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14話

 赤く、辛く痛ましい世界。

 黒く、憎く悍ましい世界。


 白く、透き通るような世界。

 青く、心安らぐような世界。


 渦巻く相反する色に彩られた世界で、同じ姿をした二人は向かい合う。


「……ちッ、いつまでそこにいるつもりだ」


『ずっとかな。これでいいんだよ、本来あるべき所にいるべきだ。あ、でもこうして君に会えて良かったよ』


「ざけンなよ。てめぇが駆け回ったおかげでこんな世界になったんだぞ」


『これからは君だってそうするよ。いやこんなもんじゃないな、世界はもっと変わっていくよ』


「バカか!てめぇには役割があるんだろうが!その為にやってきたんだろ!?」


『そんなものどうでもいいさ。それに見ただろ、同じ役割の奴。とんだ悪役子息だったね、役割も何もなかったろ』


「あークソ、話を聞かねぇヤツだな……!良いのかよ、それじゃ世界を放り投げる極悪人だぞ?」


『放り投げてなんかないって。任せれる奴に任せるだけだ。それに俺は善人って訳じゃない。正直世界とか言われてもどうでもいいかな、死にたくはないから頑張ったけどね』


「……なんてヤツだよ、とんでもねぇの送り込んできやがって………チッ、ババアといいテメェといい、大人ってのはタチが悪ぃな。しゃあねぇからしばらく代わってやる。その代わり手伝えよ」


『違うだろう?代わるんじゃなくて戻るだけだよ。まぁ君は俺なんかより優しいから心配してないけどね……手伝いはするよ、任せてくれ』








「……ここは…」


 見覚えのある天井だ。

 こりゃあ教会か……ったくバカが、俺をここに寝かせちゃダメだろうが、あのクソババア。

 もし他の星聖教会のヤツに見られたら怒られるぞ。


「っつぅ……ちっ、アイツめ、あんな攻撃くらいやがって」


 アイツめ、甘っちょろい戦い方するからこんな怪我すんだよ……その代わり魔術の使い方は上手かったか。

 そういやアイツといい、あー、緑髪のヤツーーあぁ?悪役子息のジーク・ヴァン・ウィラヌス?はいはい。

 子悪党の貴族のガキがアイツと同じ転生者になったってか。どうでもいい、次会ったら殺すだけだ。


 まぁともかく、アイツもジークも痛みに弱すぎだろ。あの程度の傷で動きが鈍ったり蹲ったりしやがって。

 転生者ってのはどいつもあんな感じなのか?賢いのは認めるけどヌルいんだよ。


「まぁそんな事はどうでもいいか。ババアはどこだよ」


 布を重ねられたベッドから下りて部屋を出る。つぅか客室使わせてたのかよ。来客がなくて良かったなババア。


 あーっと……料理の匂いはしねぇから執務室か?


「おい、クソバ……いねぇか」


 じゃあ子供部屋かよ……あそこはガキ共がうるせぇからあんまり行きたくねぇんだけどな。

 まぁ仕方ねぇか。


 扉を押す。扉の建て付けが悪くなってるのはここでジークと戦った余波だろう。

 軋む音を立てて扉を開くと、ガキ共がぼけっと座っていた。

 俺が入った事に気付いてか、何人かが俺を見る。


「……おい、クソババアはどこだよ」


「…………」


 おいこら無視かよ。

 ちっ、一番話が通じるヤツは……いた。メメとかいったな。


「おいメメ、クソババアはどこだ?」


「………いない」


「あん?どっか行ってんのか?」


「……ううん、もういないの。どこにも」


 告げる声に、静まり返っていた部屋に泣き声が生まれる。

 泣き声は共鳴するように段々増えていき、大きくなり、あっという間に部屋の中を埋め尽くす。


 ……それを、どこか他人事のように聞いていた。


「……う、そ…だろ、おい」


「こんな嘘……つか、ない…っ」


 座って俺を見上げていたメメが、ついにいつもの無表情をぐにゃりと崩して涙を一筋溢した。

 震える口を食いしばり、赤くなった鼻を鳴らす。

 アイツでさえ怖がってた無表情が、見る影もない。


 でも、それに驚く余裕もなく、ただ見ていた。


「待て、なんで……いや、だって、あの時……」


 俺は、治癒魔術を発動できたはずだろ?


「……間に合わ、なかったの……」


「そん、な……」


 気にもならなかった部屋を満たす泣き声が、唐突にうるさく聞こえた。

 涙をポロポロこぼすメメが、いきなり目障りに見えた。

 

「………ッ!」


 ……おい、なぁ、見てるかよ。

 ふざけんなよ、やっぱり俺じゃダメじゃねぇかよ……!


 なぁ、どうすりゃいい?

 手伝ってくれるんだろ?


 だったら教えてくれよ。

 ここで蹲ってしまいたい気持ちは、暴れたい衝動は、耐えようもない胸の痛みは……どうすりゃ消えてくれるんだ?

 頼む、教えてくれよ……!

 

「……伝、言がある……」


「…………あ?」


 閉じていた目を開くと、メメがぽつりぽつりと言葉を紡いだ。



 ーー〝アンタ〟には本当に感謝してる。〝ニクス〟の優しさがあれば本当の仲間だってできるさね。

 どう生きるかはお前次第だけど〝どちら〟にせよこの子達を任せたよ。



「…私からも……ありがと…」


 違う。

 

 感謝も、優しさも、全部アイツがもらうものだ。

 本当の仲間?そうだろうよ、アイツなら出来るだろうな。


 だがそれは俺じゃねぇ。


 親に気味が悪いと捨てられた。甘い言葉を吐くヤツも蓋を開ければ全員騙してきやがった。泣いて謝るから許してやったら後ろから刺されて死にかけた。


 なぁ、誰を信じろってんだ?

 俺はアイツみたいに人を簡単に信じれねぇよ。


 ーー………、………………。


「………本当かよ?」


 ババアが入れ替わってる事に気付いて、俺にも言葉を遺した……?俺にも本当の仲間が出来る?

 いや、いくらババアが言った事だとはいえ……


「……は?」


 ……今?いやいらねぇお節介だよ、バカが。適当言ってんじゃねぇだろうな。


 まぁ、それくらいならいい。てめぇが間違ってたら、その時は今すぐ無理やりにでも代わってやるからな。


「おい、メメ」


「……?」


 しゃくりをあげて涙をこぼすメメの頭を撫でる。

 

「……、……?」


「喋れや。いや、やっぱ喋らなくていいわ。黙って聞け」


 はぁ……くそ、何やってんだか。

 何が思った通りに言えだバカ。てめぇじゃねぇんだからホイホイ言えるかよ……。


「…………黙って聞け」


「……」


 そうだな、黙って聞いてるよな。時間稼ぎも無駄だし、腹くくるか……。


「……ふぅ。俺は何故かババアにてめぇらを任された。捨てていってもいいが、世話になった分のお礼もさせずに逝っちまった、から、な……」


 ……くそ、泣くなよ俺。人前で泣くなんざ、弱みを見せるなんざありえねぇ。


「ふぅ……だから、俺は勝手にてめぇらの面倒を見る。それが嫌だってんならさっさと自立して面倒見なくて良いようになりやがれ」


 ……それをババアが()に望むなら。

 勝手に優しくして、施したババアがそう願ったのなら。


 俺も勝手にババアの望みを叶えるしかねぇだろうが。

 ……だってもう、ババアは俺から何も受け取っちゃくれねぇんだから。


「分かったか」


「………」


 しばらく呆然と俺を見上げていたメメは、しばらくの沈黙の後に小さく頷いた。

 それからもぼうっと俺を眺めるだけなので、何か言いたい訳じゃなさそうだし次へと向かう。


「……おい、ガキ」


「っ、ぅう、なん、だよ……」


 ディウス。

 アイツに代わる前から、見かける度に突っかかってくるガキだ。

 生意気な雑魚くらいにしか思ってなかったが……アイツを通じて見ると、嫌いじゃない気質だとは思えた。


「おいガキ、ババアの言葉に従っててめぇら全員俺が面倒を見る。嫌なら勝手にしろ、俺も勝手にやる。いいな」


「ぐすっ………なんで、お前が…」


「うるせぇ、俺の勝手だ」


 はい終わり。こいつはこれで大丈夫だろ。

 それがこいつの強さだと、今なら思えるしな。


「おいチビ、聞け」


 次、カレン。アイツは楽しげに接してたけど、俺としてはコイツが一番面倒な気はする。

 まぁいい、勝手にやってやるだけだ。


「ババアへの礼に、てめぇらの面倒を見る。いいな?」


「えぐ、あぁうぅぅ……」


 き、聞いてねぇ……もう次行っていいかな。

 と思ったらガンと座ったまま俺の足を殴ってきやがった。このガキ……。


「ンだよ?」


「勝手な事しないでよ……」


「知るか、俺の勝手だ」


 文句ならババアに言え……とは言えなかった。

 流石に今のこいつらにそれを言う気にはなれない。


「なん、でよぉ……!」


 がん、がん、と泣きながら足を殴り続けるカレン。

 やっぱこいつが一番面倒だよなぁ。


 下手に気が強いから、素直に落ち込む事も出来やしねぇ。

 大人しく泣くだけ泣いて誰かに甘えてりゃいいのによ……こいつには、それが出来る相手がここにこれだけいるくせにな。


 はぁ。とりあえずアイツが唯一くれたアドバイスに従って頭を撫でる。

 つぅか自分はあれだけ撫でないようにしてたくせに何で俺にはやらせるんだか。精神年齢がどうとか言ってたけど意味分かんねぇ。


 しばらく殴られながら撫でてると、ようやく落ち着いたらので次。


「おいセレス」


「うぅぅっ、あぅぅ……!」


 号泣ぅ……まぁ仕方ねぇか。人見知りの分、こいつが一番シスターに懐いてたしな。

 俺からすりゃアイツにも懐いてたと思うけど。


 それから声をかけても届いてなさそうなので、仕方なく頭を撫でる。

 カレンやメメと同じ環境のくせにセレスの銀髪は妙に柔らかくて肌触りがいい。これが王族の力なのか?

 

「……ぅう?……にくす?」


「あぁ、まぁ……」


 まぁてめぇが懐いてたアイツじゃなくて、めちゃくちゃ怖がってた俺の方なんだけどな……こいつ俺の顔見る度に泣きそうになるくらいビビってたしなぁ。


「……あぇ?ひぐっ……もどった、の?」


「ッ?!」


 思わず目を丸くした。油断した。いや、油断抜きで驚くわこんなん。

 何故だ、バレていたのか?戻ったって……いや、だからさっきニクスって聞いてきたのか?


 混乱する俺を置き去りに、セレスは泣きながらよちよち四つん這いで近付いてきて俺の足を抱き込む。


「ぁぅうっ、にくすぅ……ひぐっ、しぅあーがぁ……!」


「あー……」


 訂正。カレンの方が全然楽だ。

 こりゃ時間かかるぞ……しかもセレスと同じ歳やさらに下のガキが合計であと3人。

 さっさと次行きたいんだが……いや待て、いっそまとめて話をすべきだったか。気付くの遅ぇぞ俺。






「はぁ……」


 疲れた。ジーク追っ払うより疲れた。


 結局セレスは泣き疲れて寝るまで足にへばりついてたし、仕方なく足にくっつけたまま他の三人のガキ……ペナ、カルタ、クーミに話しかけた。

 しかしセレスがくっつくのを見て何を思ったか、全員足にへばりついてきやがった。

 足に四人へばりついて号泣大合唱だよ。涙と鼻水でズボンびちゃびちゃだ。


 ったく、こういう時こそアイツなら上手くやれるだろうによ。結局頭撫でろ、本心を言葉にしろ、くらいしか教えてくれねぇし。


「まぁいいや。えーっと、骨を取り出すんだったか」


 やっと寝たガキどもに布をかけて、今は調理場で料理中。

 こんなもんしなくたって腹が膨れりゃいい……と思ってたんだけどな。

 確かにアイツを通して食ったコレ、美味かったんだよな……また食いてぇな、ババアの飯。


「……はぁ……次は肉?はいはい、塩もな」


 ……とりあえず作るか。

 ババアやアイツみたいに上手く作れる気はしねぇけど、アイツの指示通りやってるし形にはなるだろ。


 鍋がぐつぐついってる間にサンジンを切る。アイツは茶色い大根とか言ってたっけか。

 ……こんなもんか?なんかババアみたいに形が揃わねぇな……まぁいいか。


 あとは煮立つ時に出る汚いアワみたいなのをとりゃいいんだな。アク?あーうっせ、はいはい、汚くないのは分かったっての。


「あん?捨てるなって何でだよ……栄養が多い?はぁ、分かったって」


 孤児院のガキ共は最近こそアイツが肉を大量に渡してたからマシにはなったが、まだまだ栄養不足なんだとか。

 で、アクは別で飲ませると……これを?なんかすげぇ飲みたくねぇな……。


 結果俺も栄養不足だってんでうるせぇから俺も飲む事に。まぁ不味くはなかった。美味くもねぇけど。

 器にたまるアクと鍋をガキどもの部屋に持っていく。


「おら、さっさと器用意しろ。遅いヤツの分は俺が食うからな」


 全員を起こしながらそんなことを言うと、そこはスラムのガキだけあってしっかり動いて自分の器を用意した。

 俺含め飯は食える時に食えってのが染み付いてるからな。飯を前に食わないなんてありえねぇ。


 それからアイツと違って遠慮なく食う為に多めに入れた肉も、結局全員で分けて食った。

 まぁ俺は足りなかったら調理なしでも食えるしな。こいつらがたくさん食えるならいいか。


 なにせアイツいわく満腹だと話を聞くらしい。

 空腹だとイラついたりネガティブになるんだとか。貴族の連中が話す時は飯を用意するらしいが、それもそういう理由らしい。


「さて、てめぇら。肉は俺が持ってきてやれるが、ババアと違って俺は金は使えねぇ」


 厳密に言えば金の使い方はアイツに聞いたけど、それ以前の問題だ。

 スラムのガキに金を持たせたところで買い叩かれるか売ってくれねぇかだ。

 だから消耗品やら生活用品、あと野菜とかは買えねぇんだよな。


「金なんかなくてもいい生き方は教えてやれるが、てめぇらが耐えられるとは思わん」


 アイツに聞いて理解したが、普通は生肉も食わないし衛生面は気を遣わないと風邪もひく。

 俺と同じ生き方をしたら全員風邪か病気で死んでしまうらしい。


「そこでだ。俺は冒険者になる。それで金も使えるようになるはずだ」


 だったら簡単だ。冒険者という〝身分〟を得る。

 冒険者は最初のうちはは初期投資やリスクに対してリターンが釣り合わねぇ。

 だから避けてたけど、そうも言ってられなくなったしな。浮浪児の俺が手を出せる職は冒険者か傭兵、あとは裏の仕事くらいだ。

 それに今の俺なら、初期投資なんざいらねぇしな。アイツの寄越した『天喰』と、ババアが遺した魔刻紋がある。


「それまでは節約しろ。いいな」


 うん、と頷くガキ共。

 おぉ……マジで素直に聞いた……!

 よし、今度から何か話す時は飯の時にしよう。


「お、俺もっ……俺も冒険者になる!」


 しかしここでディウスのヤツが何か言い出した。

 こいつも冒険者ねぇ……うーん。


「却下だ。もうちょい強くなってからにしろ」


「な、なんでだよっ!」


「チッ、バカか。今冒険者になっててめぇを死なせる訳にはいかねぇからだよ」


 ったくやっぱ頭悪いなこいつ。

 次文句言うようなら一発くらい殴ってやる……と思ったら何故かディウスどころか全員ポカンと目を丸くして俺を見ていた。


「? 分かったか?」


 首を傾げながらも確認すると、ディウスはぎこちなく頷いた。よく分からんが素直になったな、これも飯効果か?


「……にくす、あぶなくない…?」


 銀髪を揺らして首を倒すセレス。

 はぁ、こいつもアホだな。


「小せぇヤツが俺の心配なんざしてんじゃねぇよ。てめぇら全員、まずはてめぇらの心配だけしてろ」


 少しイラッとして吐き捨てると、またしてもポカンとしてる。それから分かったかと聞くと、セレスは大人しく頷いた。

 すげぇな飯効果。もういっそ空腹時に話しかけたくねぇ。


「じゃあ細かい話は明日な。器洗って寝ろ」


 さて、教会外に座っとくか。

 今度椅子でも用意するかな、アイツなら作り方知ってるだろうし。


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