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【完結】エデンの住処  作者: 社菘
第5章 家族
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「藍、父さんの大切な人の息子さんの由利くんだよ」


両親の離婚とか再婚とか、全くと言っていいほど興味がなかった。でも、義兄(由利)にだけは興味があったのだ。


由利と初めて出会ったのは中学1年生の時。藍の両親は小学4年生の時に離婚して、1年生の時に結婚を考えている人だと女性を紹介された。親が離婚しようが再婚しようが藍にはどうでもよく、ただ子供を大人の都合に巻き込まないでほしいとは思っていた。


その中で嬉しい誤算だったのは、義兄の由利が藍のタイプだったということだ。周りは由利をイケメンだと言っていたが藍の目に彼は美しく見えていた。今まで見たどんな人よりも美しく、アルファとしての気品が溢れている人だった。


由利が『アルファ』だからこそ思ったのだ。


彼を自分の『オメガ』にしたい、と。


慎重に動く必要があると思っていたが、3歳も歳の差があるので彼はあっという間に家を出る年齢になってしまう。なんせ彼は魅力的なアルファのオーラと見た目で、家から出たらすぐに番を見つけてしまうだろうと思った。それが由利の意思とは関係なく、そこらへんのオメガに騙されて既成事実を作られたらたまったものじゃない。だから分かりやすく行動したのだが――


「………藍、その…俺とやってみる…?」


藍が中学3年生、由利が高校3年生の冬だった。由利は藍が自分をネタに自慰をしていると夏頃から気づいていたが、彼が家を出ると決定した冬に二人は初めて一緒に夜を越したのだ。それから由利が卒業して家を出ていくまでずっと、何度も何度も体を重ねた。それなのに彼は『堕ちる』のを恐れ、家を出てからずっと藍を避け始めたのは想定内だった。


「でも、どこまで逃げても意味がないよ、由利」


由利と藍を『普通』の兄弟だと思っている両親はよく由利の近況を話してくれる。大学の友達の話、モデルのバイトを始めたこと、そのままモデルを仕事にするということ、住所――由利の母に聞けばなんでも教えてくれる、ふわふわしている優しい人でよかった。


「藍、カメラマンを目指すんだって?」

「うん。大学で出会った先生に頼み込んで弟子にしてもらった」

「ファッション誌のモデルさんとかを撮ってる方なんでしょう?もしかしたら由利と仕事をすることもあるかもしれないわね」

「それなんだけど、僕の進路は兄さんには内緒にしててくれない?」

「どうして?」

「いつか兄さんと一緒に仕事をしたいから、その時に驚かせたくてさ」

「藍がいつの間にかカメラマンになってたら驚くだろうな、由利くんは」


親の性格なんて離婚や再婚と同じようにどうでもいいと思っていたけれど、初めてこの能天気な性格の二人に感謝した。由利は藍のいない日を狙って実家に帰ってくるような兄なのに、あの冬以降一度も連絡を取っていないなんて知らず、二人を仲のいい兄弟だと思っている両親。そんな両親には悪いけれど、自分たちの息子は何度も過ちを犯して、アルファの弟はアルファの兄をオメガに変えようと何年も何年も計画していたなんて知ったら、どんな顔をするだろうか。


「二人が揃って帰ってくるなんて初めてじゃない?」

「由利くん、藍が迷惑かけてないか?」


藍の実の妹・椿ではなく由利と藍の妹である香恋(かれん)の8歳の誕生日を祝いに、初めて由利と藍は二人で帰省した。由利は藍と帰省することを渋っていたが、可愛い妹のお願いを無下にするかと言えば香恋のためならと一緒に帰省することを決めたのだ。藍が由利の家に引っ越したのは由利だけが知らない事実だったので、両親からの質問攻めに苦笑していた。


「藍は再婚する前から家事とか料理とか手伝ってくれてたから少しは役に立つだろう?」

「え……」

「そうそう、家にいる時もよく手伝ってくれてたものねぇ。由利も藍くんも忙しいだろうけどお互いに支え合って生活してね」

「いやぁ、本当に由利くんみたいなしっかりした兄がいて心強いよ」


こうしてペラペラ喋ってくれるから、両親には口止めが必要なのだ。まぁ、今回のことは別にバレてもいい内容だったのだが、藍を『クズ男』とか『ヒモ男』だと思っていた由利にとっては衝撃的な話だったらしい。眉間に皺を寄せ、思いっきり『怒ってます』という顔で藍を睨んでくる彼が可愛くて仕方なかった。


「ゆーりにいに、らんにいに!今日はお泊まりするんでしょ?」

「あ、あぁ、うん……」

「そうだ、由利!あんたの部屋、香恋の部屋にしたのよ。あなたはもう実家で暮らすことはないかと思ったから」

「それは別にいいけど」

「藍くんの部屋はそのままだから、そっちに布団敷いて寝てちょうだいね」

「あのね、香恋、にいにたちとお風呂入る!」

「香恋、さすがににいにたちと一緒に入るのは無理かなぁ」

「えー?じゃあにいにたちは一緒に入ってね!」

「なっ、なんで!?」

「にいにたち、仲良しさんなんでしょ?」


だから、実家に一緒に帰省したかったのだ。


由利の部屋がなくなっているのは知っていたし、両親のことだから残っている藍の部屋で一緒に寝たらいいと提案することも、香恋がなかなか会えない兄たちと一緒にお風呂に入りたいと提案するのも、全て予想がついていた。そして由利が『家族』の前で断れないことも。


彼はこの家の中で何よりも母親に弱い。自分の実の母親だからというのもあるだろうが、まだ高校生の時にアルファの恋人の間にできた由利を育て、その恋人に捨てられて苦労したオメガの母親を由利が一人で支えていたのだから、せっかく手に入れた幸せを壊すような真似はできないのだろう。マザコンとかそういうわけではなく、これは一種の呪縛だ。だから由利は藍を素直に受け入れるのを拒んで、一人で追放される道を選んでいるのだろう。


――あぁ、可愛い。自分が僕に過ちを犯させたと思っている由利はなんて可哀想で可愛いんだろう?


でも、楽園(エデン)を追放されるのは由利ではなく、彼をこちらに引きずり込もうとしている藍なのだけれど。





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