初めまして
「あれ?柳君、こっち側の人?鈴の声聞こえてるの?」
──この声は……。間違いなく、先輩だ。
しかし「こっち側の人?」とは、一体どういう意味なのだろう。
それよりこいつだ、今、僕の後ろで揺れているこいつは何者なんだ。”鈴の声”?わけがわからない。全身は未だ硬直したまま振り返ることが出来ずにいた。
「鈴が男の子に声掛けるなんて珍しいね。」
「妙ナ物持ッテル」
「妙な物?それは……霊感、みたいな事?」
会話……している。先輩が人ではない「ソレ」と、まるで昔からの友達ですと言わんばかりの口調で話している……!?
どう言う事なんだ。僕を置いてきぼりにはしないで頂きたい。ガタガタと震える両手でカメラを強く握り締める。ああ先生……借りてるこれ、僕の握力で壊しちゃったらごめんなさい。ちゃんと弁償します見たことない型だけど。
「ねえ柳君……大丈夫?」
「いや!ちょっと!大丈夫では無いです!」
「きみ、そんな焦ることあるんだね(笑)」
なんと情けない姿。だがしかし、しょうがないのだ。僕が今日この日まで遭遇しなかった、この世成らざる”ナニカ”を真後ろに構えている状況である。落ち着いてはいられない。
「取り敢えずあの!僕ちょっと!あの!聞きたい事が山ほどあるんですけど振り返ったら呪われたりしたりするのでしょうかそれはちょっと困るので先にお答え頂きたい……!!」
「あっはははっ 」
この期に及んで、初恋の人に爆笑される僕。情けなさが心に染みるが、今は致し方ない……!
「ふふっ……、大丈夫。少し驚くとは思うけど、私の友達だから。」
笑い終えたその声は、いつも通りの優しく暖かい声だった。その一言で僕はようやく覚悟を決め、ゆっくり体を桜の木へ向ける。
──何が……(この学校の七不思議は、ポジティブ&幸運なもの!)だよ、先生。
じゃあ今、僕の目の前で風に揺られているこの女の子は、一体何だって言うんだ。
4時44分──
日の欠け始めた赤黒く濁った空と、儚く狂い散る華吹雪。桜の枝に首を吊るされている彼女から滴り飛び散る液体も重なり、辺り一面真っ赤に染まっていた。
それに加え何が一番不気味かって、その凄まじい光景を前にカメラを構えたくなった僕の感覚だ。
「やっぱりちゃんと視えてるんだね。」
「先輩も……なんですよね。」
「うん。さっきも言ったけど私もこっち側。柳君と同じ、視える側の人間なの。」
窓辺から見える景色は、一体どんな風に写ってるんですか、先輩。赤いですか?黒いですか?綺麗ですか?惨いですか?
貴方はいつ頃から”視える人”なんですか?どうしてあの少女は桜の木で首を吊ってるんですか?七不思議の幽霊なんですか?
目の前の”非現実”をなんとか”現実”のものだと理解しようとしていた僕は、頭に浮かぶ質問をただ思考の中で繰り返していた。色んな情報が一気に体へ詰め込まれて、嘔吐寸前だった。
「僕、初めて視ましたよ。おばけ。」
「……、え?」