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8話

 スライムの核は昨日の倍くらい取れた。

 レッドスライムも復活してたし当然確保済み。


 今更ながらスライムの核って魔石だったんだな。

 ゲームでスライムを倒すと『スライムの魔石』が出てきたし、言われてみたら当然か。


 それはともかくだ。


「やべぇよ、魔刻紋マジでやべぇ」


 これはダメだ、中毒性がある。

 そう思う程、あまりにも便利すぎた。


「おいおいおい……ゲームのニクスもこれ使ってたのか?」


 いや、使ってないはずだ。

 ゲームのニクスの手にはこんな模様はなかった。


「ぐぁああ〜……悔しいけどまた頼みたくなるぅ…!」


 あまりのリスクに絶対頼まないと思ったが、いざ使ってみたら便利な上に使用上のデメリットはない。

 そう、施術に成功さえしてくれたらメリットしかないのだ。


「お、スライム」


 手をかざして中指に魔力を込める。

 それだけで手のひらにソフトボール大の炎、『ファイアボール』が生まれる。

 それを飛んでけーと念じればイメージした通りの軌道を描いて発射、着弾。

 焼け跡には蒸発して減ったスライムの体と魔石が残っている。


「便利ぃ〜……」


 いやでもなぁ。下手したら死ぬんだぞ?

 会ってすぐの他人に命を預けるなんて正気か?俺もだが、特にニクスなら絶対ありえない選択肢だ。

 ニクスに義理がある訳ではないが、過去の境遇や未来の扱いを思えば同情くらいする。

 そんなニクスの身体を強制とはいえ継いだ俺が、ねぇ。






「シスター、今日もよろしくお願いします」


「はっはっは!そうくると思ってたよ!」


 悔しい。悔しいけど、便利すぎて身体が勝手に頭を下げてた……!


 いや聞いてくれ。

 実はボアも瞬殺だったんだよ。


 人差し指の『身体強化』。

 発動したらやばくてさ、体感で肉体活性の倍近く強化されたよ。

 逆に視力が追いつかないくらいだったからな。

 まぁ素の視力と動体視力、あと脳の処理速度もだと思うけど、それらがズバ抜けてるニクススペックだから問題はなかったけど。


 ボアと直面。身体強化。突っ込んでくるボアの横をすり抜けながら『天喰』でガンッ。終わり。


 強い……!身体強化強い……!

 その上、魔術の勉強いらず、詠唱いらず、発動速度は1秒未満。

 便利すぎる。


「まぁニクスの身体に感謝するんだね。仮にウチのガキ共に施したら、恐らく生き残るのは一人二人さね。それも精々2つくらいしか刻めないだろうよ」


「へぇ、そうなの?」


「あぁそうさ。魔力量や耐魔力に優れた強靭な肉体あっての施術だからねぇ」


 シスターいわく。

 魔刻紋を刻む事は、いわば体に直接魔術を繋いでるようなものらしい。

 だから魔術に直接晒された状態で耐えられる肉体でないと死ぬ。

 それには生まれ持った肉体スペックもあるが、過酷な環境で鍛えられる事も重要だとか。


「へぇ、ニクスも苦労したんだな」


「そうさね。でもそれだけじゃないよ、アンタも原因さ」


「俺?」


 心当たりがなくて首を捻ると、シスターはニッと笑う。


「あぁそうさ。魔力は魂から生まれるんだよ。肉体はニクスでも、魔力はアンタが生んだものさ。言ったろう?魔力に耐える肉体だけじゃなく、魔力量も重要だって」


「いや言ってたけど。これってニクスの持ってる魔力じゃないの?」


「いいや、ニクスよりも格段に多いさね。アンタが転生者だからか、それとも一度死んだからかは知らないが、なかなかの量だよ」


 へぇ、気付かなかった。転生特典的なのかな?

 言われてもみれば結構はしゃいで魔刻紋使ったけど全然問題ないし、確かに多いのかも。


「魂の強さで魔力量は増えると言われてるからね。なんにせよニクスには感謝すべきだけど、アンタの魂あっての魔刻紋さ、自信持ちな!」


 ……あぁなるほど、気を遣ってくれたのか。

 うむぅ、なんだかんだでシスターなんだよなぁこの婆さん。憎むに憎めないっていうか。


「さぁて、それじゃあ次は何を刻もうかねぇ」


「あ、じゃあ『感覚強化』が欲しいな」


「うーむ、『ウォーターバレット』か、それとも『ウィンドカッター』か……いいや『気配遮断』も捨てがたいねぇ」


「聞けや」


 選ばれたのは『気配遮断』と『ウォーターバレット』でした。患者の声を聞かない施術者である。






「……おい、ニクス」


 翌日、なんとボアを持ち帰りチャレンジに挑む事になり、しかも無事成功した俺に錆色髪の男子が声をかけてきた。


 いやはや『気配遮断』は正解だったな、見直したぜシスター。

 『身体強化』と『気配遮断』でそそくさとボアを抱えて帰ってきたよ。さすがに緊張したけど無事ゴールしました。


 そして調理場に入らないからと裏口にボアをぶん投げた後、抱えた時についた血を流したところだったのだが。

 声をかえてきた、俯いていつもの元気が足りない様子の錆色男子に顔を向ける。


「なんだ?」


「……っ、なんで肉持ってくるんだ!俺達を憐れんでるのかよ!」


 顔を勢いよく上げて叫ぶ男子に溜息を堪えられずもらす。

 いや警戒する気持ちは分かるけどね、いちいち突っかかる理由は何?

 食えるもんもらえるならそれで良くない?いちいち解明する必要あるのか?

 ……と思うが、理詰めするのは流石に大人げなさすぎるので簡潔にお答えする。


「シスターと取引してるからだよ。てめぇらを憐れんでもなけりゃ慈悲がある訳でもねぇよ。肉はシスターからのおこぼれだと思っとけ」


「っ、取引って何だ!」


「魔術を教えてもらってる」


 シスターから子供に聞かれたらこう答えろって言われた言葉でもあり、今日から事実になる予定だったりする。


「ま、魔術ってあのワケ分かんねー勉強するヤツか……!」


 すでにシスターに習った事があるのか、錆色男子はなぜか怯んだ。まるでGを差し出された女子のように後退りしていく。


「てめぇらはいつでも教えてもらえるだろ?俺はそうじゃねぇからな、対価に肉を持ってきてんだよ」


「くっ、あんなワケ分かんねー勉強はメメ姉とカレンのやつくらいしかしねーと思ってたのに……!くそっ、覚えてやがれー!」


「何をどう?」


 謎のタイミングで捨て台詞を残して走り去る男子を見届けてから、汚れをざっと流した服を脱いで絞る。

 気温はだいぶ暖かいしほっといても乾くだろう。

 けどまぁ風邪もひきそうにないニクスボディだが、一応シスターからもらった薪にファイアボールで火をつけて服を乾かす。


「ねぇあんた……ってなんで脱いでんのよっ?!」


 火に手を向けて暖をとっていると、今度は薄紫髪女子が現れて開幕テンションマックスで叫ばれた。


「乾かしてるからだよ。見りゃ分かるだろ」


「う、うるさいっ!ひ、卑怯よっ!」


「何がどう?」


 錆色男子と同じく、元気二人組はよく分からん理論を持ち出すよな。


「くっ、まぁいいわ。それよりニクス、あんた魔術を勉強してるんだってね?」


「……あぁ、まぁな」


「ふふん、わたしはすでに三つも魔術が使えるわ!どう?凄いでしょ!」


 両腰に手を置いて胸を張る紫髪女子。絵に描いたようなドヤ顔とポーズについ褒めたくなる。

 けどニクス的には違うんだろうなぁ。


「それがどうした。魔術が使えようと弱ぇヤツは弱ぇんだよ。詠唱してる間に殴ればいいだけだしな」


「なっ?!く、くぅ……!」


 お?正直これには言い返すと思ってたんだけどな。

 今の発言を理解して反論出来ず唸ってるという事は、魔術師の弱点を受け止めてるって事だ。

 こんな子供でそれが出来るのは素直にすごいと思う。むしろ評価が上がったな。


「……無詠唱が使えるようにって自慢するんだな。その時は素直に褒めてやるよ」


「い、言ったわね……!絶対褒めさせてやるんだからぁっ!」


 また去っていった。

 何で交代制で来たのかは知らんが、錆色男子と紫髪女子って似てるよな。

 見てて飽きないから実はお気に入りだったりする。


「……今日のお肉は大きいんだね」


「っ……まぁな」


 びっ、くりしたぁ。

 いつの間にいたんだよ黒髪女子よ。

 こいつはなぁ……どうも子供らしくないというか、雰囲気からして異質なんだよな。


「魔術で倒したの?」


「……いや、武器を使って倒した」


 一応誤魔化しておく。嘘ではないしね。身体強化を施したけど、そこからは武器を使って倒したし。


「ふぅん……ニクスはさ、何の属性に適正があるの?」


「さぁな」


 いや本当に知らない。

 魔術適正を調べるのはそれ専用の遺物(アーティファクト)が必要になる。

 ゲームだとスタートすぐの入学して最初の授業で適正を調べる事になるのだが、そんな希少な遺物がスラムにあるはずもない。


 ゲームのニクスは魔術は使わないしね。その代わり大量の宝具を持ってたけど。


「そっか……私も分からないんだよ」


「そりゃそうだろ。調べる方法がねぇんだからよ」


「うん……でもね、使う内になんとなく分かるでしょ?でも私、四属性全部しっくりこないんだ」


 へぇ。それは確かに珍しいかも。

 ゲームでも大抵の人は四属性、つまり火水風土のどれかに当てはまっていた。

 更に一人につき一つか二つは適正があるから、仮に片方が希少属性でももう片方は四属性になる事がほとんどだ。


 つまりこの黒髪女子は、希少属性のみ、または希少属性を複数持ってる可能性がある。

 そうなるとなかなか掘り出し物だな。将来意外と名の知れた存在になるかも知れない。


「そりゃ良かったな」


「……え?」


 いや無表情で首傾げられても。

 理由が分からないって意味ですかね?分かりにくいなこいつ。


「いや、だから良かったじゃねぇか。それはつまり希少属性持ちがほぼ確定してるって事だろ?希少属性は四属性より強力なのが多いからな」


 一応説明すると、あぁと頷いた。どうやら正解だったらしい。

 それからまた無言でまじまじと見てくるので、返す言葉が分からずにこっちも無言になる。

 結果、謎の無言空間になってしまった。まぁ話が終わりなら無視すればいいか。


「…………」


 ……さてとだ。

 実を言うと俺は錆色男子との会話以降、焦りにも似た思考ループに陥ってたりする。


 あの錆色男子は言った。

 メメ姉、そしてカレン、と。


 メメ姉は恐らくこの黒髪女子だろう。他に年上はいそうにない。

 そしてカレンも多分薄紫髪の女子だ。そう考えると辻褄が合ってしまう仮説(・・)がある。


(いやいや、そんなまさかね……だってこんなスラムの孤児院だぞ?あり得るか普通?)



 ゲームでは国を股にかける巨大商会のトップに若くして君臨する少女が出てくる。

 それは通称【紫の魔女】と呼ばれた薄紫の髪(・・・・)が特徴の少女。

 その名前をカレン(・・・)デュラ・ネフィカという。



 更にだ。

 魔物の大氾濫(スタンピード)を起こす為に暗躍する魔王という裏ボスがいるのだが。

 その配下に四天王というコテコテの四人がいて、どれも厄介な敵だった。

 その一角が個人でありながら軍でもある死霊魔法のエキスパートで、【亡哭】という名の名付き(ネームド)である黒髪(・・)の少女がいる。

 その少女の名前を、メメ(・・)リィ・モントーリという。



 おまけにおまけでだ。

 ゲームで敵味方どちらとしても登場した、金で雇われる王国最強の傭兵団が出てきた。

 その団長であり、圧倒的な剣技で猛威を振るう剣士の頂点の一角とまでいわれた【狂剣】の名付きを持つ錆色の髪(・・・・)の青年がいる。

 その名をディウス・インサニアという。



 そしてその三人が全員とも、とある匂わせなセリフを吐くシーンがあるのだ。


『虚しいわよね。いくら金を集めても……会いたい人に会う方法すら見つからない。今更気付いたわ、金なんてあっても孤独は癒えないのね……』


『私は死霊魔法を極める為に負けられないの……そしていつか必ず、あの人に会うんだ。きっと皆、それを待ってるから』


『何で俺が退かねぇかだァ……?ハッ、守りてぇ人を守れなかったオレが、今更何で退く必要があるんだってんだ!』



 加えて思い出してしまったんだが……ニクスも言ってたな。


『しつけぇよ、俺は誰ともつるまねぇ……俺なんかに優しくするようなバカは、あの人だけで充分だ』


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