4.平和と蜜月は続く(完結)
今日も妻は美しく立派だった。その賢さはウルリヒが認めるほどであり、誰より思慮深く優しい妻の美しさは誰もが褒め称える。今でも、どうして俺の妻なのか疑問に思うが。
「ルド、きて」
手を伸ばして強請られて、今日も彼女の肌に溺れる。仕事で気疲れするだろうと、いつも遠慮していたら、彼女から誘ってくるようになった。申し訳ないと思う反面、求められることに歓喜が湧き起こる。
三つの属国と二つの同盟国を持つムンティア王国は、事実上の宗主国だ。大陸を統べる彼女と、スマラグドスは同盟を組んだ。今では国の一つとして認められ、周辺地域との交易も行っている。これらを主導したのが、アンネリースだった。
これほど素晴らしい女性が、俺の妻であり我が子の母親なのだ。その奇跡に感謝する毎日を、彼女がさらに彩る。俺を隣に置いて、こうして求めてくれた。素直に抱き寄せ、柔らかな体を膝の上に乗せる。
見下ろす体勢になったアリスは、笑顔で頬を擦り寄せた。そのままキスへなだれ込む。年齢を重ねた美しい彼女の口元に、細い皺が見えた。笑い皺、それは幸せの証と聞いている。
いつも微笑んでいられるよう、全力を尽くした。敵を排除し、様々な仕事を引き受けて。その甲斐があったと嬉しくなる。緩んだ唇を割って、アリスの舌が絡んだ。押し倒されながら、寝転ぶ。
俺を支配する美女は、見せつけるように髪をかき上げた。ゆっくり上着を脱いで、薄衣を肌から落とす。ゴクリと喉が動いた。男の欲望は正直だ。惚れた女がここまで誘ってくれたら、全力で応えようと起き上がる。
「私、もう一人欲しいわ」
双子を産んだアンネリースは、次の子を望む発言をして小首を傾げた。さらりと流れる銀髪に手を伸ばし、彼女の頭を引き寄せる。倒れてくる彼女を腹に乗せたまま、俺は唇を重ねた。指に絡む髪が心地よい。
「ちょうど、俺もそう思っていたところだ。どっちがいい?」
産み分ける方法など知らないが、巫女シャリヤに尋ねれば知っているだろうか。あの老婆はさまざまな知識を溜め込んでいる。閨での睦言で口にした言葉に、アリスは目を細めた。
距離の近い美女の顔が少しだけ冷静さを取り戻す。
「あなたにそっくりの男の子がいいの」
「俺は可愛い娘がもう一人欲しい。アリスにそっくりなら、なお素晴らしい」
互いに正反対の願いを口にし、そこから先に言葉は不要だった。貪るように愛し合い、奪い、与える。体中くまなく重ねて触れ、口付けた。燃え上がり過ぎて、気づけば外が白々と明るい。
「……いっそ起きているか?」
「少しだけ眠るわ」
ぱたりと糸が切れたように動かなくなった妻を、起こさないよう清めた。熱くなく冷たくもないお湯で拭き清め、乱れた髪を手櫛で整える。あとは起きた後、侍女が美しく装ってくれるはずだ。
目を閉じたアンネリースの隣で、じっと寝顔を見つめた。今日の予定はさほど詰まっていない。休暇に連れ出されたウルリヒも数日で戻るし、昼寝でもしようか。そう提案したら、彼女は子供達も誘うだろう。
穏やかな午後を想像しながら、日差しから妻を守るように身を盾にして朝を迎えた。ああ、今日も世界は平和だ。
終わり
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甘い二人を書いて終わりたかったので、ここで完結とします。少しばかり政治部分に焦点を当てたお話でした。明日、新作を公開しますのでお寄りいただければ幸いです。
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新作
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子育て系ほのぼのファンタジー、長編。ハッピーエンド確定です。両親を失った子を拾った竜王の、ドタバタ子育て物語_( _*´ ꒳ `*)_