18話 閑話
「ほらよ、宝具の素材になる魔石、魔物の部位だ。これを元手にしろ。また追加でくれてやるから遠慮なく使えよ。……あ、それと服買ってやるからついてこい。見栄えを良くするだけで相手は話を聞くようになるしな」
こんな会話をしたのが4年前だ。
その金で錬金術の教本を買って早々に習得すると、魔石や素材で色々な魔術道具を作り出し、それを販売し始めた。
瞬く間に売上を伸ばし、そして王国籍を手に入れて姓を持つに至り、ネフィカ商会の名前であるカレンデュラ・ネフィカとなった。
それが3年前のことだ。
そこからは早かったな。
調薬にも手を伸ばしたところ、やはりと言うべきかあっさり習得して商品の幅を増やした。人を雇って規模を広げ、興味の赴くままに服屋に始まりアクセサリーや宝石屋とどんどん手を伸ばしていった。
しばらくは赤字の事業もあったそうだが、切り捨てることはなく悔しそうに勉強と研究を重ねて商品開発を続ける内に黒字になり、三年経った時点で王国でも五本指に入る大商会となる。
才能と努力に、負けず嫌いを加えた結果をこれでもかと見せつけられた。
そうして急激な成長を遂げた商会がやっと一息つくように落ち着きだすと、今度は冒険者を兼業し始めた。
すると自身がランクを上げるだけではなく、目についた冒険者をスカウトをしていき、人気ダンジョンや開拓地へと出張するようになる。
迷宮専門の冒険者である迷宮冒険者や、開拓地専門の冒険者である開拓冒険者になぞらえて、『迷宮商人』や『開拓商人』と銘打って、ダンジョン内に露天を開くというぶっ飛んだ商売を始めた。
そうして4年経った今、ついに王国で一二を争う巨大商会の長となった。
「ねぇニクス、フィンテ子爵領にある迷宮が魔物の間引きが間に合わないらしいの。そこに迷宮商人を派遣するから、貴方もついていってくれない?」
ネフィカ商会王都支部。
ちなみに王都なのに支部なのは、ウィトゥルム侯爵領に本部があるからだ。そう、クラウスの家の領地であり、俺達がいたスラムもそこになる。
まぁそれはともかく。
カレンに呼ばれて王都支部に呼ばれて顔を出した。
応接室なんかは豪華なんだけど、商会長の執務室はそうでもない。調度品も絵画なんかもなく、シンプルな代わりに魔術道具や大きな棚などが置かれて機能性は高い。
そんな部屋に入ると、前置きなしで依頼してきた。
実はこれ、ここ一年間で定期的にあった事だ。
「別にいいけどよ、たまにはディウスに行かせたらどうだ?」
「ディウスだと万が一があるでしょ?あんたなら絶対負けないし、そもそもあんたに頼んだらディウスやメメもついてくじゃない」
「ついてくる確率が高いのは否定出来ねぇけど、絶対負けないって事はないぞ……」
「ありえないわよ。それに、いいでしょ?各地の迷宮の情報が入るのはニクスも助かるわよね?」
これはカレンが俺に依頼をするようになってきた少し前に話した事だ。
『カレンについては、もう十分ババアからの借りを返したかもな。もう俺ァいらねぇだろ?そろそろ各地の迷宮の間引きもしたいしよ』
そう言った時は「待って」と言われて、その数日後に迷宮商人なんて商売を始めたんだったな。
そして定期的に俺に依頼を出し、代わりに迷宮の情報をくれるようになったワケだ。
「まぁ……助かってるはいるがな。やっぱ人員抱えてると強ぇよ」
四年前は人を信じて任せるなんて有り得ねぇと思ってたけど、アイツと話したりカレン達と話す内に少し考え方が変わった。
――少なくとも、カレン達くらいは信用していいと思えるようになれた。
「そうね、人員と人脈は有用な武器だわ」
「だよなぁ……俺も部下集めるかな」
部下や人員というなら、カレンやセレナは言うまでもないが、先日の剣技大会からディウスにさえ付き従う若手冒険者のグループが出来た。
今は大した事のない集団だが、人に合わせて技を教えるディウスならその内屈強な集団に変貌させるだろう。
そしてメメに至っては迷宮についてきてボスを倒す度に死霊にしてストックしている。
たまにやられて減ってるが、それでもすでにボス級で数百、雑魚を含むと数千の軍勢をストックしてるはずだ。
となるとだ。
俺にも部下みたいなのがいていいんじゃないか?
カレン達ほどじゃなくても、いつかは信用出来るようになりそうなヤツを選べばいい。
しかし。
「は?ふざけないでよ」
何故かカレンが反対してきた。
「ふざけてねぇよ。普通に現実的な案だろうが」
「そうじゃなくて、必要ないでしょって話よ」
いや今必要だって話をしてなかったか?
アイツ経由で知った事だが、俺は将来使い捨てのスタンピード対策キャラという立ち位置になるらしい。
それを生き残る為にアイツは仲間を集めようとしていた。
当時はどんな理由であれ、いつ裏切るか分からねぇ仲間なんてもん必要ねぇと思ってた。
けど、こいつらのおかげでその考えも変わってきてる。
「俺一人じゃ死ぬかも知れねぇんだ。部下がいて生き残れるなら集めるのも手だろ」
「……私がいるでしょ」
ひょっこり現れたメメが頬を膨らめせている。
ただ言ってる内容はズレてるけどな。
「アホか、お前は部下じゃねぇだろ。それにババアの礼を果たした後は好きにすりゃいい。俺の都合に巻き込むつもりはねぇよ」
スタンピードを抑える為だけの使い捨てキャラ。
そんなのに巻き込んだら、それこそババアに顔向け出来ねぇよ。
「つーかメメも好きにしていいんだぞ?それくらいの力はつけたし、冒険者として名も売れてるだろ」
カレン同様、メメも力をつけた。
死霊魔法の教本ーーというより魔術本を、アイツのゲーム知識でダンジョンから手に入れた。
教本は人の書いたいわば教科書だが、魔術本は魔法陣が描かれたページが既に書かれているものだ。
つまりそれさえあれば詠唱を暗記する必要がない。適正と魔力さえあればすぐに扱えるのだ。
その魔術本は特にレアリティ?とやらが高い逸品らしく、死霊のストックも可能で、現在メメが集めた死霊も魔術本に収められている。
そうして死霊魔術という武器を手にしたメメはめきめきと頭角を現して、すでに冒険者ランクはゴールドだ。
ゴールドは中堅にあたり、見た目の良さとランクに不似合いな若さもあってか、メメはステライト王国ではそこそこ知られた存在になっている。
ちなみに冒険者ランクは上からオリハルコン、ミスリル、プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズ、アイアンだ。俺はプラチナな。
「やだ……まだまだ色々教えてもらいたい」
「……まぁ、それなら仕方ないか」
ババアに任されたし、こいつらにはそれなりに情も沸いてる。だから必要とされる内は応えるつもりでいる。
それでも、主人公とやらが動き出して俺が使い捨てられる時期までだけどな。
その時期になったら離れるつもりだ。
とは言え、このペースで成長するならそれまでにお役御免だろうがな。
「ニクス、わたしもだからね。まだまだ開拓商人や迷宮商人としての事業は安定してないもの」
「はぁ……はいはい、じゃあフィンテ子爵領な。他の冒険者の稼ぎを奪いすぎない程度に間引けばいいんだろ?」
「ふふ……そうよ。危険値50程度の迷宮だから居ないとは思うけど、ゴールドランクが対応できない魔物芽がいたら確殺でよろしく頼むわね」
「単体はいねぇだろうが、雑魚でも群れるタイプならゴールドでも手に負えないかも知れねぇしな……まぁその時は群れの頭を潰すか。ま、任せとけ」
「うん、ありがと。ちゃんと報酬も払うわね」
「ああ、ただし適正価格でな」
カレンは過剰に寄越してくるからな。法外とまでは言わないが、明らかに多い額をだ。
「あのね、いつも適正価格よ。あんたが自分の価値を分かってないだけ」
「身内贔屓も程々にしとけ」
俺を丸め込もうとでもしてるのか、おだてようとするカレンに言い捨てて部屋を後にする。
後ろからぎゃーぎゃーカレンの声が聞こえてくるが、こうなったカレンは無視に限る。
「さて行くか。メメは…」
「行く」
被せ気味に答えられ、二の句が詰まった。
……まぁいいか。危険値50程度ならメメ一人でも問題ないくらいだしな。
「……じゃあ荷物を用意したらすぐ向かうぞ」
「うん」
馬車で二日の移動して即日冒険者ギルドに顔を出す。
迷宮の状況確認とネフィカ商会からの依頼で間引くことを事前に報告する為だ。
「あ、見ない顔ですね。依頼の受注でしたら冒険者証をお見せください」
スラム近くの冒険者ギルドと違って女性が受付していた。やっぱり治安の問題なのかね。
「いや、受注じゃねぇんだ。ネフィカ商会からの依頼で迷宮の魔物を間引く。王都の本部には伝えてるはずだが、ここのギルド支部にも報告しとこうと思ってな」
そう言って冒険者証を見せて、メメにも見せるよう合図する。
そして受付嬢がメメのそれを見た瞬間目を丸くした。
「えっ、メメさん?!って、それじゃあもしかして貴方があの『狂気の統率者』ですかっ?!」
は?なんて?
「なんだって?!あの噂の?!」
「うわマジだ、メメが付き従ってる!あの噂は本当だったのか……?!」
「おいアレ、こないだの剣技大会の優勝者じゃねぇか?」
……すげぇ騒がしくなってる。待て待て、何だよこれ。
「あっ、いやっその、失礼しました!」
「いやいい……ただ、なんだその意味不明な呼び名は」
「その……『剣狂い』や『通り魔』と呼ばれる傍若無人な剣士と、『死体漁り』や『人型のリッチ』と呼ばれてる唯我独尊な魔術師が唯一素直に従う人がいるって噂があり、そこからそんな呼ばれ方が……」
「………」
メメを無言で睨むと、すっと顔を逸らされた。
「……緊急で俺からギルドに依頼なんだが、その呼び名がなくなるよう根回しを頼む。金貨10枚くらいでいいか?必要なら倍払う」
「大金すぎる?!目がガチ!!いやそのっ、すみませんがギルドではそのような依頼は受けつけてませんっ?!」
帰ったら二人とも説教だな。
「おいおい、一階層から多いな」
迷宮は階層を下る程魔物が増える傾向にあるのだが、一階層でこの密度とはな。
だいぶ魔物が増えてるし、放っておいたら一月待たずに魔物の大氾濫が起きてもおかしくない。
ちっ、子爵とやらめ。手配すんのか遅ぇよ。
「しかも森林タイプの迷宮かよ……面倒くさ」
迷宮にも種類はあり、スラムの頃の建造物タイプや洞窟タイプの他に、ここのような森林タイプ、酷いのだと海タイプや空中に島が浮かぶ浮遊島タイプなんてのもある。
そして森林タイプは動物系の魔物が出やすく、メインが鳥系や狼系だと非常に面倒なのだ。
鳥は飛ぶから攻撃が届きにくいし、狼は群れる上に素早いから危険。猿系も下手な知恵があるからうざったいが、戦闘力に欠けるので狼よりはマシだ。
ではこの迷宮はといえば。
「狼系か……」
「グレイウルフ種だね……私の出番?」
「……だな、任せていいか?」
「うん……ばっちこい」
無表情で抑揚ゼロのばっちこいをもらい、俺はメメの後ろに下がる。
メメは魔術本を取り出すと、それに魔力を込めて呟く。
「……『死霊召喚』」
メメの足元にぶわりと黒い魔力が膨れ上がり、そこからは数える気にもなれない数の骸骨がわらわら這い出るわ出るわ。
あっという間に大軍勢となったアンデット達が視界を埋め尽くす。
「……魔物を仕留めて」
死霊の大軍勢の司令官であるメメが告げると、返事もなく(喋れない)行動を開始する。
森の中にカシャンと硬質な音を立てながら入っていき、各地で狼の遠吠えや悲鳴が聞こえてきた。
「……どう?私がいると助かるでしょ?」
「だな。俺は数や範囲攻撃は持ってねぇし」
広範囲への攻撃がネックなんだよな。
魔刻紋もタメ無しで撃てる利便性はあるけど低威力なものばかりだし。まぁ最近は組み合わせる事で威力や汎用性を高めてはいるが、まだ範囲攻撃に至る手段は見つけれてない。
「ふふ……私にはニクスが必要。ニクスは私が必要。一緒にいたら完璧」
「あん?まぁ完璧かはともかく、冒険者として組むならメメが一番だな」
ディウスは対単体の近接戦闘の剣士。俺と一番似てる。
カレンは宝具や魔術武器を駆使して近距離から遠距離までこなす万能タイプだが、魔力量の問題で広範囲への攻撃は不得手。
よって組んだ所で戦力は上がれど、苦手を補い合う形にはならない。
じゃあメメはというと、対多数の極致だが、代わりに数で押し切れない強力な単体が出るとそこでお手上げになる。
メメ本人も弱くはないが、三人の中では一歩劣る。メメのランクがゴールドなのもこれがネックになってるからだ。
だからこそ、この三人が組めば大抵の状況に対応できる。特にディウスとメメは弱点を補い合えるしな。
今はディウスの代わりに俺が組んでるけど、条件はほぼ同じだ。
「むふ……そろそろパーティを組も」
「ディウスと組めよ」
この会話を何回したことか。
「それより全滅させるなよ?そこそこ間引いたら次に行くぞ」
「ん、分かった。もう結構減らしたらから進も?」
「おう、ありがとな」
その後も結局ほぼメメが片付けた。
………カレンからの報酬はメメに渡そう……。




