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船乗り

 リナが次にシンノスケを連れてきたのは宇宙港だった。

 それもシンノスケ達自由商人が出入りする自由商船組合の区画ではなく、民間用の、それも観光船やレジャー船用の区画だ。


「シンノスケさん、小型クルーザーをレンタルしますから、操縦をお願いしてもいいですか?私を星空クルーズに連れていってください」


 どうやらリナはシンノスケのエスコートで星の世界のデートをご所望らしい。

 そのために先に眼鏡を購入したのかもしれないが、普段から世話になっているリナのためだ、シンノスケは迷うことなくリナの希望を叶えることにする。

 シンノスケとリナはレンタルクルーザーの受付に足を運んで申し込み手続きをして小型クルーザーを半日レンタルすることにした。


 シンノスケ達がレンタルしたレジャークルーザーは長期間の航行は出来ないものの、船内は快適で、10人程度が楽しむことが可能な船だ。

 全長30メートル程の小型の船だが、見た目も優雅でスタイリッシュなデザインで、半日とはいえレンタル料も高額ではあるが、ここは普段から世話になっていることと、眼鏡のお礼と称してシンノスケが負担することにした。


 カードキーを預かって早速船が係留してあるドッキングステーションに来た2人。

 船に対して敬礼してから乗り込むシンノスケと、つられて一礼して乗り込むリナ。

 

 ブリッジに入ってみると操縦席や搭乗席の他にソファやバーカウンターまで備え付けられている。

 加えてブリッジは超硬ガラス製であり、外の景色を直接見ることができる構造で、モニター式の軍用艦とは大きな違いだ。


「わっ、凄いですね」


 リナが大喜びでブリッジを見回している間にシンノスケは出航準備を整えた。


「リナさん、出航します。座席に座ってください」

「はーい」


 船が大きく揺れるわけでも、大きな危険を伴うわけでもないが、出航の際には座席に座ることが規則となっている。

 民間のレジャー船では殆ど守られることのない規則だが、宇宙軍上がりのシンノスケと商船組合の職員であるリナにとっては定められた規則に従うのは当然のことだ。


 リナは操縦席の横の席に座り、船を操作するシンノスケの手元を興味津々で見つめている。

 リナに見つめられながらシンノスケはサイドスラスターを噴射させ、ドッキングステーションから船を離脱させた。

 シンノスケの鮮やかな操船で船は滑るようにステーションから離れて方向を変える。


「それじゃあ、行きますよ」


 スロットルレバーを押し込んで船を進めるシンノスケ。

 コロニー周辺で管制センターの管制宙域内であれば自由に船を航行させることが出来るので、あえて商船等の航路から外れて船を走らせた。


 既に出航しているので自由に席を離れることが出来るのだが、リナはシンノスケの隣から離れようとせず、星々の世界に目を輝かせている。


「はーっ、素敵ですねぇ。コロニーから見る星空とそんなに違わない筈なのに、星々が一層輝いて見えます。コロニーで生活しているとあまりこういう機会がありませんから、とっても新鮮です」


 そんなことを言いながらスロットルレバーを握るシンノスケの手に自分の手を重ねているリナ。

 操縦の邪魔になることでもないのでシンノスケもそのままにしている。


 暫くの間、船を進めたシンノスケは頃合を見計らって船を回頭させた。

 目の前に広がるのは惑星ペレーネとその軌道上にある中央ステーション。


「わあっ・・・」


 さすがのリナも思わず席を立って正面のガラスに駆け寄る。

 シンノスケも船を停止させて操縦席を離れてリナに寄り添った。


「実は私、船を失ったシンノスケさんが自由商人を辞めちゃうんじゃないかって不安だったんです・・・。でも、今日のシンノスケさんを見て安心しました」


 外の景色を見ながら呟くリナ。


「安心した?何故ですか?」

「だって、シンノスケさんは根っからの船乗りですから。乗船するときに敬礼を欠かさなかったり、小さな規則や手順も必ず守ったり。シンノスケさんが船を降りるなんて、船乗りを辞めることなんて出来ないんですよ。そう思ったら嬉しくなりました。私はセイラちゃんやミリーナさんの様にシンノスケさんの船のクルーとして一緒に仕事をすることは出来なくても、これからも組合職員としてシンノスケさんのお手伝いは出来るんですよ」


 リナの言葉にシンノスケも頷いた。


「確かに、ケルベロスを失って、どうしたものかと途方に暮れていました。マークスからも『自由商人を辞める道もある』なんて言われましたが、船を降りて何もせずにいるなんて人生は想像も出来ませんでしたよ。マークスもそれが分かっていて私を焚きつけたのでしょうが、私自身、船乗り以外に生きる道は無いと思っています」


 リナはシンノスケを見上げる。


「船乗りを辞めたりしませんよね?」

「はい。他に生きる道も知りませんから、早々に復帰しないと。そして、そのためには兎にも角にも船が無ければどうにもならない。早速新しい船を手に入れなければいけません」

「私、今日はその言葉を聞きたかったんです。それだけで大満足です。私もシンノスケさんが新しい船を手に入れるため、精一杯のお手伝いをさせていただきます。・・・そして、抜け駆けもこれっきり。後は正々堂々と勝負です」

「ん?抜け駆け、勝負?」

「いえっ、こっちのことです。それに、これっきりといっても今日はまだ時間がありますからね。シンノスケさん、思いっきり楽しみましょう。私、お弁当を持ってきたんです。この綺麗な星空を見ながら一緒に食べましょう」


 その後、シンノスケとリナは星空のクルーズを思う存分楽しんだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 実際の星空のクルーズは 船の空気循環ファン以外の音以外は何も変化がなく、 船外は恒星の光以外はすべて漆黒でまたその動がもなく、 惑星と軌道ステーションだけが背景から浮き上がるほど異質な…
[良い点] 良い雰囲気じゃねぇか…… [一言] 抱けえっ!抱けっ!抱けーっ!!抱けーっ!!
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