難民船団護衛5
「姐さん、目標が現れました」
従えている索敵艦を通じてブラックローズは空間跳躍から脱したケルベロスとA884を捕捉した。
「ようやくとお出ましかい。レディを待たせるなんて無粋な男だねぇ」
「今なら狙えます!」
「まだだよ。奴はやたらに勘がいいからね。奴を沈めるのはもっと乱痴気騒ぎになってからさ・・・」
ベルベットは舌なめずりしながらモニターの先にいるケルベロスを見た。
空間跳躍を抜けたケルベロスとA884は索敵範囲外のベルベット達に気付いていない。
「国際宙域にまで敵船が追ってくるかどうかは分からないが、今のうちに移動しよう」
シンノスケはスロットルレバーを押し込んだ。
ケルベロスとA884は加速して宙域を離脱する。
シンノスケ達が稼いだ時間は数十分。
足の遅い船団には直ぐに追いつくことが出来るだろう。
しかし、それは敵も同じことで、敵が国際宙域にまで追ってくるつもりなら逃げ切れるものではない。
「船団の航跡を捉えました。ポイントを示します」
船団はアクネリア銀河連邦に向けて一直線に進んでいるが、シンノスケはモニターに示されたポイントとは違う方向に向けて舵を切った。
敵の追跡を欺くためであり、当然ながら航跡を欺瞞するためのデコイの放出を忘れない。
ケルベロスとA884に遅れること数分後、敵集団が空間跳躍を抜けてきた。
ケルベロスが放ったミサイルの餌食になったのか、空間跳躍を抜けてきたのは10隻のみ。
流石にデコイに騙されることはないが、船団の航跡を捉える事が出来ず、船団とは別の方向に向かったケルベロスの航跡を追おうとしている。
その様子を見ていたベルベットがため息をついた。
「あ~あ、馬鹿だねぇ。あっさりと騙されちまって。いくら装備が良くても結局は海賊すら務まらないぼんくら揃いだねぇ。仕方ない、あんな連中でも弾よけくらいには役立つだろう。船団の進路を教えてやりな!」
「アイサー!」
呆れながらもベルベットはケルベロスを追って動き出す。
ケルベロスとA884は宙域を迂回しながら船団との合流をしようとしていた。
「敵集団の空間跳躍離脱を観測。こちらを追ってくる様子ありません。船団に向かう可能性があります」
うまい具合に敵の追撃を引きつけることが出来たなら、そのまま船団から引き離そうとも考えていたが、なかなか思惑通りにはいかない。
「流石にそこまで間抜けではなかったか。仕方ない我々も船団に合流しよう」
2隻は船団に合流すべく針路を変えた。
ケルベロスとA884の速力なら敵集団に先んじて船団に合流出来る筈だ。
難民船団はアクネリア銀河連邦に向かって航行を続けていた。
現在船団の護衛に就いているのはダグのシールド艦と、アレックスとシンシアの双子のゴルゴーン、そして、ダムラ星団公国の護衛艦タイフーンⅡ以下2隻。
ザニーのパイレーツキラーはまだ補給中だ。
「所属不明船10隻、後方から急速接近」
船団の最後尾を航行するシールド艦が追撃してくる敵船を捉えた。
「シンノスケ達はまだか?」
「まだだ。こちらに向かっているが、ギリギリだな」
「チッ、パイレーツキラーを出すか?」
パイレーツキラーは未だ補給中だが、戦闘が始まると簡単には発艦することが出来ない。
「駄目だ。中途半端な補給で発艦して行動限界になったら目も当てられん。そうなったら戦闘中には収容できないぞ」
「仕方ないな」
「シールド艦からゴルゴーン。船団の後方に下がれ。敵集団を迎え撃つ」
「了解」
ゴルゴーンは船団の後方にまで下がると船体中央部で分離し、1番艦ステンノーと2番艦エウリュアレーに分かれた。
ダムラ星団公国の護衛艦2隻は船団から離すわけにはいかない。
シンノスケ達が間に合わなければシールド艦とステンノー、エウリュアレーの3隻で食い止めなければならないのだ。
「重巡は俺が沈めたから残っているのは巡航艦と駆逐艦だ。この船の武装でも十分にやり合える筈だ」
パイレーツキラーを出せないので仕方なくシールド艦の火器管制を引き受けたザニー。
防御力に特化したシールド艦だが、武装も疎かにはしていない。
駆逐艦に匹敵する主砲に数多くの対空火器を備えているのだ。
ザニーは火器管制席で攻撃準備を整える。
「ミサイルも使っちまっていいか?」
「全弾は使うな。シンノスケ達が間もなく到着する。敵の足を鈍らせればいい」
「分かったよ」
「シールド艦からステンノー、エウリュアレー。お前達も無理をする必要はない」
「「了解」」
ザニーは敵の先頭をいく駆逐艦に狙いを定めるとミサイルの発射ボタンを押した。
ミサイルランチャーから4発の小型ミサイルが発射され、それと同時にステンノー、エウリュアレーも主砲による砲撃が開始した。




