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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

寄生転生

作者: わーどん
掲載日:2026/02/15

隣人の死はあなたの死。

隣人の死はあなたの死。

あなたの死は隣人の死である。

 人気のない大学内の食堂で、似つかわしくないスーツを着た4人組が椅子にかけている。

 その内2名両方男、一番小さいのと一番でかいのが食事をとっていた。残りの片方は、背の高い少女で食事に目を奪われては我に返ったように目を逸らし、もう片方は腕時計を見てイライラしている。一番小さい男、床間骸は少女糸井綾の視線に気づく。

「……綾ちゃん。そんなに食べたいなら、ほら」

 骸が唐揚げを綾の口元へ運ぶ。

「いや、平気」

 綾は反対側を向いてこれを拒否した。

「そっか〜。まあそうか」

 骸は唐揚げを皿に戻して俯く。

「そうだ、そもそも僕らに食事なんか必要ないんだよ」

 腕を組みながら食事をとっていない男、切崎律が骸を睨む。

「あるわ!生命維持だけが人間の目的だとでも思ってんのかお前は!」

「時間の無駄だ。君こそ、娯楽が人生のすべてとか思い込んでるんじゃないのか?」

 律は腕時計を突つきながら捲し立てる。

「あんまり喧嘩するなよ。ここ公共施設だぞ」

 一番でかい男、湊駆が二人を宥める。

「あー……。そうっすね。こいつ誘わなきゃ良かった」

「そうだ、君が誘ったのが悪い」

「言うね?!お前言うね?!」

「骸く〜ん、声、大きい」

 綾が小声で注意する。

「あっ、綾ちゃんごめん」

「早く食え骸。今日は新兵器についての会議があるって言ったろ」

「ダーッもうなんだよ。まだ時間あるだろ、隊長もまだ食って……」

「ごちそうさん」

 振り向くと駆が合掌していた。

「oh……」

「急げ」

「チクショーーー」

 骸が米をかき込む。

「あぁ、もったいない……」

 綾が残念そうに唐揚げに手を伸ばしていた。

ーーー

 国立第一大学、会議室にて。暗がりの部屋、スーツを着た人間が十数人席についていて、教卓の前には白衣を着た若い女性がモニターの準備をしている。駆たちは4人で固まって前に律、駆、後ろに綾、骸の順で着席していた。

「骸く〜ん。寝たらだめだよ」

 綾が突っ伏している骸を優しくさする。

「綾ちゃん、余計眠たくなるよ、これ」

「うぅ……頑張って起きて〜」

 綾がさらに大きく揺らす。

「あ、ちょ待、まずいよ?落ちるよ?落ちるよ?!」

「起きて〜〜〜〜〜〜」

 綾がさらに大きく揺らす。

「わかった、わかったからそれやめよう?」

 骸が机をつかんでふっとばされないように耐えている。

「起ぎて〜〜〜〜〜」

 骸を振る速度が徐々にましていっている。

「綾ちゃん?!一心不乱!」

 骸は既に詰んでいた。この馬で大声など出しようがない。あえなく彼は床に叩きつけられた。

「わわ。骸く〜ん、ごめん、痛くない?」

「面目ない」

「何してんだ」

 駆にツッコまれた。

 全員の視線が骸に集まっている。骸は愛想笑いを浮かべ頭を掻きながら席についた。

ーーー

 日ノ本学園中学校、穴と土埃のつきまくった制服を着ている九条海斗。授業中だと言うのに、彼の机上には文房具も教科書類もなかった。異質なはずの彼の存在は、ごく日常的な、当たり前のものかのように流されていた。精々数名がニヤニヤと嘲笑している程度だ。教師に至っては無視を決め込んでいる。チャイムが鳴り、嘲笑していた3人組が海斗の襟を強引につかみ、扉の方へと引っ張っていく。海斗は汚されたカバンだけをさりげなく手に取って、無抵抗のまま校舎裏まで連れられていく。到着すると、海斗は頬を思い切り殴られ、倒れた。

「やっと抵抗しなくなったな。バカでも6年ありゃ学習するか」

「ひでえなあ、こういう地味なやつは頭だけはよかったりすんのにさ」

「ははっ、こいつの教科書駄目にしたのお前じゃねーか」

 そう言うと三人は腹を抱えて笑う。

 今に始まったことではない。初めからそうであった。九条海斗は小学生の頃からいじめられていた。加害者はその頃からずっと同じクラスであった。不自然なほど離れなかった。海斗への加害は必ず黙認されていた。海斗からの加害は看過されなかった。不自然なほどに、彼は学校内で悪意を注がれ続けた。

 家庭内にも問題があった。母は海斗が幼い頃、産婦人科の事故で亡くなった。それ以降父は何かに取り憑かれたかのように仕事に生活をつぎ込むようになった。海斗のことなど目にもくれず。

 それゆえ、海斗が人間へ向ける視線は悪意に満ちたものになっていった。

「は?こいつ何睨んでんだ?」

 三人の内一人が海斗の眼差しに気づき嫌悪の表情を向ける。

「……お前なんか死ねばいい」

「は?ふざけんなよ」

 いじめっ子が海斗の腹を蹴る。

「だいたいさぁ、先生も黙認してんだし、お前転生者候補なんじゃないの?知らんけどさ。だったら俺らのやってることは社会貢献だろ?え?」

「そうだそうだ。むしろ死ぬべきはお前だろ、海斗」

 三人組が海斗を煽った。転生者候補、都市伝説のようなものだ。教師があらかじめ転生させる生徒を決めて、自殺願望を高めさせる。政府は自殺志願者を転生者の器として募集しているので、そのための自殺志願者作りをやっているとまことしやかに噂されているのだ。

「そうか……そうだな」

 海斗の口角がわずかに上がる。海斗はカバンに素早く手を伸ばし、三人組が反応する前に、包丁を中から取り出し、刃先を彼らに向ける。三人組の表情が一気に硬くなった。

「お、おい。冗談だろ?そもそも俺等を刺しても転生するだけだろうが、刺しても意味ねぇって」

「ああ、だからこうする」

 海斗は自身の頸動脈を切った。鮮血があふれ、彼は肉塊となった。肉塊は灰色の粒子となり、逃げようとする3人組のひとりに纏わりつく。

 そのまま彼は怪人の姿へと変貌した。その姿に残った二人は恐怖し腰が抜けてしまう。

「なるほど、こんな感じか」

 海斗は新しい肉体の感触を確かめる。次に、残った二人の片方の顎を掴んで持ち上げた。体が小刻みに震えている。

「馬鹿だね。変に加担しなけりゃ復讐なんかされなかったのに」

 海斗は掴んでいる男の口に数本の触手を入れ込み、内部から体を押してバラバラに弾けさせた。血と肉塊は数秒後には灰色の粒子を放出させた後赤い塵となって跡形もなく崩れ去った。

 のこった1人が恐怖に慄き、腰が抜けたまま後退りする。海斗はそれに近づきながら、

「次はお前だ。安心しろよ、すぐに送ってやるから」

と、顔面に手を伸ばした。

ーーー

 人の気配もなく、鬱蒼とした山奥の病院から不審な男が出ていった。それから数十秒後、病院を覆い尽くす程の爆発が起きた。

ーーー

 骸は新兵器についての講習会の内容が耳に入ってこなかった、というより知っていたので聞く気になれず頬杖をついていた。もともと湊隊は新兵器のレギオンを試験的に運用していたので、改めて説明されても内容はほとんど変わっていない。故に退屈であった。

 そうして、骸がよそ見をしていると、突然スピーカーから警報が鳴る。

『千原病院にて爆破事故発生。ステージ3が出現した。湊隊出動せよ。繰り返す。

千原病院にて爆破事故発生。ステージ3が出現した。湊隊出動せよ』

「何?平松隊はどうした?」

 駆が疑問を呈すると、

「おそらく別件で手を焼いていルンでしょう、とにかく急いで」

 白衣の女性、新井が強い口調で言った。

 湊隊の面々は、すぐさま部屋を後にした。

ーーー

 海斗は教室に戻って、教師の頭を掴んでいた。ほかの生徒達は海斗の姿に怯えて逃げ出してしまった。

「ま、待て。私は、規則で決められたから……」

 教師は命乞いをしていた。

「ああ、あれ本当だったんだ。自殺志願者を意図的に作り出すってやつ。まあ、もうどうでもいいけど」

 海斗は独り言のように話しながら教師を屠った。

 教室は空っぽになった。生徒が逃げた後なので見栄え悪く散らかっている。海斗はこの後のことは何も考えていなかった。どうしようか。……取り敢えず、教科書でも貰っておくか。

 海斗は人間の姿に戻る。転生する前の姿に戻った。少し不思議に思ってもう一度変化すると、転生先のいじめっ子の姿に変わる。

「なるほど。人間態は元の姿も転生先の器の姿も使えるのか」

 再び海斗自身の姿に戻り、いじめっ子たちの綺麗なバッグと教材を回収する。

 さすがにもう通報されているだろう。幸い、クラスメイトたちは人間態を見ていない。バレないうちに、と彼は家に帰った。

ーーー

 湊隊は大型車両で千原病院へと移動していた。その中でも、骸の表情は一際険しいものになっていた。

「……爆破事故っつってましたけど、本当に事故なんですかね」

 骸はリモコンのような形状の新兵器、レギオンを握りしめていた。

「爆破テロじゃないか?数年ぶりの」

 切崎が淡々と答える。

「だとしたら許せねぇ……」

 レギオンを握る力がさらに強まり、軋むような音がする。

「骸くん……」

 綾が心配そうに骸を見つめる。そうこうしているうちに、日の上がっている場所がはっきりと見える。

「お前ら、そろそろ着くぞ。戦闘態勢を整えておけ」

「了解」

 レギオンの形状が、切崎のは拳銃型、綾のは剣型、骸のはブラスター型に変化する。

ーーー

 海斗は自宅でここぞとばかりに知識欲を発散していた。教科書を見ている。主に理科と社会。

 なるほど。転生者が殺した者は転生しないと。ただし、転生者の転生を防ぐには一旦瀕死にしてから殺すしかないようだ。

 また、2回転生すると理性のない怪物となるようだ。

 他にも、人間はステージ1、転生者1回目はステージ2、2回目はステージ3と呼ぶらしい。

 そして、ステージ2の社会的役割。人々の転生を未然に防ぐために介錯を行うのが葬儀官、ふらついているステージ2の捕獲やステージ3の駆除を行うのが治安騎士。

 後は任期を終えたステージ2を介錯したり、転生者を作るのが執行者。

「なるほどな」

 海斗は興味深そうに再びページを捲った。

ーーー

『千原病院にて2体目のステージ3の出現を確認』

 到着間際に、自動操縦ドローンからの報告が機械音声で送られた。

「チッ、2体か。ならいつも通り、俺が片方やって、切崎が救助、二人はもう片方をやれ」

「「「了解」」」

 現地は目の前に迫っており、体長5m程のもぐら型のステージ3が病院を破壊している姿と、何かを追っている体長3m程の狼型のステージ3が見える。幸い、森に炎が引火してはいない。現地に到着した湊隊は、一斉に下車して、戦闘態勢に入る。

「よし、狼は俺がやる。後はいつも通り頼む」

「「「了解」」」

 駆は両手のレギオンを剣型2変形させと翼を展開し、狼型のステージ3に急接近し、あっという間に全身をバラバラにきり刻んだ。

 その間に、綾は手から糸を出してもぐら型のステージ3と4メートル程の距離まで接近する。

「こっち見ろ」

 綾が言うともぐら型のステージ3が振り向き綾めがけて攻撃を仕掛けるが事前に気にくくりつけた糸を使って回避された。

「今だ」

 骸がもぐら型にブラスターを撃ち込み、もぐら型の半身が消し飛ばされ、傷口から灰色の粒子があふれ出す。その瞬間、綾がもぐら型に巻き付けていた糸を引き、ステージ3にとどめを刺した。

 ステージ3は2体とも赤い塵となって消滅した。

 骸はレギオンを初期状態に戻し、すぐさま瓦礫の中を探しだす。

「くそっ。誰か、誰か生きてないか」

 骸は必死に瓦礫の山をどかし続ける。いるはずだ、まだ生きているやつが。こんなことで死ななければならないなんて……。

「やめとけ骸。もうあらかた探したが、無事なやつはもういない。見つかったとしても殺すしかないだろう」

 律は冷たく言い放った。

「クソっ……」

 骸が瓦礫を殴る。

 わかっている。ステージ3の片方が人里に降りようとしていた時点で、残っている人間の数は少ないと。ステージ3はステージ2か人間しか攻撃しないから。

 骸が拳を握りしめていると、瓦礫が何かに引っ張られたように勢いよく跳んで行く。

「まだ、可能性はゼロじゃない」

 綾が糸で瓦礫を飛ばしていた。

「綾ちゃん……」

「ね、探そ」

「……2対1なら仕方ない。僕も探しましょう」

 それから、生存者の捜索が始まった。途中駆も加わり、捜索すること15分。

「いたぞ、ステージ2だけど」

 駆が少女を連れてきた。

「よかった、一人でも生存者がいて。……いや良くはないけど」

 骸は少女の悲しみに暮れた表情を見て話す。俺と同じだ。病院で得た家族たちを突然失って、ステージ2として生きることを強いられる。それを思うと素直に喜べなかった。

「そう言えば骸、爆発の原因についてなんだが、ありゃ事故じゃなくて事件だ」

 律が話した。

「何?」

「え?」

 骸と少女が同時に反応する。

「お前の懸念通り、数年ぶりの爆破テロというわけだ」

「……証拠は」

「明らかに起動後の爆弾のようなものがあった。あんなもん病院にあるわけないからな、間違いない」

 木々の揺らめく音が空間を支配した。骸の記憶が掘り起こされる。世間から隔絶された病棟、しかし、優しい医師と他人の幸せを願う仲間に囲まれていた。それなりに幸せだった。余命幾ばくとないこの人生でも、まずまず満足できると思っていた。

 しかし、それは突然終わりを告げた。2年前のこと。病気が原因ではなかった。爆破テロだった。骸は気がつけば体が吹き飛びところどころ焦げてしまっていた。死ぬわけにはいかない。あいつらの体を奪うわけにはいかない。

 しかし、肺が焼け、呼吸もまともにできない。やがて意識も薄れ、景色は暗転した。

 暗闇から解放されたのは他人の身体に移ってからである。

 病棟で燃え上がる炎が、皮肉にも真夜中の世界を照らしていた。ステージ3と、それを手にかけたサソリ型のステージ2が見えた。

 後でこれが人為的に起こされたことだとわかってから、骸は復讐を決意した。

「ふう……そろそろ引き時ですかね」

 律が駆に呼びかける。

「そうだな。後は調査隊に任せよう」

 湊隊は、爆発物についての報告とステージ2についての連絡を済ませ撤退した。

ーーー

 帰りの車両内で、律は安堵していた。正直、床間と糸井さんが捜索をし始めたときは焦った。仮にステージ1を発見しても、そいつは死にかけだろう。その場合、我々はそいつを殺さなければならない。しかし、あの2人がそれに耐えられるはずがない。律が殺すにしろ、当人が殺すにしろ、後ろめたさで精神的に参ってしまうのは目に見えている。

 だから止めたのだ。しかし、糸井さんがフォローを入れたせいで止めづらくなった。だから先回りしてステージ1のいそうなところを担当して秘密裏に殺した。

 今回はたまたま上手く行ったが、次はどうなるやら……。

あなたの死は隣人の死である。

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