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105.成果を得るのは誰の手か

 スマラグドスの荒地に水が行き渡り、豊かな草原が出現する。その恩恵を知り、セレスタインの民は奮起した。同じように豊かな生活を送りたい、浴びるように水を飲みたい。純粋な願いは、そのまま労働力に変換され……想定したより早く、水路は予定地に届いた。


 水路に使う石の販売が好調なスフェーン王国は、財政が潤い余裕ができる。その金を民のために還元した。古くなった橋を架け替え、開墾する民に援助を行う。セレスタインとの国境付近に、植林も行った。


 結果として、民からの信頼は厚くなる。よく働く民がもたらす恩恵は、税収となって王侯貴族へ戻ってきた。税率を上げずとも、収入が上がったことに貴族は王家への評価を高める。好循環だった。


 安定した王政が保たれるスフェーンのギルベルト王は、同盟国であるムンティア王国へ感謝を表した。用意されたのは高級石材である。川を使った輸送で齎された美しい白銀の石材を、宰相ウルリヒが王宮の再建に利用した。


 かつての白亜の宮殿を思わせる、美しい姿を甦らせる。その決意の下、国民からも協力者が続出した。焼け落ちたかつての王宮跡は、整理されて活用する。基礎の石は焼けて黒く煤けていたが、農家や商店の女性の尽力で磨かれた。


 専門の職人が入って加工を始めると、すぐに柱が立つ。壁を張り、天井を被せ、床に敷き詰めた。木材と石材を上手に取り入れた建築は、不思議な美しさを生み出す。


「……夢みたい、だわ」


 日に日に大きく立派になる王宮の姿に、アンネリースは目を潤ませた。家族で住んでいた頃と姿は違う。焼け落ちた悲しみの記憶を、白亜の宮殿が上書きした。


 女王自身もささやかながら、石の加工に手を貸す。ルードルフ達も、建材の運び手として働き、手先の器用な者は積極的に作業を受け持った。通常なら二桁の年数をかけて新築する王宮は、わずか四年で形になる。まだ一部は建設途中だが、王家の住まいとして整えられた。


 建築を開始して五年目の夏、真珠で飾った美しい女王が入宮する。女神の化身と称えられた美女は、隣に勇猛で無骨な夫を従えていた。


「皆の献身に礼を言う……こんな硬い言葉は不要ね。ありがとう、私は皆の気持ちを大切にする女王になるわ」


 前代未聞の宣言に、詰めかけた民はどっと湧いた。美貌の女王を一目拝もうとした者も、稀代の策略家を見に来た者も。手を取り合って笑う。これこそが答えだった。







 じわじわと足元から腐るアメシス王国は、隣国ルベリウスの失策から何も学んでいない。ルベリウスの難民に国境を侵食され、侵略者として敵対した。王侯貴族が外を向く間に、民は決起のタイミングを計る。もう時間の問題だった。


 ムンティアの女王に従った国は、すべて豊かに暮らしている。引き換え、自分達の状況は悪化し続けた。その差を理解すればするほど、下級貴族や平民の不満は募る。いつ爆発してもおかしくない大地の上で、ふわりと地に足のつかない王族は気づかない。


 熟した果実が落ちるまで、あと僅か。

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