第七十八節:計算通り収穫豊か
庁堂で族長の古月博は無表情で、目は深々として主座に居座る。
残り十数人の家老はそれぞれじっと座り、鼻と心に集中し、眼角の余光で左右を密かに見回し、周囲の表情から手がかりを探ろうとする。
空気は一瞬で微妙になる。
「方源が第一になれるなんて、裏には単純な理由はない。偶然に猪牙の袋を拾ったなんて、嘘すぎる」
「この袋は誰かが暗く準備したに違いない。方源一人では不可能だ。つまり、誰かが暗助している」
「今回の年中考核は往年と違う。数十人の二転蟲師を動員し監視するため、内容は学堂家老だけでなく、多くの家老が知っている」
「袋を事前に準備するなら、在席の家老、甚だしきに至っては族長自身しかできない」
家老たちは老練で政争に長け、即座に多くのことを考えた。
方正是甲等資質、四転まで育てれば次期族長だ!
方源は方正の兄で丙等資質だが、血縁だけで投資価値がある!
族長の古月博にとって、方源を暗助し自派に入れれば、将来方正との結びつきになる。
家老たちにとって、方正は唯一の甲等天才で族長派に入っている。育てれば族長派が強まるため、方源を自派に収め血縁を利用すれば、将来方正に対抗する駒になる。
故に庁堂の十数人には、方源を助ける動機がある。
だが誰なのか?
古月赤練は思索する:「俺は方源を引き抜いてない。誰が助けてる?漠塵かもしれない。方源が他家の奴隷を殺したが、奴隷などどうでもいい。族長の可能性が高い、方正を収め方源も引き抜けば、方正への支配力が強まる!ただ…往年は年末に引き抜くのに、年中に動くのは規則破りだ」
「規則破りとは言えないが、擦り寄せだ。誰が方源をこんなに高く評価してる?」古月漠塵も思索する。
実際、方源が死碗を殺し祝儀を砕いた後、漠塵は彼を刮目し引き抜きの気になっていた。
だが引き抜きは通常年末の卒業時に行うため、方源が事前に引き抜かれたのは漠塵にも不意打ちだった。
古月博の視線は、古月漠塵と古月赤練という両雄の家老に集中する。
族長は更に深く考える:方源が堂々と嘘をついて第一になったのは、無謀な行為であり、「俺は引き抜かれた!動かすな」という信号だ。
その人物は誰か?
古月一族の政局は三極鼎立、族長の他に赤練代表の赤派、漠塵代表の漠派がある。
古月博は自身が引き抜いてないことを知り、最大の容疑者は赤練と漠塵だ。
「この二人は演技が上達した。表情からは分からない。他の小勢力か?」
古月博は痕跡なく観察するが、他の家老も同じように互いを疑っていることを知らない。
学堂家老も推測するが、中立を保ち政争から離れているため単純に考える:「方源が家老に引き抜かれたのか、だから勒索要請時に方正・漠北・赤城を放った。族長か赤練・漠塵だろう。これは好事!現実を認め家族に溶け込み始めた。将来は家族のために奉仕するだろう」
沈黙が続き、古月博にも手がかりがないため口を開く:「来て往かざれば非礼だ。相手が方正に対して動き出したのなら、我々古月一族も好欺侮ではない!暗堂家老、計画を立てて報告せよ」
「遵命、族長」暗堂家老は即座に応える。
「古月方正については、変故で心が傷ついたかもしれない。甲等資質の意義は言うまでもない。今後俺が個別指導する」古月博は続ける。
家老から反対はない。
実際、族長が既に方正に特権を与えていることは周知で、公平を欠くが理由が十分で阻止できない。
「古月方源については……」古月博は意図的に調子を緩める。
一瞬、全員が耳を立てる——族長が暗助したのか?
古月博は一周見渡すが、期待は裏切られる。
「丙等資質で第一になるのは容易でない。俺の個人名義で三十個の元石を賞与する。学堂家老、彼に『頑張れ』と伝えろ」
「はい、族長」学堂家老は退く。
「三十個の元石?痒くも痛くもない賞与は何の意味?」家老たちは眉を皺める。
「誰が方源を引き抜いても、これは善意の信号だ。古月の外に白家寨・熊家寨があるから」古月博は心の中で嘆く。
方正が刺されたのは外敵、方源の不正は内闘。
外敵には強硬に対応し、内闘には柔軟に対処して、家族の実力低下を避けるのが古月博の方針だ。
「これで処理しよう。皆退いて仕事に取り掛かれ。家族の栄えは各位の活躍にかかっている」古月博は手を振る。
「はい、族長。退きます」
家老たちは次々と出て、数分後庁堂には古月博一人だけが残る。
彼は深く息を吸い、太陽穴を揉む。
族長は古月一族の最高権力者だが、多方面の利益調整が必要で自由はない。族内の勢力は代々受け継がれ、縁戚も多い。
外には熊家寨、勃興する白家寨に対処し、内には複雑な政争を処理する。中年なのに既に白髪が混じる。
「族長を務めるこれらの年、資源は豊富だが修練は進まず、家族の仕事で精神が疲れた。時々独歩の蟲師になりたい、自由で無責任で修練が進むのに……」
古月博は心の中で嘆く。
家族体制に入れば責任が生まれ自由はなくなるが、体制外だと資源が得られず独歩の蟲師は進歩できない。
これが矛盾、呪いであり、多くの前途と才能を埋めている。
王大は死んだ。
三日後、方源はその知らせを得る。
同時に江鶴から、若い狩人二人が山で行方不明になり、方源が指を折った狩人は鬱屈の末に自殺したと聞く。
江鶴は方源を見つめ意味深長に話す。彼は王大の死体を見て身元を知っているが、明かせない。
彼は村駐蟲師として責任があり、体制に入れば地位に関わらず責任が伴う。
王大が魔道蟲師になって三年も気付かなかったことは、彼の大きな失態で前途が絶たれる恐れがある。
若い狩人の死も全力で隠蔽した。
「方源、今後俺の表弟の江氏店で買い物すると五割引きだ」江鶴は方源に言う。
他の知情人は死に、真相を知るのは二人だけだ。だが暴露しても方源には大きな影響はない——彼は奴隷を殺しただけで、数十人殺しても「十数個の元石」程度の罰に留まる。
江鶴の賠償を方源は受け入れる。この事件は意外と危険だったが、結果は良かった。
この後、家族に根もなかった方源は、半分の友達と、存在しない靠山を得た。
この神秘的な靠山が、方源に第二の防護傘を与え、将来弱くなくなった時に重要な役割を果たし、少なくとも二転まで修練できるよう支える。
現在、学堂家老の態度が明らかに緩和されたことを感じられる。
十数日後、方源は方正・漠北・赤城に続き一転高階に昇格する。
勒索要請は続くが、彼はもはや三人の元石を奪わず、低姿勢になり、実力は前世以上の速度で成長する。




