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09.早朝の襲撃は予想範囲内

 スマラグドスの屋敷は朝を迎えた。しんと静まった屋敷に人の気配はない。まだ眠っているのか。にやりと笑う軍装の男は、指示を出した。


 皇帝陛下のお気に入りである将軍の屋敷を襲うなど、通常なら考えられない。だが、これから皇帝を引き摺り下ろすと決めた貴族にとって、将軍は真っ先に排除すべき敵だった。


「突入!」


 わっと声をあげ、兵士が門を破る。そのまま玄関を突破し、屋敷内の絵画や壺に群がった。略奪に夢中の部下を置いて、上官は二階へ向かう。彼らの雇い主は、公爵家だった。


 この屋敷にある最大の宝は、真珠姫だ。蛮族に下賜された姫はまだ手付かずだろうか。心配しながら、靴音を高らかに部屋の扉を開けていく。どの部屋も綺麗に整頓されているが、人の姿はなかった。


 まさか? 慌てた騎士が片っ端から扉を破り、誰もが驚いた顔で首を横に振る。一人もいない。それが答えだった。


「くそっ!」


 ぐっと握りしめる拳で、壁を叩く。ぼこりと凹んだ穴を無視して、追っ手をかけろと命じた。ベッドのシーツに乱れた跡はない。休憩せずに出発した証拠だった。


 戦場から戻った足で報告に出向いたのなら、翌日は屋敷で休む。彼らの常識の裏をかいたスマラグドスの一団は、美しい姫を連れて消えた。このままでは公爵閣下に申し訳が立たない。慌てた将の掛け声は、略奪に夢中の兵士に届かなかった。仕方なく、騎士達を編成して追う。


 森と違い、足跡がない街中。早朝の街道の静けさを、馬の蹄は甲高い音で引き裂いた。街の住民達は、迷惑だとぼやきながらも顔は見せない。八つ当たりされる危険を避け、知らないふりをする。それが平民の処世術の一つだった。


 そのため、早朝どころか深夜に出発した将軍一行の編成も、情報も追っ手の耳に届かない。静かになった街で、住民達は二度寝を決め込んだ。









「追っ手がかかるなら早朝でしょうね」


 カミルは地図を片手に、敵の進路を予想する。振り返った街道の先は、森の木々に遮られて都の高い塔も見えなかった。ここで打ち合わせ通り、街道を外れる。獣道に近い森の中へ入っていく同胞を見送り、将軍ルードルフは策を打ち合わせた。


「スマラグドスまで連れ帰るわけにいきませんから」


「ああ、敵は排除する」


 カミルの策を丁寧に実行するだけ、いつもと同じだ。何も変わらない。ルードルフは、頭から作戦以外の全てを切り捨てた。友である皇帝の安否も、敵となった身勝手な貴族への怒りも。不要なものを切り捨てて、身を軽くする。


 数時間後、街道の脇道で追っ手に追いつかれた。騎乗するルードルフは、布で隠した姫を前に乗せている。手元に置くのが一番安全と考えたのだろう。にやりと笑う騎士が馬に鞭を入れる。姫と二人乗りの馬より、騎士単独の方が速い。


 徐々に距離が縮まり、横に並んだ。すっぽりと布を被った姫は横抱きにされ、怯えているようだ。助けてやろうと意気込む騎士が距離を詰め、奪うために手を伸ばした。

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