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3話

「………ぅ……?」


 身体の痛みで目が覚めると、妙に明るい空間に居た。

 

「っ、ここは……?!」


 痛みを訴える身体を無視して転がるように起き上がる。

 その時濃い血の匂いがして咄嗟に振り向くと、ボアがぐったりと倒れていた。


「……死んでる、のか…?」


 血の匂いはボアのものらしく、今も口から血が流れ出ている。着地で失敗して内臓をやったのかも知れない。

 

 とにかく、この上ないチャンスだ。


「今のうちに逃げる……!」


 流石に死んではいないだろう。なんせ俺が生きてるんだから。

 大ダメージで気絶してるボアに、今なら逃げ切れると走ろうとして。


「……なんだ、ここは…?」


 周囲をやっと目視して、この部屋の異様さにようやく気付いた。


 純白なつるりとした石にも陶器にも見える材質の床や壁。天井は落ちてきた穴以外は隙間なくみっちりと謎の文字が描かれている。

 先程までの薄暗さもなく、太陽の下とはいかずとも俺が住んでたマンションの照明くらいには明るいのに、光源は見当たらない。


 俺のゲーム知識にもない、意味不明な場所だ。


「なんだここ……?俺が取りこぼしたサブクエストとかに出てくる場所か?」


 思いつくとしたらそれくらいだ。いや、もしかしたらゲームと無関係な場所かも知れないけど。


 よく観察してみると、直径10メートルくらいの円型の部屋だ。上階の落とし穴は中央に位置しており、その真下ーーボアが倒れている部屋の中心みたいだ。

 出入口は一つで、取っ手すらない扉がある。

 そしてボアの下の床には、ボアのせいでよく見えないけど天井と同じ文字が描かれていた。


 そうして観察していた直後ーーガコン、と無機質な音が響く。


「っ、何だ……?!」


 痛みと疲労で震える足に力を入れて警戒していると、変化はとても分かりやすかった。


 ボアの身体が地面へと沈んでいったのだ。


「なっ……!」


 あまりに非科学的なーーいや今更だけどーー現象にゾッと背筋が冷たくなる。

 音なくゆっくり沈んでいくボアは、最期まで声を上げることもなく無音のまま消えていった。


 怖い、怖すぎるだろ!

 何が起きた?分からない、分からない事ばかりだ!


 未知は恐怖とは言ったものだ。

 何も分からない怪奇現象を目の前にして鳥肌が止まらない。


「っ、こ、今度は何なんだよッ……!」


 俺を脅かしたいのか、次は天井の文字がぼんやりと光り始めた。

 ある種幻想的な光景なんだろうが、今はその淡く光る赤い光は先程まで見ていたせいか血を思わせ、否応なく恐怖を掻き立てる要素でしかない。

 更にボアを飲み込んだ床の文字も同様に光を放ち始め、明るかった部屋が赤く染まる。


 呼吸が浅くなり、身体が震える。

 今ならホラー映画で悪霊に追い詰められた被害者の気持ちが分かる。身体が怖くて動かない。


 そんな俺に告げるように、無音だった空間に音が響いた。


『条件の達成を確認。〝天使への生贄〟をクリアしました。報酬を選んでください』


 機械的な口調だが、声音は女性のものだと思う。

 迷宮に入る時に聞いた転生責任者らしき声より余程人間味がある。


「…………はぁ〜〜…」


 ドッと力が抜けた。

 拍子抜けした感覚と安堵も相まってその場に座り込むくらいには力が抜けたよ。


 やっぱりこれ、なんかのサブクエストだったか。


 記憶にはないし、攻略サイトでも〝天使への生贄〟なんて知らないから確信はないけど、他にも思い当たらないし。


 そう考えてると、ガコンと音がした。

 

「っ、おおビックリしたぁ……」


 見れば、ひとつあった出入口とは正反対の方向、それと直角の二方向の三箇所の壁が開いていた。

 出入口を12時として3時、6時、9時の場所に開かれた壁には、それぞれのアイテムが収まっている。


「あー……なんだっけ。確か『祝福の大楯』と『流血の籠手』と……何これ?」


 3時方向の壁にある『祝福の大楯』はゲーム中盤で出てくる盾で、状態異常耐性がついてたはず。

 その正反対、9時方向の壁の『流血の籠手』はこれもゲーム中盤に出るHPが減った分攻撃力が増す武器だ。


 どちらも悪くない装備だけど……サイズがね?

 大楯は2メートル近い縦幅だし、籠手は大人用のサイズだから確実にブカブカだ。


 では残る一つ。出入口の正反対にある6時方向の壁はというと。


「棒……?いや銃?……こんなのあったっけ?」


 シルエットでいうなら長さ1メートルと少しーー1、3メートルくらい?の真っ直ぐな棒だ。

 取手(柄?)は幅3センチ程で俺でも握れそう。それが全体の4分の1程で、残る4分の3は少し厚く幅5センチ程くらいか。

 これで上部分が刃になってれば剣や刀みたいな造りだが、その刃部分になるはずの箇所は筒状の棒でしかない。

 なら銃かと言えば、持ち手は銃のように持ち手が曲がりもせず真っ直ぐだし、シリンダーやトリガーもない。


「やっぱただの棒かこれ?」


 用途が謎すぎるが、しかし現状これしかまともに使えそうにない。

 大楯や籠手は持ち帰っても使えないどころか重くて邪魔になる未来しか見えないし、だったらせめてコレを貰うべきじゃないだろうか。


「……間違ってないよな?頼むぞ、ほんとに。せめてデメリットのない武器であってくれ…!」


 単純にマイナス効果だけの武器は少なくともゲームではなかった。

 とはいえハズレ武器と呼ばれる物もあって、例えば『攻撃力が2倍、防御力と敏捷が9割減』みたいなヤツだ。


 最悪なのは加えて『◯◯のクエストクリアまで装備解除不可』の類だ。要はそのイベントで強制装備させられる武器である。


 それがゲームなら「めんどくさ」で済むけど、現実だとどれだけのデメリットがあるか想像しただけで滅入る。

 例えばそのクエストが仮に本編開始の10年後なら?ガチで手から離せない呪いでもあって日常生活でも持ってないといけないとしたら?ね、怖いでしょ?

 とはいえ、死亡フラグ乱立の俺にはせめて武器が必要だ。


 迷宮の装備は『宝具』と呼ばれ、職人産の『通常武器』や『魔術武器』と呼ばれる効果付き武器よりも軒並み優れた性能を誇る。


 ゲーム中盤レベルの『宝具』を超える『魔術武器』となるとゲーム後半でしか出てこないし、当然超高額だ。

 つまり将来的にはともかく、少なくとも今の俺にとっては身に余る程高性能な武器だと言える。


「っ、よし貰う!貰った!」


 意を決して謎の棒を掴む。

 それと同時に『祝福の大楯』と『流血の籠手』が収められていた壁が塞がった。この一つだけ選ぶパターンはゲームではよくあったので驚かない。さよなら防具達。

 

 さて、恐る恐る棒を取り出すと、重さはそれなりにあるが振り回せない程ではない。とはいえ筋トレは必須な重さではあるが。


 肉体的にも変化はなく、攻撃力アップといった効果は無さそうだ。多分。

 棒を色んな角度から観察していると、持ち手である柄の底と、筒になってる穴の中にそれぞれ謎の文字が刻まれている事に気付く。


「この文字ってやっぱ魔法文字なのかね。ゲームじゃ演出程度しか見てなかったけど」


 魔法陣や魔術武器に刻まれるのが魔法文字だ。

 これを理解しないと魔術が使えないという設定で、だからこそ魔術師は限られた者しかなれないんだっけ。

 

 ゲームじゃ魔法文字を日本語訳した説明なんかもなかったし、単なる演出や見栄えが良くなる絵くらいにしか見てなかった。

 なので刻まれた魔法文字の意味は当然分からない。


「魔力を流せば発動するってのは知ってるけどさ」


 肩をすくめて柄の底に刻まれた文字を爪でカリカリいじりながらぼやく。

 魔術師でなくとも、すでに発動出来るよう刻まれた魔法陣や魔術武器なら、魔力を込めるだけで発動する。

 でないと殆どの人が魔術効果とは無縁の脳筋集団になるからね。そんなバラエティに欠ける登場人物ばかりでは製作陣も困るだろう。


 まぁ魔力の使い方とか知らんけど。


 とある世代の一部男子なら幼少期に気をコントロールして波を撃つ訓練をしたと聞くが、俺は残念ながら使いこなせない。

 緊張と恐怖を繰り返して火照る身体の熱を注ぐイメージをしてみるくらいだ。

 そんなお遊びはともかく、そろそろ脱出しないとだな。少なくとも階層が違うから苦労するだろう、し……?


「っえ?えぇっ?!」


 消えた。棒が消えたァ!


 え、何で?!いきなりシュンっと消えたんだけど?!

 どどどうして?消耗品だった?それなら効果は?何も変わってないけどぉ?!


「ん?……んん〜?」


 ふと気付いたが、カリカリいじってた右手、その手首に魔法文字らしき紋様がぐるっと一周描かれている。

 ……これが犯人か?


 とりあえずその模様を睨んだり、触ったりするが変化はない。

 なんだこいつ……と思いかけ、ふと火照った熱が移るイメージをしたことを思い出す。

 思考の片手間でやったからちゃんと覚えてないけど、それっぽいイメージを意識してみる。 


 すると。


「出てきた!……はぁ〜焦ったぁ」


 無事出てきた。

 消えた時のようにシュンっと現れて右手に収まっている。

 マジで心臓に悪いわ!いきなりロストしたかと思ったっての!


「まぁいい、収納機能がこの棒の効果なんだろ」


 直接プラス効果がある特性ではないが、便利なのは便利だ。リアルだと特に。

 まぁ銃か棒か分からないが、少なくともぶん殴る事は出来るし、持ち歩かなくていいから楽な上に不意をつくくらいは出来そうだ。


 まぁ他の武器があれば絶対欲しいけどね。やっぱ剣とか刀が良いし。良い歳になっても憧れはあるのよ。ロマンだよね。


「……さて、とにかくここを脱出しようか」


 この迷宮は俺がゲームで触らなかった場所なのは間違いない。だってこんな武器ゲットしてないし。

 

 ボアが一番最初に出るって事は、せいぜい危険値20くらいのはず。初級に毛が生えた程度だし、騙し騙しやれば脱出くらい出来る……と思う。

 一応武器も手に入ったしね。

 

「あ」


 いや待て。飯探しに来たんだった。

 今思えばボアが飲み込まれたの痛いな。かなりの肉がとれただろうに……。


 つっても走り回ってボアしかいなかった訳だし、かなり討伐されてる迷宮なんだろう。

 つまりボアより弱い魔物が出るとしても、既に狩られている。


 迷宮は魔物を産み落とすが、その速度は一定だ。

 一度倒せばしばらく出ない。むしろそうでないとスタンピードを抑える事が出来ない。

 スタンピードはこうして間引きされずに溜まった魔物が、その迷宮の許容魔力を超える事で『迷宮の顎』が壊れて外に出てくるようになる現象だ。


 そうなると本来一定のペースで産み落とされるはずの魔物が、迷宮の魔力が尽きるまで間を置かず連続で産み落とされ、そして地上へと出てくる。

 迷宮という謎施設には膨大な魔力が宿っており、それが尽きるまでに生まれる魔物の数はまさに大厄災と呼べるもの。


 というのが設定だった。

 閑話休題。


 話は盛大に逸れたが、とにかくこの迷宮での飯はあまり期待出来そうにないな。

 まぁ命あっての物種だし、脱出してから考えよう。




 それから無事脱出出来た上に、たまたま見つけたホーンラビットをゲットしちゃった。

 運って良い時と悪い時があるんだなと思ったね。


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