしてないの?」
「追放のことか?」
俺は肩をすくめる。
「予定通りだ」
「……何が?」
いい反応だ。
一周目のミレアは、この段階でここまで踏み込まなかった。
崩壊まで七十二日。
今回、すでに歪みは小さい。
「勇者の笑顔、見ただろ」
「え?」
「昨日、お前たちが城門を出る前。アルドは笑っていた」
「それは……解放されたからじゃ」
「違う」
断言する。
「あれは“補正”だ」
ミレアの呼吸が止まる。
世界には流れがある。
勇者は物語を前に進める装置だ。
追放イベント。
覚醒イベント。
魔王討伐ルート。
すべてが予定調和で進む。
「勇者は正しい選択しかできない」
「そんなこと――」
「ある」
静かに言う。
「お前もだ」
ミレアの瞳が揺れる。
「昨日の夜、夢を見ただろ」
彼女は息を呑む。
「崩れる城。割れる空。
誰かが“間に合わなかった”と言っていたはずだ」
「……なんで、それを」
「覚えているからだ。俺だけが」
風が吹く。
礼拝堂の鐘が鳴る。
時間は、同じように流れている。
だが今回は、ほんの少しだけズレている。
「俺は世界を滅ぼす」
はっきりと言う。
ミレアは顔を強張らせた。
「でも、それは勇者を殺すことじゃない」
「……え?」
「壊れた物語を終わらせるだけだ」
彼女の胸元のペンダントが、微かに光る。
それが合図だ。
一周目では、六日後に反応した。
今回は、もう揺れている。
早い。
崩壊が近いのか。
それとも――
「ミレア。お前は選べる」
「何を?」
「補正に従うか。
それとも、俺と“回収”するか」
沈黙。
長い沈黙のあと、彼女は小さく言った。
「……わからない」
「それでいい」
分からないという選択肢は、物語には本来存在しない。
だからこそ価値がある。
遠くで、勇者パーティーの出立を告げる角笛が鳴った。
物語は進み始めている。
だが今回は。
ほんの少しだけ、歯車が軋んでいる。
それが、救いになる。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
勇者の笑顔は、本当に自然なものでしょうか。
世界が正しく動いているときほど、
誰かの選択肢は減っています。
次回から、物語は少しだけ裏側に入ります。
滅ぼす準備は、順調です。




