決断
ブラックローズが放った砲撃がケルベロスを撃ち抜いた。
「キャーッ!」
ブリッジに激しい衝撃が走る。
ブリッジの照明が消えて非常灯が灯り、けたたましい警報が鳴り響く。
ビームはケルベロスの左舷側に張られたエネルギーシールドを貫き、船体を貫通して右舷側のエネルギーシールドで受け止められており、船団の最後尾にいた旅客船スターマインへの着弾は辛うじて免れた。
「メインエンジン被弾、大破。第3エンジンにも損傷。艦内防護システムによりエネルギー供給遮断!爆発撃沈は免れました」
マークスの報告にシンノスケは頷く。
「流石はサイコウジ・インダストリーの艦だ。ダメージコントロールも抜群じゃないか」
言いながら損害を確認する。
メインエンジンが損失し、第3エンジンが損傷したことにより著しく推力が低下しているだけでなく、艦内施設へのエネルギー供給も低下しており、戦闘継続どころか通常航行にも支障が出る程のダメージだ。
『シンノスケ、大丈夫なの?』
『おい、ヤバいんじゃねえか?』
アイラとザニーが同時に聞いてきたが、緊急事態なのでシンノスケが直接通信する。
「本艦はエンジンに深刻なダメージを受け、戦闘や航行に支障が出ていますがとりあえずは大丈夫です。皆さんは船団護衛と敵船の排除に専念してください」
『それは大丈夫よ。敵船はあらかた排除したわ。7隻撃沈して、他の生き残りは逃げ出した。生き残りといっても無傷ではないから大丈夫よ』
確かに、既に戦闘は終了しており、リムリア艦艇と宇宙海賊の残存船は宙域から急速に離脱しようとしているようで、この様子なら再攻撃の心配はなさそうだ。
「了解しました。こちらも直ちに離脱しましょう」
シンノスケは改めて航続可能かどうかについて損傷状況を確認する。
艦内の警報は鳴り止まない。
(メインエンジン破損。第3エンジンも損傷しているが、出力を上げると爆発の危険がある。第2エンジンだけだと船団について行けないな)
ケルベロスは極めて危険な状態だ。
更に追い討ちを掛けるようにシンノスケのグラスモニターにマークスからの秘匿情報が送られてきた。
曰く『長距離攻撃を仕掛けてきたと思われる所属不明船が接近中。セイラが気付く前に通信管制席のレーダーモニターを遮断した』とのことだ。
マークスからの情報を見たシンノスケは決断した。
「やっぱり今の状態では船団への帯同は無理だな。・・・ケルベロスからA884、本艦は護衛戦隊の指揮を継続することが出来ません。よってA884に指揮権を移譲します。戦隊指揮の補助のため、本艦のセイラとミリーナをA884に移乗させます」
『それはいいけどシンノスケ達は大丈夫なの?』
「問題ありません。本艦には小型シャトルが2隻搭載しています。万が一の時は我々も脱出します」
『・・・了解したわ。時間がもったいないから2人の移乗を急いで』
通信を終えるとシンノスケはセイラとミリーナを見た。
「聞いてのとおりだ。2人はA884に移乗してアイラの補助を頼む」
「ちょっと待ってください。私達だけなんて・・・」
「艦長命令だ。異論は認めない。シャトルを操縦できるのは俺とマークスとミリーナだ。そうなれば、先に脱出するのはミリーナとセラしかいない。時間を無駄にすると船団を危険に曝す。急げっ!」
いつになく厳しい口調のシンノスケにセイラは言葉を失う。
「・・・・・はい」
そんなシンノスケをミリーナは額の目でジッと見ている。
(ミリーナの能力は予知と読心。気付かれたか?)
しかし、ミリーナは不安げな表情ではあるが、静かに頷く。
「シンノスケ様。信じていますわよ」
「ああ・・・」
「分かりました。セイラさん、行きましょう」
ミリーナに促されて歩き出すセイラだが、ブリッジを出る直前に振り返ってシンノスケを見た。
「シンノスケさん、後から必ず来てください」
「分かった。必ず後を追うから先に行って待っていてくれ」
言いながらシンノスケは敢えて2人に背を向ける。
ケルベロスに残ったシンノスケとマークスは2人が乗ったシャトルが無事にA884に収容されるのを見届けた。
「ケルベロスから各艦、以後はA884の指揮下に入り、速やかに宙域を離れてください。・・・後方は本艦に任せて先に行け!」
アイラにしてもザニーにしても、ケルベロスがおかれた状況とシンノスケの考えを正しく理解しているが、それぞれが任務中の護衛艦乗りとして何もいわない。
そして、アイラのA884に率いられて難民船団はアクネリア方向に向けて速度を上げて宙域を離脱していく。
船団を見送るシンノスケとマークス。
「必ず後を追うから待っていろ。ここは任せて先に行け。どちらも2条違反に該当しますね」
マークスの言葉にシンノスケは不敵な笑みを浮かべる。
「まあな。つまり、そういうことだ」
「でしょうね」
「マークス、悪いが冥府の底まで付き合ってもらうぞ」
「ドールである私は冥府の底なる精神世界には行けません」
マークスの言葉にシンノスケはため息をつく。
「いいや、絶対に付き合ってもらうぞ。無理だと言ってもお前のメモリーを担いで行くからな!」
「分かりました、どこまでもお供します」
2人は笑い合うと配置につく。
「本艦は接近中の所属不明船に向かう。行くぞマークス」
「了解しました」
ケルベロスは船団とは逆方向に向けて走り始めた。




