アクア・マキナ・マギア〜ユーシツの魔法剣士〜
昔々あるところに、腕利きの魔法剣士の人間の男がおりました。男の名前はゼプチ。細身の剣と片腕に引っ掛けた外套に魔法を纏わせ、戦うことを得意としておりました。その時、地上の生き物たちは魔界から押し寄せる魔王軍に翻弄されており、彼らを追い返すための戦争が起きておりました。もちろん、ゼプチもその戦に駆り出され、目覚ましい戦果を挙げました。なぜか彼に執心している女神の力も借り、彼は地上の魔王軍を一掃。地上と魔界を繋ぐ穴を閉じたのでした。
そうして、閉蓋のゼプチという名前を得た彼は、特に権力を求めることもなく山奥に隠居し、平穏な生活を送り、生涯も閉じたのでした。
「……というのがワシの経歴じゃ!」
「いや、経歴じゃ!と言われましても」
所は深海銀河系の片隅、ユーシツ星、ラプサディ地区。比較的小さなこの星の中で三番目に発展した地区で、ユーシツ族のアクア・マキナたち――深海銀河系に住む、魂を宿した機械生命体たち――が100万体ほど暮らしている。ユーシツ族の外見的特徴は基本的に小柄で、材質が透明に近く、八列の虹色に光る筋を有していることだ。また性格も非常に温厚、というよりは争いごとに向かないつくりをしている。
そのさらに片隅、ユーシツ族の中でも頭部に一対の、分厚く柔軟性のあるツインテールのような部位を持つフスカ型(チョウクラゲモチーフ)のマキナの一家が暮らす家の一部屋で、死んだはずのゼプチと部屋の主が駄弁っていた。
「しっかし、ゴーレムが文明を築くようになるとはのう~!世の中面白いことばかりじゃ!」
空間のわずかな揺らぎと化したゼプチがはしゃぐのを横目に、この部屋の主、レピはベッドの上に座って、電光表示アイを困り目にしていた。
「オカルトとか、勘弁してください……」
レピは水筒のようなものを開け、緑の発光する靄をストローで吸った。
「むっ?なんじゃ!?なんじゃ、それ!?」
ゼプチがレピの周りをぐるぐると飛び回り、風が吹く。
しばらく無視していたが、しびれを切らしたレピは目を怒りの形にした。
「ニンゲンだか彷徨うマキナ魂だか知りませんけど、鬱陶しいです!死者が動くな!」
「だいたい所有者の許可なく部屋に入ってくるとかユーシツの憲法違反です!出ていけ!」
水筒を閉じてベッドにたたきつけ、大声をはりあげるレピ。しかしその直後、
「ちょっとレピ!!!夜遅くに自室で何を騒いでいるの!!!静かにしなさい!!!」
とレピの親の叱り声が響き、しゅんとしたのだった。
一拍間をおいて。
「それで、これに入っているものは何なのじゃ?レピ?」とゼプチが小声で尋ねた。
「……ネクタル。私たちを動かすエネルギー源です」とレピは言った後、バタリとベッドに倒れこんで
「もうほっといてください……」と、動かなくなった。
「ネクタル……いいネーミングセンスなのじゃ!」とゼプチは上機嫌だった。
結局、レピが翌朝早く、新聞配達の為にスリープモードを解除したときもゼプチは部屋にいた。
「ゴーレムもベッドや毛布、紙を使うのじゃのう……不思議なものじゃ」と独り言を言うゼプチに渋い顔をしながら、レピは頭部から垂れ下がる幕をたなびかせ、ラプサディ地区7番町の道をホバー移動して新聞社に向かった。
そして、新聞の山と新聞配達用の浮遊バイクを受け取り、何軒かのポストに投函したのち、
「ゴーレム、ではなくてアクア・マキナです」とレピは訂正した。
「おお、アクア・マキナ!良いセンスじゃ~」とゼプチは笑った。顔などなく、やっぱり空間の揺らぎだったが。
それから、ゼプチに憑りつかれたレピの生活が始まった。
朝の新聞配達、昼のネクタル汲みの仕事、夜のユーシツ伝統ダンスの練習、メンテナンス、就寝……ずーっとゼプチがあれこれ聞いてきたので、一週間も経つと、レピはノイローゼ気味になってきた。
「あの、ほかのマキナのところ行ったほうが面白いと思いますよ、幽霊おじいさん」
場所はネクタルスタンドカフェ64号店。緻密な模様が掘られた容器や、他の星から持ち込まれた文様や映像を用いた容器、音楽の鳴る容器などを用い、楽しくネクタルを楽しむことができる施設である。レピは一人席に座っていた。
「迷子になるからいやじゃ」と、ゼプチは即答した。
「もし本当に魔法剣士だったのなら、迷子になんてならないでしょう」と、レピは切り替えした。
「そうは言われてもの~特にやりたいことも無いしの~」とゼプチ。
「はぁ……」
ため息をつくレピのもとに、網のような模様と細く薄い翼を持つセロプラ型(クラゲムシモチーフ)ユーシツ族マキナのウエイターがやってきた。そして大きなギザギザの耳の付いた、銀色に輝くタンブラーをテーブルに置く。
「失礼します。エンペラーエディション・ネクタルをご注文のお客様で間違いありませんか?」
「はい!私が注文したものです!」とレピは元気に返事して受け取った。
「エンペラー……?」とゼプチがつぶやく。
タンブラーの造形はぼこぼこ、ざらざらの表面に持ちづらそうな大きなギザギザの耳といった感じであり、あまり皇帝という言葉の印象らしくはなかったのだ。
「この深海銀河系を統治するガルテラン銀河皇帝陛下イメージなのです」と携帯端末で写真を撮りながらレピは誇らしげに言ったが、「ほほー」とだけゼプチは返した。それに対してレピはむっとした。
「写真や映像の御姿はもちろん違いますが、それでも特徴をとらえていると思います」
とレピは言って器を口がありそうな部位に当てた。その時だった。
大音量でそこら中の端末からアラームが鳴り響いた。
「な、何!?」と慌てて立ち上がるレピ。
サイレンの音も、店内に聞こえるくらいの大音量で流されている。
「なんじゃこの音は、うるさいのう……」とか言っているゼプチは放っておいて、レピは端末を確認した。アラームが映像に切り替わる。
アナウンサーの折れたウサミミのような頭部をしたペラトリ型(コトクラゲモチーフ)ユーシツ族マキナが語気強く原稿を読んでいた。
「敵襲!敵襲です!住民は指定の避難シェルターに、戦闘員は直ちに迎撃態勢についてください!」
「敵の推定降下予定地域はラプサディ地区!」
「繰り返します……」
映像を呆然と見るレピ。
「お客様!一緒に避難しましょう!」
先ほどのセロプラ型マキナのワンオペウエイターに声を掛けられて、レピは店の外へと出た。
そのまま二体と幽霊一体は指定避難所へと向かった。その背景の空には巨大な、鮫のような外見の戦艦が浮いていたのだった。
所変わって最寄りの指定避難所となっている地下シェルターを持つ、セブンス集中メンテナンス院。
無事にたどり着いたレピ達は、受付の端末に名前と識別番号を入力していた。
「1105393ACE……おぬし、エースじゃったか!」
「おじいちゃん、気が散るからやめて」と音にしたレピに、一緒に来ていたウエイターが細い翼を揺らしながら、首を傾げた。
「あの、メンテナンスカウンセリングを受けられるか聞いてきましょうか……?」と尋ねてくる彼に、レピは「大丈夫です大丈夫です!」と断った。
そしてシェルターの扉が開き、最後にもう一枚手動の扉を開けると、そこには薄暗く広い空間が広がっており、たくさんのユーシツ族のアクア・マキナたちが各々の場所を取り、避難していた。ユーシツ族はみな透明材質の身体にネオンサインのような発光する筋を持つため、きらきらとあちこちが光っていた。
レピ達は歩き回り、家族や知り合いを探した。みな不安から逃れるためにスリープモードになったり、紙の本を読んだり、端末を見たりしていた。
「あぁっ!お前!」
大きな声にびくっとするレピだったが、ウエイターが声のするほうを向いて
「兄弟!」
と言ったため、すぐにウエイターの家族が見つかったのだと分かった。彼の家族は駆け寄ってきた。
「無事でよかった!お前で最後だったんだ」
「それはいいこと。それより……お客様と避難してきたんだ。フスカ型は避難してきていないのか?」とウエイターは尋ねた。
「フスカ型……?見てないなあ」
「そうか……」
親切なウエイターがレピに謝ろうとした、その時。
「ほとんどのフスカ型はネクタル田で作業していたはずだよ」と、他の避難民が声を掛けてきた。
「それでも、避難していておかしくないはず……」と、ウエイターは言う。
しかし、レピは頭を横に振る。そして、「確かに、今日はネクタル田に新しい汲み取り機を設置する日と、家族が言っていました。もしかしたら、作業中止に時間がかかっているのかもしれません」と言い、俯いてしまった。
「もう敵がやってきているかもしれないから、無事を祈るしかないねえ」と声を掛けた避難民が言った。
「お力添えできず、申し訳ありません……」とウエイターは言った。
レピは顔を上げ、「いえ、ありがとうございました」と言い、彼らから離れた。
レピはもしかしたら家族が後から来るかもしれないと思い、入り口に待機して待つことにした。その移動途中だった。
「わかった、ワシがなんとかしよう」
これまで黙っていたゼプチが何やら言い始めた。
「え?」と怪訝な顔をするレピの周りをゼプチがぐるりと飛ぶ。
「一週間楽しませてもらった礼があるからのう!」
「でも、どうやってなんとかするというんですか」と、レピは胡乱なものを見る目をした。
「ワシを誰だと思っているのじゃ!閉蓋のゼプチじゃぞ!むろん魔法よ!」
「はぁ」
「おぬし、家族を救いたいのじゃろ?藁にでもすがったほうがいいんじゃないのかのう?」
ゼプチの言葉に、レピは少し考えこんだ。
「わかりました。助けてください」
そういうわけで、レピとゼプチはネクタル田に急いで向かうことにした。移動中のレピに、ゼプチが語り掛けた。
「今の状態のワシが魔法を使う為には、おぬしの体を媒介する必要がある」
「どうすればいいのですか?」とレピ。
「おぬしの体をワシに貸してくれ!と言うから、良いじゃよ!と言えばよいのじゃ!」
「はあ」
「とにかくやってみるのじゃ!我が名はゼプチ。汝の四肢、我が魔道に貸し給え!」
「差し許します」
「なんか偉そうじゃのう」
ゼプチのぼやきと共にレピの体が強い光に包まれる。
「な、何これ―!!!」
光が収まると、レピの手には青色の刀身の細剣が握られ、繊維状の装甲やオシャレベルトが装備され、後頭部から垂れる二つの幕には伸縮構造が追加されていた。クリアカラーのボディに銀の装甲、さらにその末端などを赤や青が彩っていた。
「おしゃれじゃろ~」
「そ、そうかもしれませんけど!これでは戦うのは私じゃないですか!私は戦士じゃないし、戦ったこともない。家族を守れる自信なんてありません!」
ゼプチはしばらく沈黙し、やがて静かな声で語りかけた。
「レピ、ワシはかつて多くの戦いを経験した。そして、そのたびに自分の力を信じ、仲間を守ってきた。おぬしも、その力を持っているんじゃ。信じることが大切じゃよ」
段々と目的地のネクタル田が近づいてきていた。
「魔法は気の持ちようと想像力じゃ。絶対に守るという気持ちが襤褸切れを不滅の盾に、絶対に倒すという気持ちが石ころを勝利の剣に変えるのじゃ」
(絶対に守るという、気持ち……)
レピはぎゅっと柄を握りしめた。
「それにしても、なんだかスピードアップしてません?」
「そりゃ機動能力も魔法で強化したからのう。早いに越したことはないじゃろ」
「制御できないんですけどー!!!」
ものすごいスピードで飛んでいくレピだった。
その頃のネクタル田。
「弱っちい癖に、たまたまネクタルがたくさんあったからってだけで偉そうな面して、ほんとムカついてたんだよ」
コーカク族の硬い赤い装甲、そして長い脚と鋏が付いたマキナが、一体のフスカ型マキナを踏みつけていた。そして蹴り転がす。それをジョウキ族の、発達した牙と大きなかぎ爪を持つマキナが脚裏に受け止める。
「まったくだぜ。俺達に襲われたら抵抗もできねえくせに、ちょびっとのネクタルで顎で使おうなんて。ちゃんちゃらおかしいぜ」
そしてまた蹴り転がす。今度はキョクヒ族の黒い、とげだらけのマキナの足元だった。
「しっかし命乞いの一つもしねえ。まあ、騒いだら殺されるって学習したから当然か」
ギャハハと下品に笑う、異星のマキナ達。
その傍には捕虜と化したフスカ型マキナ達が、両手を挙げた状態で整列させられていた。
「まったく戦闘能力の高い種族は、野蛮で仕方ありませんね」
捕虜を監視しているのはシホウ族のマキナ。ユーシツ族に似て透明な材質の外観をしていたが、八本の帯状の部位はミサイル射出口になっていた。
「おい、あんたらについたら取り分は半分ってのはマジなんだろうなあ?」とコーカク族が鋏を光らせて凄む。
「ええ、もちろんです」とシホウ族のマキナが言った、その時。
「うわぁぁぁぁーっ!」
と何かがすさまじい速度で突っ込んできた。反応できず、コーカク族が巻き込まれた。土埃が収まる。
「制御が、難しすぎます!」
うつ伏せに倒れたコーカク族の上に乗った、レピ……否、魔法剣士レピが現れた。
「レピ、剣を構えるのじゃ!」
ゼプチの指示通り、レピは剣先をシホウ族に向けて立った。
「な、なんですかお前は!」とシホウ族は言うが、レピは何も応えなかった。
「やっておしまい、傭兵たち!」
シホウ族の言葉と共にジョウキ族とキョクヒ族が飛び出す。
ジョウキ族は光学迷彩を使い、見えなくなった。
キョクヒ族は針をミサイルのように飛ばしてきた。
(ど、どうしたら……)
「レピ、結果を想像するのじゃ。魔法はイマジネイションじゃ」
レピの電光表示アイがすっと消える。
そして再点灯すると、次に迫りくる大量の針を、伸ばしたツインテールのような部位で撃ち返した。
「な、なにィっ!」と叫ぶキョクヒ族に突き刺さり、装甲を貫通して破壊する。
さらに一拍置いて、姿勢をさっと低くした。そのまま踏み込んで剣を突き出すと、見えないはずのジョウキ族のカギ爪を貫く。
「やるようだな……だが甘い!」
ジョウキ族はぐいっと細剣を掴んだカギ爪を引き上げ、バランスを崩したレピを蹴飛ばそうとした。しかしその足は空を切る。
「あれ……」
拍子抜けした声を上げた背後に光る、青い刀身。
「『雷神蜂巣突』!」
瞬く間にジョウキ族に無数の穴が開く。レピが目にもとまらぬ速さで雷をまとった細剣を突き刺しまくったのだ。
「こ、こんなに強いユーシツ族がいるなんて、聞いていませんよ!」
シホウ族が近場の捕虜に近寄り、帯を巻き付ける。
「武器を降ろしなさい!さもなくばこいつを殺し」
「レピよ、耳を傾けないでやっちゃっていいぞ」
「『風神巨砲突』!」
次の瞬間、シホウ族の胴が吹き飛んだ。レピが風の魔法を細剣に纏わせ、刺突時の振動を増幅、飛ばしたのだ。
「レピ!後ろじゃ!」
また構えの姿勢に戻ろうとしたレピに、ゼプチの切羽詰まった声が響く。
レピはさっと幕を重ねたが、一本切り取られてしまった。前に跳躍し、距離を取って振り向く。
「惜しかったなぁ、だがコーカク族は頑丈。そんなヤワな武器じゃ傷一つ付かねえぜ」
コーカク族が立ち上がっていたのだ。鋏に切り取ったレピの幕を持ち、これ見よがしに揺らす。
「レピ、気持ちで負けてはならん」
ゼプチの声に、レピは剣先を敵に向け応えた。
「死ねえぇぇッ!」
叫びながら、コーカク族が力任せに巨大な鋏を振り下ろす。レピはぎりぎりまで立ち止まり、横にふらっと重心を倒した。そして突き上げる。
「『溶炎神罰槍』!」
灼熱の刀身がコーカク族の外殻を溶かし貫き、そのまま膨張する。その後、コーカク族の胴は、円が広がるように焼き溶けてしまった。
レピは細剣を構えたまま、ただ立った。
「レピ!あなたなの?」
はじめに声を掛けたのはレピの親だった。レピはようやく細剣を下げた。
「みんな……遅くなってごめんなさい」
レピの周りに、フスカ型の家族たちが駆け寄ってきた。
「お前今日非番だろ!なんで来たんだ!」
「レピ、応急処置するからなっ!」
とレピに声を掛け、切断面にネクタルを注ぎ込み、繊維を巻き付けて無理矢理仮止めしていく。
「おぬし、愛されとるんじゃのう」とゼプチがぼやいた。レピは戦闘の震えが残っているのか、呆然としていた。
だが何かを思い出し、ネクタル田の外に飛んでいく。
「レピ!どこに……」と他のフスカ型が声を掛けたが、止まらなかった。
レピは見上げる。そこには空を覆い隠さんばかりの巨大な戦艦が、こちらに砲身を向け、エネルギーを貯めていた。
(止められっこない……!)
スケールが違いすぎる。レピはようやく怖気づいた。
細い剣と魔法であんな戦艦、なんとかできるわけがないと思ったのだ。
だがゼプチが「レピ!可能性は無限大じゃ!おぬしならできる!」と叱咤激励を飛ばした。
(そうか……何でもありなら!)
レピは空に向けて細剣を突き出した。同時に敵のレーザー砲が発射される。
(間に合う!)
「『光波反射蔽』!」
細剣の煌めきが放射状に広がり、光の盾となる。そして、レーザーを跳ね返した。
「ぐああーっ!」
空に苦悶の声が響く。だが、戦艦はまだ空に浮かんでいた。そして、声が響き渡る。
「くそッ、先行制圧部隊が全滅なんて聞いちゃいねえぞ!だが終わっちゃいねえ!」
それを皮切りに、戦艦が変形し始めた。
「ネクタル田さえ制圧できりゃ俺らは、誰かのために命を懸ける必要なんてねえ!」
戦艦の正体は、超大型のアクア・マキナだった。バンサイ族カルカリアス型(ホホジロザメモチーフ)で、鋭いフカヒレのような刃と、穴の開いた胴の内側に付いた牙が特徴だ。
(街に降ろすわけにはいかない!)
レピは魔法で浮遊能力を強化し、カルカリアス型に向かって飛んだ。
ラプサディ地区上空。巨大なマキナと小型のマキナが対峙した。
「命が惜しいなら、降参しなさい」
レピが細剣を構えて言う。ゼプチも「そうじゃそうじゃ!」と囃し立てた。
「羽虫相手に、そんなことするわけねーだろ」とカルカリアス型が言った。
「なにがあなたたちをそう駆り立てているんですか」とレピが問う。
「シホウ星に与して全部ぶんどったほうが、得だって気づいた。それだけだぁ!」
そう叫びながら、カルカリアス型はマキナに切りかかった。
だが感触はなかった。
「『溶炎蜂巣神罰槍』!」
一瞬でカルカリアス型に無数の穴が開き、溶け落ちて行く。
「俺の体、どうなって」最後まで台詞は続かず、頭部に大きな穴が開いた。
こうして、レピは侵略者を撃ち倒したのだった。
この事件はユーシツ星の隣の星、シホウ星の企てにより、ユーシツ星を守る傭兵団が裏切り、ネクタル田を占領しようとした事件、シホウのユーシツ侵攻未遂事件と呼ばれることとなり、全銀河に知れ渡った。
そしてあわや戦争が始まるかと思いきやレピの無双ぶりを知ったシホウ族の市民は反戦論調となり、シホウ星は多額の賠償金を支払い、ユーシツ星に平和が戻ったのだった。
数年後。
英雄と讃えられたレピは、ユーシツ星の守護兵団の隊長(なお他に団員はいない)になっていた。
ゼプチもぜんぜん成仏していなかった。
そんなレピはユーシツ星の政治的トップ、大統領に呼び出されていた。
「平素より我が星の巡回警護の任に当たってくださり、感謝しております」
「いえ、志願して行っていることですから」とレピは返した。
「さて、本題に入りますが、銀河皇帝陛下が強者を募っていることはご存じでしょうか」
レピはキョトンとした目をして、首をかしげる。
「ご存じないのですね。申し訳ございません。実は陛下のご指名でレピ様が招待されているのです。もちろんお受けになりますよね?」
(ガルテラン銀河皇帝陛下のご指名……!?)
「は、はい!謹んでお受けいたします!」
そういうことで、レピは銀河皇帝の招待を受けたのだった。
小さな宇宙船に乗り、超速移動で目的地の宇宙船に近づく。
窓から外を見たレピは、その大きさに声を漏らした。
「わぁ……」
ゼプチもすごいのうすごいのう!とはしゃいでいた。
ゆりかごと呼ばれるその宇宙船はバンサイ族(サメモチーフ)やハクジラ族のような巨大なアクア・マキナたちも十分に生活できる環境を誇ることで有名だ。
「ようこそ、ゆりかごへ!」
虹色の飾りを付けたジョウキ族スピノスス型(ホウボウモチーフ)のマキナがレピを迎えた。
「陛下の演説は七日後です。どうぞそれまで、快適なひと時をお過ごしください!」
客室は豪勢で、様々な大きさのアクア・マキナに合わせた客室が用意されていることがうかがわれた。船内の探索で出会ったアクア・マキナたちは、ほとんどが大型だった。それゆえにレピは「こんなところにちんちくりんがいるぞ、場違いだ」などと言われることもあったが、他の大型マキナが間に入って、事態が収まった。
そして一週間後、レピと他の強者たちは宇宙船の広大なホールに集められた。
豪華な装飾が施された部屋の中に、ガルテラン銀河皇帝が静かに入ってきた。その体躯はどのアクア・マキナよりも大きく、厳めしい姿をしていた。
「強者たちよ!ここに集まったこと、感謝する!皆に知らせがある。残念ながら喜ばしい知らせではないが」
銀河皇帝が映像装置を操作すると、画面には侵略者の艦隊の画像が映し出された。
それは肉に覆われ、悍ましい外見をしていた。さらにその上には、肉と皮の装甲に身を包んだマキナ――否、それは人間の、桃色の髪をした美女の姿をしていた。ゼプチが「嘘じゃろ……」とつぶやいた――が乗っていた。
「深海銀河系に、強大な侵略者が迫りつつある。彼らの艦隊はすでに銀河の端にまで到達しており、今後数日以内には我々の領域に侵入すると思われる」
銀河皇帝の説明を背景に、静止画の中、その女はゆっくりとこちらを向いた。ざわめきが広がる。
「銀河の未来は、みなの手にかかっている!我と共に闘って……なんだ!?」
画面の中が近づいた女の顔でいっぱいになる。
「みいつけた」
画面が暗転し、また元の画像に戻っていた。
アクア・マキナたちは作戦会議に移ることにしたが、ざわめきはいつまでも、収まらなかった。
他者と連携して戦ったことがないレピは、会議から外されて客室に戻っていた。
扉が閉まると、ゼプチがぶつぶつと
「アイツはいかん、マジでいかん」
と言い始めた。
「あれは何なのですか?」と問うレピ。
「あれは女神イムリア。遥か昔、魔王軍を一掃せんとするワシにさらなる力を与えた女神じゃ」
「それでは、ゼプチの仲間では?」
「いや!あれはワシを手に入れるためならば何でもする女なのじゃ!」
そして数日後。レピは遊撃隊として、銀河侵略艦隊迎撃作戦に参加した。
マキナ達は敵艦に各々攻撃していくが、肉のマキナ、女神イムリアの魔法で次々撃墜されていく。
「遊撃隊!肉のマキナを攻撃せよ!」
指揮に従い、レピ含む遊撃隊が突撃するところに、イムリアが目を光らせて強烈な雷撃を放つ。それに対して、レピが反射バリアを展開する。
「『光波反射蔽』!」
しかし、雷撃に当たった瞬間魔法がかき消され、魔法戦士武装も解除されてしまった。
「愚かなものね。あたしの力の混じった魔法が、あたしに通じるわけないじゃない」
そう言って、イムリアは熱線でアクア・マキナ達を焼きはらってしまった。
「レピ!」
炎に包まれたレピに、ゼプチが悲痛な声を上げる。
「さあゼプチ。あたしたち幸せになりましょう?そっちは人肌のぬくもりもなく、寂しかったでしょう?」
イムリアに語り掛けられ、ゼプチが悔し気にうめいたその時。
「まだ…終わりません!」
レピの体が虹色に輝き出し、巨大化して炎を吹き飛ばした。
その姿は華奢ながらも雄大だった。
「魔法は気の持ちようと想像力……私だけの魔法で、あなたを倒して見せます!」
闘いの様子は全銀河で配信されていた。アクア・マキナ達の、小さなレピへの祈りが、勝利を願う思いが、レピに奇跡を起こす力を与えたのだ。
「がらくたごときが使う魔法なんて、見掛け倒しよ!『業火の抱擁』!」
「『銀河神屠槍』!」
イムリアの魔法が彼女ごと切り裂かれ、彼女は消滅していった。
その後、アクア・マキナ達は順調に、敵艦隊を殲滅した。
そのさなか。
「ワシ、アイツに呼ばれて復活していたんじゃろうな……ここでお別れじゃ」
ゼプチがレピに語り掛けた。
「ゼプチ……私、自分の力を信じて、がんばります。これからも、ずっと」
「愁傷な心がけじゃ。では……さようなら」
「さようなら、おじいさん」
こうして、魔法戦士レピは銀河を守った英雄となったのだった。




