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僕の桜

「えっと、取り敢えず部活行ってきます。」




全く……あのタンクトップ筋肉オバケ……。

表情筋がうるさいだけに留まらず、春色サンタだの餅巾着だの、本気で言ってるのか?もしそうであれば、さすがにもう教育委員会へ駆け込むレベルだけれども。

沸き上がる不信感をふつふつ露わにしながら、僕は溜息混じりに上履きから革靴へ履き替えていた。


──まあ、でも……





『聞こえてるのか新一年生?少しは振り向いてくれよ~。って、おお?カメラ?君、写真撮るのか!』

『……。』

『その手に持ってる写真、良いなぁ!まるで動いてるみたいじゃないか!俺の筋肉みたいに元気ハツラツだな!!君、名前は!?』





「まあでも……。嫌いじゃないよ、先生」


少しだらしのない顔であろう僕は両手でカメラを握り締め、誰とも目が合わないよう軽く俯き気味に今日の活動場所へ駆け足で向かった。




校庭奥の壁を伝って、美術室横。此処から見上げるしだれ桜は本当に綺麗だ。学校に隣接している神社、夢見草神社は大きなしだれ桜が名物で、塀を越えて直ぐに桜の木がある関係で学校の敷地内まで大きな枝葉が伸びている。桜の木は無いのに、桜が見れるというちょっと幻想的スポットだ。


──綺麗。


いつ見ても、遠目からでも、つい見惚れてしまう程に圧倒的な存在感。美術室の中から窓越しに観る景色もさぞかし絶景……



「あ。今年もさぼってるね。」

「……っ、し、失礼ですよ部活中です。」

「おーい、人とお喋りする時は目を見て話しなさーい」



去年の今頃もこの窓から「さぼっている」と声を掛けられた。こんな真剣に撮影しているというのに。次に飛んでくる台詞も大体分かる。先輩の質問はいつもこのセットだ。



「ねぇ。どうしてもっと近くで撮らないの?」



先輩曰く「描きたいモノは近ければ近い程良い」らしい。絵を描くのと写真を撮るのとじゃ、きっと感覚は違うのだろうと思うのですが。



「僕の撮りたい桜は、この角度とこの距離が一番綺麗に写るんです。」構えたカメラを下げずにそう返事をすると、彼女は窓際に肘をつき「ふーん」と物憂げな目線を此方に向ける。



もうすぐ日が沈む。琥珀色の空に混ざる桜、風が鳴り春色の雪が舞う。



「この角度と、この距離が本当に綺麗に写るんですよ……僕の桜は。」



レンズ越しなら、ちゃんと目を見て話せるのに。






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