怪見知り
「オ前、桜子ガ好キナノカ?」
──おいおいちょっと待て。何か話し掛けてきたけども……。ただでさえ情報量エグくて頭がパンクしそうなのに訳分からん質問をしないで頂きたい。え?さ、桜子?誰?好き?僕が誰を?…ていうか君、その状態で話し掛けてこないでよ怖いな。先ず地面に降りなさい。
「鈴さーん。恋バナは駄目だよ?童貞君には刺激が強すぎるでしょ。」
「先輩ちょっと黙っててください。」
先輩の悪ふざけをいつものように軽くあしらっていると、その子は”チリン”と鈴の音を鳴らしながら、僕の目の前にふわりと着地した。桜の木と彼女の首を繋げていた縄のようなそれは、近くで見ると体育祭に使うハチマキで、両端には小さな鈴がついている。いざ目の前に立たれると、幽霊っぽくはない。夕焼けが校舎に反射して辺りが真っ赤だった、さっきの瞬間の方がよっぽど……。
「紹介するね、この子は「鈴」──私の大切な友達。そして、うちの学校の七不思議の、三番目。」
——……、ほぉ。
お~い、顧問見てますかあ~。貴方の無謀なお願いは、たったの数十分でサクッと叶いましたよ~。わ~、すご~い。本当に居るんだ学校の七不思議~!
いや。そうとはならんでしょ!?「私の友達♡」じゃないんですよ!しょ、紹介されたって何を話せって言うんですかぁ……!幽霊なんて見たことも聞いたことも無いんです勿論話したことだって無いんですよ!!?
「あ……、あの、えっと……」
ほ、ほら!早くなにか喋れよ、ぼ、僕ぅ!!こんな所で人見知りを発動してる場合じゃないだろ……!ここはやっぱり僕も仲良くなるべき……いや待て、これは人見知りならぬ、怪見知り?わはは!なんちゃって!
──・・・。
「あの、首に巻きついてるそれ……で、デフォルト……なんですか……」
「・・・。」
──うん、失敗したな。幽霊にも会話のマナー的なのあるのかな?呪われるかな?死ぬのかな……僕、童貞のまま死ぬのかな。あぁ……先輩ともう少し仲良くなっておきたかった……毎回ロミジュリみたいな話し方じゃなくちゃんと目の前で隣で傍で話してみたかった……あわよくば手とか繋いじゃったりしたりして、うふふあははってしたかった……あと
「オ前、桜子ガ好キナノカ?」
「……ふぇ ?」
返ってこないと思っていた返事は、僕の絞り出した全力のコミュニケーションをしっかりとスルーした上で戻ってきた。先程と同じ質問を繰り返される。何やら呪いは回避したようだ。怒ってる訳でも、無さそう……?
「ねぇちょっと何話してるの!?私もそっち行く!」
「え!え?先輩っ、あ!ちょっと!」
焦って口だけ先走る僕より先に、七不思議のその子はスっと彼女の元へ飛んでいく。美術室の窓を豪快に踏み台としてジャンプした先輩を、後ろから幽霊が抱き抱えて降りてくるというとんでもない画だ。
「……。」
──先輩に対して、今みたいに大きな声で抑制したのは、何度目だろう。
これまでの少ない会話、窓際に見える仕草だけでも、彼女の言動の端々には、ヒヤッとさせられる面が見え隠れする。よく言えば勇敢、悪く言えば無謀。何処か自分の存在を軽く見ている気がして、儚くて脆くて、急にどこかへ消えてしまうんじゃないかと、考えることがある。
「無茶ヲスルナ。足ヲ挫イタラドウスル。」
「鈴が来てくれると思ったからだよ?ありがと。」
──僕の天使が、降りてくる。
「……、パンツは白です。」
「どさくさに紛れてカメラを構えるな、ばか。」
レンズ越しの少し照れて怒る先輩の表情につい見惚れていると、窓の奥から大人の声がした。
「おーい!誰かまだ美術室に残ってるのかー?」
「やば……!柳くん早くこっち」
辺りはすっかり日が沈み暗くなっていた。先輩に手を引かれ近くの校門へ向かい全速力で走る。「あ、でもあの……!鈴さんは!?」
「あの子は、この学校から出れないの」