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妙ナモノ

「おい!鞄忘れ!昼飯だぞ!」




後ろからゆさゆさと睡眠を妨げられる。うるっさいなあ……。お昼ご飯はいいよ、もう少し寝かせて。昨日は緊急事態だったんです、はいそうです僕が”妖怪鞄忘れ”です。自分が身一つで帰った違和感には、玄関のドアを開けてから気が付いた。


朝から続く”鞄を置いて帰った奇人”と言うからかいを「あーはいはい」と適当にあしらい、ゆらっと席を立つ。


「今日は1人で屋上行くよ。あと、少し寝てくる。」

昼飯テンションの友人にそう声を掛け、僕は西校舎に向かった。



昨日は弟の作ってくれた夕飯を笑顔と涙で完食し、寝支度を済ませ早めに部屋を暗くした。どっと疲れている感覚が体を強く縛っていたのに、頭の騒がしさのせいで、朝まで一睡も出来なかった。



そんな僕の今日のお昼ご飯は、売店のおにぎり2つと、個人的に流行っている紙パックの牛乳。最近は背を伸ばす為に努力することがマイブームである。


お腹も減ってるし、考えたいことも沢山あるし、だけども兎に角眠い──

ストラップに繋げたカメラを肩からかけるいつものスタイルで、気だるげに渡り廊下を歩いていると、耳馴染みのあるメガホン級の大声で下から呼び止められた。



「お!柳ぃ〜!珍しいな!西校舎で弁当か!?」

「わー……見つかった……」



良く見つけるよな、毎回。いつもなるべく存在感消してるつもりなんだけど。



「西校舎の方が静かで良いんですよー。あ、屋上には来ないでくださいねー。僕うるさいと眠れないタイプなんでー。」

「気を付けていけよー!って、誰がうるさいってー!?」




僕の高校は、東と西の校舎に分かれていて、西校舎は旧校舎にあたる。僕の教室は東校舎だ。

美術室や図書室、化学室など、今ではあまり使われない教室が西に集まり、生徒の教室や職員室、良く人が出入りする部屋の多くは東にある。

その関係で日中であっても旧校舎には、ほとんど生徒は立ち寄らず静けさが漂っている。




"ガチャ”

「お!ラッキー誰も居ない」




西校舎の屋上は僕のお気に入りスポットである。人は来ないし、綺麗だし、外は気持ちいいし、昼寝に最適。


「いい天気……」


深く外の空気を吸いながら、僕はドアから少し歩いた景色の良く見える位置へ腰を下ろす。早めにご飯を済ませて一旦寝よう。おにぎりの包みを剥がしながら、昨日の出来事をひとつずつ整理していった。



写真部廃部の危機、うちの学校七不思議の謎、七番目の春のサンタ──



そして、桜の木の下で出会った怪異の「鈴」さん。



「僕、そういう類のモノって、今まで視えたことなかったんだけどな……」そう呟いて仰向けに寝転ぶと、視界の端に見覚えのあるハチマキが映った。



「妙ナモノ、持ッテル。」

「うわあっ…!何!?何!!?」



昨日出会った桜の怪異──鈴さんが、音もなく僕のすぐ背後に立っていた。急いで飛び起き振り返るも、やや腰を抜かした情けない体制の僕は立ち上がることが出来ない。



「い、いつからいたの?」

「“お!ラッキー誰もいない”ノ時カラ」



……あ、一番最初からなんですね。こ、声掛けてくれればいいのに。それに、“妙なもの”って……そう言えば、昨日も言ってたような。



「昨日も…言ってなかった?僕が、何か、持ってるって…」



初めて明るいところで見る幽霊は、一見普通の女の子である。制服は少し古いデザインだけど、うちの学校のもので間違いない。会話もできるし、声も今は穏やかだ。

やや透けてる身体と、地面から3cmほど空けて浮遊している非現実性、それから、首に巻きついているふわふわと宙に浮かぶハチマキがなければ──

彼女が怪異だとは、とても思えなかったかもしれない。



「ソレ、貸シテ。」



鈴さんの指した先には、いつも持ち歩いているカメラがあった。「これ?」僕は肩掛けのベルトを外しカメラを手に持ち変える。何かあるのだろうか?昨日も言っていた”妙なもの”がこれなら、執拗に気になり過ぎなのでは?でも彼女は先輩の、友達……だし。悪さをしようとしてる風にも見えない。いや、でも──



「いや……でも、これ、は」

”借りてるものだから”そう、伝えたかったんだ。ちょっとだけ君と話が出来て、嬉しかった……それも伝えたかったんだ。ほんの少しの安堵と戸惑いで、ややカメラを握る手を引っ込めた僕に少女は問いかけた。




「 貸 シ テ ク レ ナ イ ノ ? 」




——その眼球の動きと耳障りな音は、幽霊などでは無く……ただの怪物だった。



「ぼ、くは……あの、ぼくは」

思考回路が飛ぶ。これはこの目は明らかな敵意だ。直ぐにでも目線を逸らしたい、兎に角叫びたい。見開いた目と半開きの口が閉じられない。硬直した体は氷のように動かない。ゆっくりと少女の白い手がこちらに伸びる。




”バンっ!”

鉄製のドアと聞き馴染みのある澄んだ声が、凄い勢いで耳に刺さった。




「鈴!!」

「ふぇ……っ、せんぱ……」



束縛されていた恐怖から解かれた僕は、放心状態で彼女を見つめる。瞬時に周りの明るさが戻ってくる。こんなに晴れていたのか。空の青さを全く感じれない程、視界が真っ暗だったように思う。


先輩の登場に驚いたのは僕だけではなかったようだ。動揺した様子の桜の怪異は僕のカメラに触れることなく、声の元へ飛んで行きその周りをくるくると浮遊する。






「ドウシタノ?桜子?ナアニ?」

「あれも呪具だから、触ったら駄目。」




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