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103.執務室の大改革

 新婚旅行のような視察を終えて戻れば、宰相が失踪していた。アンネリースはこの状況に、ころころと鈴を鳴がすように笑う。そして、あっさりと許可を出した。


「では、ウルリヒは二週間ほど休暇としましょう。ルードルフ、そんな顔をしないの」


 副官の暴走を聞いて、連れ戻すと馬に跨りそうな夫を嗜めた。疲れたウルリヒを見かねて、攫ったのだろう。多少強引だったが、こうでもしないとウルリヒは休まない。妻の取りなしに、ルードルフも苦笑いが浮かんだ。


 疲れていたのは知っている。だから戻ったら、殴り倒して無理やり休暇に持ち込むつもりでいた。そう口にしたら、カミルの方がマシね、とアンネリースは大笑いする。


「何がおかしいんだ?」


「だって、カミルより乱暴な方法を取ろうとしたのに、連れ戻そうとするなんて」


 ひとしきり笑って満足したのか、アンネリースは執務室へ足を向けた。旅支度を解くのは、侍女達の仕事だ。ウルリヒが普段から使う部屋は、大量の書類が積まれていた。応接用の長椅子に、毛布が無造作に置いてある。きっとここで眠ったのだろう。


「確かに、殴ってでも休ませたくなるわね」


 呆れたと肩を竦める。視察旅行が決まってから、妙に書類の処理量が少ないと思ったの。まさか全部、自分で処理しようとしていたなんて。自己犠牲の好きな男だわ。アンネリースは積まれた書類を数枚確認し、あっさりと手を離した。


「手の空いた侍女や文官を集めましょう。順番がバラバラよ」


 時系列か、内容別か。どちらにしろ分類しなくては効率が悪い。ウルリヒのように記憶力が抜群に優れているなら別だが、アンネリースにそんな特殊能力はなかった。人の手を借りられる場所は、きちんと任せる。それも上位者としての資質だ。


 適材適所に人を配置し、仕事を回す。なまじ、彼自身が有能なため自分でこなそうとするけれど、本来は数人で分業する量だった。


「俺も手伝えたらいいんだが」


「そうね、運ぶ仕事はあるわ。それと……私が無茶をしないよう見張るのも、ルドの役割よ」


 ウルリヒの二の舞にならないよう、監視役を置く。アンネリースの心遣いに、ルードルフは素直に頷いた。


 文官や侍女、侍従、執事に至るまで。手の空いた者が交互に入って、書類の分類を始める。その脇でアンネリースは署名を始めた。不備の書類を撥ねる文官が、処理すべき書類を半分に減らしてくれる。


「この際だから、改革してしまったらどうだ?」


 ウルリヒが戻るまでに仕組みを作って仕舞えば、彼もそれに従うはずだ。ルードルフの指摘に、それもそうねと女王は微笑んだ。


 有能過ぎるが故に過労気味の宰相が、長い休暇を終えて戻る頃……彼の執務室は快適になっているはずよ。仕事量は激減し、綺麗に仕分けされた書類だけが並ぶ。物足りないくらいの仕事量まで減らしましょう。


 女王と王配は悪巧みをはじめ、使用人達も一緒になって推進した。元から、働きすぎを心配していた美貌の宰相を、無駄な仕事から解放する。その大義名分は大いに支持された。

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