17話 閑話
「結局誰も間に合わなかったな」
「うるっさいわね!そういうアンタもじゃん!」
「くっそー!俺だけは間に合うと思ったのにぃー!」
セレスが去って4年。
去り際に三年だの二年だの、中には一年半とか言ったヤツもいたのにな。
「……私のは、ニクスのせい。だってついてくだけだもん…」
「ほお。うっかりそうだと思わされる詭弁だな」
タチ悪いよこいつ。
全員栄養もとれてるあらか、4年前と比べて身体も見違える程大きくなって、その分力や魔力も増えた。
見た目もガキから少年少女くらいにはなってる……カレンが小さいのは変わらずだが。いや一部はでかいが。
アイツの感覚からしても年齢の割に大きいらしい。異世界の差か、人種の差かは知らないけど。
「でも俺とアニキは会えるからな!」
「まぁこれはセレスのおかげだな」
今年から生まれた平民向けの剣技大会がもうじき開催される。
手紙が届いたのだが、かなりセレスが押し込んだらしい。
ーー現在魔物の活動が活性化しており、各地の税収も落ちています。元帥、治安や防衛に影響が出てますよね?騎士は基本王都を離れない貴族で構成された組織であるならば、各地の防衛戦力を底上げして治安を安定させるのは兵士です。地方が安定すれば生産量も安定するでしょう、ねぇ財務大臣?しかし騎士は基本王都を離れない、ですよねぇ騎士団長?であれば平民から募集となりますが、無闇な徴兵は反発を生みます。ですので自発的な募集を促す事と、有望な平民を見つける為の催しとして剣技大会をここに提案します。これに触発される平民も多いでしょう。それに催しとすることで経済も周ります。あぁ、勿論私が仕切りましょう、暇で仕方ない王位継承権6位ですもの。それで、大きなデメリットはないと思われますがどうでしょう?……ねぇ?
とか言ったらしい。
しびれを切らしたセレスからの呼び出しみたいなもんだし、これを蹴るワケにはいかねぇわな。
参加は平民のみで、冒険者から傭兵と職は一切問わず。
トーナメント戦であり、決勝戦まで残った二人、つまり優勝と準優勝には第三王女から直接賞品を手渡される栄誉を賜れるそうだ。
これはまぁ……俺とディウスに来いと言ってるよな…。
「そうよ!セレスのおかげなんだから!それとここまでされて負けてみなさい、セレス泣くわよきっと」
「「………」」
想像がつきすぎる。
いや、誤解がないように言えばセレスは平民から好かれる立派な王女になっている。
既にいくつか平民向けの施策を行っていて、主要領地間の道の整備や公共浴場なんかも既に着手されてるし、成果も出始めてるそうだ。
ちなみにこの案はアイツが教えてくれた。それをセレスに手紙で伝えてたりする。
とまぁ立派になった反面、俺達への手紙での泣き言や愚痴が酷い。
根はそう大きく変わってないのだ。まだ甘えたい年頃だし、一人で王城に行ったからな。
まぁこれも俺の短期集中性格改変の反動なのかも知れないが……。
ともかく、これで俺とディウスが負けたら、確かに泣きかねない。
ちなみに性格改変は以前教会を出るまでに行ったものだ。
甘えたがりの引っ込み思案だったので、俺達が倍甘やかす代わりに他でははったりでもいいからきちっとしろと叩き込んだのだ。
要は飴と鞭だな。
まぁここまで上手くいくとは思わなかったが。もともと素質があったんだろう。
「か、勝つぞぉー!」
「だな……本気でやるか…」
脳裏に我らが末っ子が浮かび、強制的に気合いが入る。強い冒険者が出てくると厳しいんだけどな……。
「やりやがったなあのガキ……」
トーナメント表を見ると、名の知れてるようなヤツが随分と偏っている。
確かにルール上優勝しなくても、見に来てる軍のお偉いさんが〝戦闘を見て目に止まった者〟がスカウトされるというものだ。
しかしだからって高位の冒険者片っ端から片方に詰め込むかよ。
そしてそのブロックには俺が組み込まれている。
つまりディウスを確実に決勝に進める為に、邪魔な強い奴等を俺に押し付けやがった。
「あはははっ、これ絶対あの子怒ってんでしょ!」
「ふふふ……いつまでも会いに来ない師匠に弟子が怒った てる」
「だはははっ!ドンマイアニキ!」
ゲラゲラ笑う三人組にイラッとするが、丁度鬱憤を晴らす場があるしな。
「ストレス発散に全員ボコボコにしてやる……!」
それにしても……アイツが言ってた主人公とやらの名前はねぇんだな。
確かにルベウスだったか。まぁ第一回の催しだし、その内出てくるのかもだが。
「準優勝は今大会最年少のディウス選手です!数多の流派の剣技を併せ持つ異色の若き天才剣士!惜しくも優勝は逃しましたがその強さは疑う余地のない素晴らしいものでした!」
ぺこり、と観客席に頭を下げるディウスは、くるりと反転して姿勢良く待つ。
まぁこいつはオリハルコン級冒険者もいないブロックだし負けねぇよな。
実を言うと俺が剣技を教えていたのは最初の一年くらいのものだ。元いた国で少し触ってたから未経験じゃないが、専門で磨き上げたワケでもないし。
だから残りの三年はディウスを連れて強いヤツを見つけてたら勝負を挑んで技を盗み、兵士や騎士の訓練や模擬戦をこっそり忍び込んで観察したりと、片っ端から剣に関する事に東奔西走したよ。
その結果、様々な剣技のミックス流派みたいな事になっている。
「そして冒険者の頂点であるオリハルコン級冒険者を下して勝ち上がり、若き天才剣士に勝利して栄えある優勝を手にしたのはニクス選手だぁー!ニクス選手もかなりの若さながら、圧倒的なパワーとスピードで真っ向から相手を叩き潰す王者の如き戦い方で会場を沸かしてくれました!」
う
俺も会場と観客席側に一礼してから振り返り、その場で待機。
そして俺とディウスが向かう方向には特別観覧席へと向かう階段がある。
その階段をスタッフの指示のタイミングで二人同時に歩き出し、登っていく。
そして踊り場のように階段の途中にあるスペースに辿り着くと、そこに立つ第三王女ーーセレスへと跪く。
「この剣技大会を立案、開催をなさった第三王女であらせられるセレスティア王女殿下より、優勝者と準優勝者に賞品が下賜されます」
魔術道具で解説するスタッフの声に合わせ、セレスが一歩前に出る。
「ニクスさん、ディウスさん、お顔を上げてください」
「「はっ」」
……一応形式通り応えるが、セレス相手にこんな畏まると逆に笑っちまいそうだ。
「準優勝の賞品はこちらです。どうぞ」
「はっ、謹んで頂戴します」
渡されたのは見たところ宝具の剣だな。
まぁ剣技大会にふさわしい賞品だろうよ。平民にはちょいと高価だがな。
「そして優勝者への賞品はこちらです」
「はっ、ありがたく拝領します」
んー、これは……え、マジかよ。
アイツいわく、これは遠距離で会話ができる遺物らしい……って遺物?!セレスこいつやりやがった!
「……おいこら、やりすぎだろ…!遺物を平民に下賜するなバカ」
「むぅ……だってニクス、会いに来てくれない…」
小声で注意すると、セレスは小さく頬を膨らませた。
いやそれは悪かったけどな。
実を言うとスタンピードの兆候がある迷宮を鎮静化させに行った時に、兵士から声をかけられた事がある。
ただまだディウス達も今ほど強くなかったし、まだ放り出すには早いと思って拒否したんだよ。
それをどこからか知ったセレスはその事をずっと根に持ってる。
だからっていくらなんでも遺物はお前……。
「えへへ。ね、ね、ニクスぅ……実はこれってね、もーひとつあってね。魔力込めるだけで会話出来るんだよ…?」
知ってるよ。さっきアイツから聞いたよ。
名前はマギフォンって事も聞いたし、ゲームとやらの時期でも6個しか見つかってないんだってな。超希少かつ貴重なブツだ。
「お前な。あとで怒られても知らないぞ」
「いいもん……この大会はこれを渡す為だけに開催したんだよ…?」
バカがいる。
職権濫用の極みを見た。
「はぁ……その内全員まとめて会いに行ける段階になったらちゃんと会いに来るから、大人しくしとけよ」
「はぁい」
もうこんな無茶するなと釘を刺すと、セレスはにっこり笑った。
他の奴等もだが、セレスも随分成長したよな。あんなちっこかったのに、こんなに立派になりやがって。
ん?そういやクラウスなんかはもう婚約者とかいるよな。第三王女だし、セレスもいるのか?
「そういやセレス、お前婚約者とか出来たのか?嫌なヤツなら殴りに行ってやるけど」
「――いないよ?」
あれ、妙に圧があったような……まぁいいか。
ってなんだよ……あー、なるほどな。セレスって主人公のヒロインとかいうやつなのか。まぁ二周目から対象ってのはよく分からないけど。
「……ま、その内良いヤツが出てくるだろ。世界を救う平民とかが出てくるかも知れないしな」
主人公の事だ。
アイツいわく、ラスボスとかいう魔将と、裏ボスとかいう魔王を倒すのが主人公ルベウスらしい。
「えっ?えっ、それって……!え、えへへぇ……ん、待ってる、ね…?」
白い頬を赤く染めたセレスがへにゃりと笑う。嬉しそうだな。
まぁ数年後まで待っとけ。
けどこんな嬉しそうにしてるし、名前くらいは……いや流石に今言うと混乱するか。
と、ここで形式通りの挨拶や礼が終わり、セレスから離れる。
まぁこれからはマギフォンがあるから話せるようにはなるけどな……。
しかし遺物かぁ。
道具をざっくりランク分けすると、下から普通の道具、魔術道具、宝具、遺物、聖遺物となる。
下二つの普通の道具と魔術道具は人の手によって作られた物。
宝具は迷宮から出てくる物。
そして遺物は極稀に発見される古代遺跡で発見される古代文明の道具を指す。
一説には魔術ではなく魔法によって作られたというロストテクノロジーだ。
国で管理されてる物さえ両手の指で足りるような超貴重品である。
な?そんなもん平民に下賜するとかあり得ねぇだろ?
ちなみに聖遺物とは神から授かったとか言われてる神代から残る遺物だ。魔力や超文明といったものから一線を画す、神の力が宿るとされる道具である。
有名なのは聖剣だろうな。魔王だろうと斬れるらしい。
話は逸れたが、こうして剣技大会は無事終わった。
しかし、少しは盛り上げられたかね。
セレスは気にしないだろうが、セレスの初めての催しごとだしな。俺とディウスも意識して盛り上がるよう立ち回ったつもりだ。
その日の晩から早速マギフォンが鳴りまくる事になるが、それはまた別の話。