難民船団護衛4
シンノスケは巡航艦に狙いを定めてトリガーを引く。
ケルベロスの主砲が放たれて巡航艦を貫いた。
初撃で重巡航艦と巡航艦、駆逐艦の3隻を失った敵集団は速度を落としつつも反撃を始める。
「相対距離が開いた。巡航艦を警戒しつつ後退。船団は我々に構わずに離脱させる」
ケルベロス以下3隻は牽制攻撃を加えつつ速度を落とし、敵集団と難民船団の距離を更にこじ開ける。
「シンノスケさん、船団は間もなく空間跳躍に入ります」
「了解。我々3隻はこの場で30分間敵船を足止めする。セラ、船団の跳躍離脱ポイントをマークしておいてくれ」
「了解しました。・・・船団は空間跳躍ポイントに到達したらそのまま離脱してください。本艦以下3隻はこの場で敵の足止めを行います」
『『了解』』
3隻はそれぞれの位置を確保すると攻撃の手を強めた。
互いに一定の距離を保ちつつ各艦の主砲による砲撃戦を繰り広げる。
「船団が空間跳躍に入り、宙域から離脱しました」
「了解。ここで敵の足止めを継続する」
「了解しました」
ケルベロスとA884の2隻と、巡航艦を含めた15隻の敵集団の撃ち合いだ。
相互の距離が離れていてエネルギーシールドで対処可能であるため、お互いに決め手に欠けて時間ばかり消費する戦いだが、それがシンノスケの狙いであり、それを理解している敵集団は数に任せた力押しで距離を詰めようとしている。
「15分経過しました」
セイラの報告を聞いたシンノスケは敵集団に向けて宇宙魚雷2発を放つ。
ミサイル程の速度はないが、不規則な機動で迎撃を躱しつつ目標を追うケルベロスの虎の子の兵器だ。
敵集団は密集しつつ弾幕を張り、宇宙魚雷の迎撃を試みる。
「今だ!」
「パイレーツキラーは密集している敵集団右翼側から攻撃を加えてください」
『了解。任せろ!』
敵の右翼側に位置取りをしていたパイレーツキラーが突入を開始する。
宇宙魚雷を迎撃するために密集したところにパイレーツキラーが突入したため、敵集団は同士討ちを恐れて思うように反撃が出来ない。
そんな直中に速射砲を撃ちながら切り込んだパイレーツキラーだが、ザニーは敵船を撃沈することには拘らず、敵の複数の船に軽微な損傷を与えながら集団の中を一気に突っ切った。
その間に迎撃を免れた宇宙魚雷の1発が敵の駆逐艦に命中、轟沈させる。
「パイレーツキラーはそのまま後退し、空間跳躍をして船団を追ってください。船団に合流したら速やかに補給を済ませておいてください」
『了解。一足先にずらかるぜ』
パイレーツキラーは速度を上げて戦域を離脱してゆく。
「我々も後退を開始する」
「了解。A884は本艦と足並みを揃えて後退してください」
『了解よ』
ケルベロスとA884は攻撃の手を緩めることなくゆっくりと後退を開始した。
『いい感じの戦いだったけど、思ったより沈められなかったわね』
アイラの感想は重巡航艦を含めた15隻の集団を相手にしてたった3隻で敵船4隻を撃沈し、こちらの損害は皆無なのだから随分と贅沢なものだ。
先に空間跳躍を抜けた船団は国際宙域を密集しながらアクネリア銀河連邦方面へと進んでいた。
その後を追うようにザニーのパイレーツキラーが空間跳躍を抜けて船団に合流し、ダグのシールド艦に収容されて補給を開始する。
探知可能な周辺に船舶の姿は無く、静かな航行だ。
しかし、探知可能範囲外から船団を監視する集団がいた。
「姐さん、例の船団ですよ。護衛も少ないし、今なら行けます」
「まだだよ。私達の獲物は難民船団じゃない。スポンサーからの依頼はきっちりとこなさないとね。他の連中にも手出ししないように言っておきな!私の命令に従えない奴は後ろから撃ち抜くよ。私に無駄玉を撃たせるんじゃない、ってね」
6隻の集団の中心にいるのは宇宙海賊ベルベットのブラックローズだ。
どのようにして手に入れたのか、アクネリア宇宙軍でも運用されている索敵艦1隻と4隻の宇宙海賊を従え、獲物が現れるのを息を潜めながら待っていた。
ケルベロスとA884は戦闘を継続しながら後退を続け、空間跳躍ポイントに接近する。
「30分経過。空間跳躍ポイントに接近」
「了解。それでA884に続いて我々も離脱する」
「了解しました。ケルベロスからA884、戦域から離脱します。先に空間跳躍に入ってください」
『了解。先に行くわね』
A884は回頭すると空間跳躍ポイントに向けて加速した。
「よし、本艦も離脱する。ミリーナ、ケルベロスのコントロールをこっちに戻してくれ」
「了解ですわ。ユー・ハブ・コントロール」
「アイ・ハブ・コントロール」
シンノスケは敵集団に向けて小型ミサイルを全弾発射すると同時にケルベロスを回頭させて一気に加速する。
「空間跳躍ポイントに接近。5・4・3・2・」
「よし、ワー・」
「今!跳躍開始です」
ケルベロスは跳躍ポイントに飛び込んだ。