2-4.望んだ全てが叶った
妻をベッドに運び、すぐにルトガーを風呂に入れた。綺麗に洗って着替えさせたが、ルードルフの腕を掴んで、ぼそぼそと要望を伝える。
「あのね、ディアナにもないしょ」
「わかっている。代わりに頼みがあるんだが……お母様がお父様の膝で寝ていたことは内緒だ。これは男の約束だぞ」
交換条件を噛み砕いて伝えれば、ルトガーは「それ、しってる」と笑った。安心し切った顔でにっこりと笑い、素直にベッドに入る。しばらく付き添うが、緊張が解けたルトガーはすぐに眠りについた。
ルードルフが戻ると、部屋はあらかた片付いている。明日、侍女が運びやすいよう、ワゴンの上にグラスや酒瓶が並んでいた。このまま解散しようと頷き合い、カミルは床に転がるウルリヒを背に担ぐ。
「担ぐのか」
「抱っこすると怒るんすよ」
うにゃうにゃと口の中で文句を並べる酔っ払いを、軽々と運ぶ部下を見送って寝室へ足を向けた。先ほど運んだ妻は、なぜか起きている。水のグラスを手に待っていた。
「さっき、ルトガーが来なかった?」
「さあ、そうだったか?」
質問に質問で返され、アンネリースは何となく察してしまう。これはルトガーが何かを隠しているんだわ。水を飲み干し、夫の顔をじっと見つめた。話す気はないが、隠し事は大した問題ではなさそう。アンネリースはそう判断して、空のグラスをベッドサイドのテーブルに置いた。
「いいわ、もう聞かない」
「おやすみ、良い夢を」
互いの頬に口付けを送り、ベッドに横になった。
王宮は朝から騒がしい。だが慣れた侍従は走る姫を見送り、侍女は着替えを持って追いかける。ディアナはカミルにあっさり捕獲され、不貞腐れながら侍女へ引き渡された。ワンピースを着たくないと暴れたらしい。
その理由が、服が汚れたら洗うのが大変だから、なのは何とも微笑ましい。苦笑いしたアンネリースの許可を経て、シンプルな半ズボンとシャツに着替えた。止めても木に登り、池に飛び込んで遊ぶのは確定だ。ならば被害を少なくするのは、合理的だった。
「ディアナにも困ったものね」
ほほほと笑って、我が侭を許す。アンネリースにしたら、姫だからスカートという考えはなかった。好きなものを着て、好きに生きたらいい。息子ルトガーが剣術を習わず、図書室に閉じこもろうと問題なかった。
「先日の洗濯が堪えたようですね」
ウルリヒは笑いながら、男の子のような姿で走るディアナを見送った。庭に出ると、すぐにお気に入りの木によじ登る。今度は裁縫も教えないといけないわ。言葉と裏腹に、容認する女王はディアナを好きにさせた。
同じようにルトガーが本に夢中でも取り上げたりしない。個性が強いのは、悪いことではないと考えた。本が大好きなのに、ディアナが外へ出ると追ってくるルトガーは、今日も木の根元で本を広げる。
ちらりと父ルードルフを見やり、ルトガーは意味ありげに笑った。男同士の約束が嬉しかったのだ。傷で迫力ある顔のルードルフが、にやりと笑った。その様子に気づきながら、アンネリースは気づかないフリをする。
穏やかな世界に、ウルリヒは目を細めた。望んだ全てが実現していく。あとは……そう、十年もしたら新しい世代が育つ。ディアナが新女王として地位を継承するのか、それともルトガーが後継となるか。どちらにしても楽しみだと、頬を緩めた。
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ウルリヒの話も希望があったので書きますね_( _*´ ꒳ `*)_