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7話

「は?は、はぁああ?!」


「な、なによ、何のつもりなの?まさかわたし達をローラクするつもりじゃないでしょうね?!」


「へぇー……美味しそう。本当にいいの?」


 これがお土産にホーンラビット3匹を持ち帰った時の錆色男子、紫女子、黒髪女子のセリフである。


「っせぇな、てめぇらに持ってきたんじゃねぇよ」


 などと口悪く返して通り過ぎ、シスターの元へ向かう。


 シスターは入ってすぐの聖堂で掃除をしていた。

 すぐに俺に気付き、そして兎を見てニィッとシスターらしからぬ笑みを浮かべる。


「やるじゃないかい!問題なさそう(・・・・・・)だねぇ」


「おか、当然だろ。いいからこれで飯作って寄越せ」


 おかげさまで、と言いかけて後ろの子供達に気付いて言葉を変える。

 面倒くさいが、下手に情報が広がって転生者だとバレるとお偉い様に狙われる可能性があるんだとか。

 それに兎を見て俺の性能確認が上手くいった事も察したらしい。


「はいはい、分かったよ。それと石は持ってきたかい?」


「ほらよ」


 そう言ってシスターから預かってた小袋を掲げて揺らす。じゃらじゃらと鳴る袋にはそれなりの数の核が入っている。


「はっはっは!思ったより多いね、頑張ったじゃないか!」


 え、そうなの?まぁ探し回っては片っ端から潰したし、確かに多いかも知れない。


「うるせぇ。それより早く飯」


「口の悪いガキだねぇ。ほらよこしな」


 すでに外は夕焼けに染まっている。何気に昨日の夜転生してからずっと起きてたからか、ボス部屋で仮眠のつもりが思ったより寝てしまったのだ。


 という訳でどこかセリフじみた会話を交わしてから、兎と小袋を手渡す。

 それを持って調理場に向かうシスターの後を追おうとして。


「ニクスてめー!どこ行こうとしてんだ!」


「そうよ、何勝手に入ろうとしてるの!」


 元気な二人に絡まれた。

 仕方なく振り返り軽く睨みつけると、ビクッと怯えたように体を震わせる。

 あー……こんな小さい子をビビらせたりはしたくないんだけどなぁ。


「さっきからうるせぇよ。そんなに嫌なら肉持って帰るぞ」


 実際のところシスターととある取引をしてるので帰らされると困るのは俺なんだけどな。

 まぁ腹の減った子供が、しかも朝肉を堪能したばかりで拒否出来るとは思えない。


「「………」」


 現に二人は悔しそうに顔を歪めながらも反論はない。

 勝った、と大人げないセリフを胸中で呟く。

 

「ふん、もう用がないなら入るぞ」


「あ、待って」


 口を挟んだのは黒髪の女子だ。

 相変わらず年齢に見合わない落ち着いた雰囲気で、妙な圧迫感がある子だ。


「……なんだよ」


「ニクスは教会に入りたいの?」


 黒髪女子からの質問に首を捻る。


「いや入れねぇよ。そんな事も知らねぇのか」


 ヤンチャすぎるニクス君は犯罪歴もあるらしいからな。入るとシスターや子供達に迷惑がかかる。


「知ってる。ただ、入りたいのかなと思って」


「んなワケあるかよ」


「……そ」


 それきり黙ったので、もういいかと今度こそ調理場へと向かった。

 




「さて、手伝いな。早く終わったらその分早く取り掛かれるからね」


「了解です。てか全部たべるんですか?」


 調理場に着くと、早速手早く捌いているシスターがいた。

 三匹いるから速度を上げたのか、朝のそれよりも更に速い。


「捌いて部位ごとに切り分けるまでは全部やるけどね。食べるのは一匹と半分だよ」


「あー、残る半分は明日の朝ですか」


「そうさ。そして明日の晩までにまた何か獲ってきな」


「人使い荒いですね……」


 苦笑しながらシスターを真似して兎を捌いていく。

 体調50センチくらいの兎に、内心悲鳴を上げつつ包丁を入れていく。

 魚とは違うグロさがあるなぁ……まぁ覚えておいて損はないし、ここは頑張りどころか。


 それからシスターのアドバイスをもらいながら解体していき、無事一体を捌ききる。ちなみにその時点でシスターはとっくに二匹とも捌いていた。


「しっかしボアは獲れなかったのかい?」


「いやそもそも挑まなかったんですよ。勝てるか微妙なのもそうなんですけど、もし勝っても持ち帰れないって気付きまして」


 そう、コソコソ移動してる俺がボアなんて巨体を引きずって歩けばすぐ見つかるからな。

 だったら転生してすぐに無理に挑む必要もないと戦いを避けた訳だ。


「まぁそうだねぇ。魔法鞄(マジックバッグ)でもあればいいんだがウチにはないしね」


 魔法鞄か。ゲームでも必須のアイテムだったな。

 初期インベトリだと大して持ち歩けないんだけど、魔法鞄があればぐっと増える。要はインベトリ拡張アイテムだ。

 ゲームの効率を考えるとマストアイテムだった。ただし、それなりに値段はしたが。


「それよりスライムの核ってどうするんです?塩の買い足しとかですか?」


「あン?言ってなかったかい?あんたに魔術をくれてやるって言ったろ、それに必要なのさ」


 そう、シスターとの取引とはこれだ。

 魔術を教えてもらう事。代わりに、肉やスライムの核をとってくる事が条件だったのだ。


「魔術の勉強にそんなものがいるんですね」


「いーや?勉強にゃあ必要ないさね」


 思わず包丁が止まる。

 え、いらないの?どっちだよ。


「あたしは『魔術をくれて(・・・)てやる』って言ったんだ。他の奴ならともかく、アンタならこっちの方が余程早い」


 ニィと山賊よりも悪い顔で笑うシスターに頬が引き攣る。


「……禁忌な手法とかじゃないですよね?」


「はっはっは!そんな訳ないさね、ただ珍しいだけさ!」


 ほっと胸をなでおろすと、シスターはくつくつ笑いながら続ける。


「下手な奴がやると最悪死ぬからねぇ。そりゃ珍しいさ」


「やっぱキャンセルで」


 俺のお願いは、ケラケラ笑うシスターの笑い声によって聞き流されてしまった。






 下処理を終えて具材も入れ、あと火が通るのを待つだけとなった鍋の横で。

 シスターが俺の手をとり、反対の手にレッドスライムの核を持って立っている。


「あ、あのぉ……すっげぇ怖いんですが」


「ふぅん」


「ここまで聞く耳持たれたないといっそ清々しいな!」


 まるで話を聞かないシスターは、俺の言葉に返事すらせずに核を俺の指に沿わせる。


「ほう……アンタなら十指全部刻んでも大丈夫そうだ」


「刻む?!おい待てヤンキーシスター!いい加減説明しろぉ!」


「はっはっは!ニクスの演技ばっちりじゃないか」


「素だよ!」


 思い切り手を引き戻そうとするが全ッ然動かねぇ!なんつー馬鹿力してんだこの婆さん!


「おら、クソガキ。集中するから大人しくしてな。死にたくなかったらね」


「く、くっそぉおおお!」


 なんてマイペースなババアだ!年上の御年配だからって敬語だったけどもう二度と使わねぇからな!


 それから逃げれないし下手したら死ぬらしいから天に祈りながら大人しくした。

 生き残ったら一発くらい殴ると内心叫んで怯える気持ちを押し殺す。


 それから10分ほど、鍋が仕上がった頃にふぅとシスターがため息をこぼした。


「よし、とりあえず今ある分の魔石だとここまでだね。ほれ、喜んで礼を言いな」


「っせぇ!悪いが一発殴らせろぉ!」


 御年配にダメだとは分かってるけど多分許される。

 いつぞや言ったが、俺は決して善人じゃねえんだよ!


「ほいっと。まだまだヌルいねぇ」


 しかし俺の拳はあっさりと掴まれた。

 ……もうやだこのばーさん、マジで何者だよ……。


「さて、体調も問題ないみたいだね。さすがあたしだよ、完璧な〝魔刻紋〟さね」


「……魔刻紋?」


「あぁそうさ。いわばアンタの魔力の通り道に直接繋いだ魔法陣さ」


 やっと。やっと聞けた説明いわく。

 人の体内に広がる魔力の通り道、その出口に魔法陣を体に直接刻んだものが魔刻紋という。

 完成された魔法陣であり、魔力が繋がってるので、そこ魔刻紋に魔力を込めるだけだ魔術が発動するという代物だそうだ。


「え、強っ。そんなのあるの?」


 少なくともゲームにはなかったぞ、こんな便利な技。


「出来る奴が少ないんだよ。余程の魔力操作技術と魔法陣の知識がないと施された奴は魔刻紋から魔力が抜けて死ぬしねぇ。あと受ける側も頑丈じゃないと魔力の通り道と魔法陣を繋ぐショックで死ぬさね」


「………」


 絶句である。

 メリットに対するデメリット、いやリスクが吊り合ってない。

 そりゃ少ない訳だよ。施術者も少ない上に、受けようって奴も絶対少ないはずだ。


「おいばあさん!そんなクソ重たいリスクがあるのに説明なしにしやがったのかよ!え、何?俺さっきまでそんな死の縁にいたの?!」


「おっと、敬語忘れてるよ?」


「わざとだよ!こんなんされて敬えるか!」


 久々にガチギレしたが、シスターは楽しげに笑うばかりだ。くっそぉ、とんでもねぇ婆さんだ。


「素がそれかい。良いじゃないか、これからはずっとそれでいきな。この世界でへりくだった敬語は浮浪児のアンタにゃデメリットしかないよ」


「……分かった、そうする」


「それでいいさね。とにかく、あたしなら完璧に施術してやれる。指に刻むから精々初級だがね」


 改めて見ると、右手の人差し指と中指にぐるっと一周魔法文字が描かれている。

 虫眼鏡いるだろってくらい細かい文字が8の字を繰り返すように連なっており、その丸の中にも何か模様が描かれている。パッと見だとシャレたタトゥーに見えなくもない。

 

「ちなみに中級以上は刻めないのか?」


「刻めるがねぇ、情報量が跳ね上がるから、片手が文字まみれになるよ」


 う、うぅん……それは確かになんかイヤだな。


「まぁ魔力容量の多い目とかに刻むなら上級だろうと入るだろうさ。難易度と危険度が増すし、成功しても視力を失う可能性もあるがね」


「失明を成功の範囲に含むなよ」


 まぁ中級以上が使いたくなったら正攻法で覚えればいいか。本来そのつもりだったし、ショートカットで発動できるコレがむしろ想定外なんだし。


「ちなみにこの魔刻紋の魔術は何?」


「あぁ、人差し指は『身体強化』で中指は『ファイアホール』さね。明日試してみな」


「……分かった」


「気に入ったら追加で刻んでやるよ。魔石と肉はたっぷり納めてもらうがね?」


 絶対頼まねぇよ。


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