難民船団護衛3
ダムラ星団公国領内に進入したシンノスケ率いる護衛戦隊は護衛対象の難民船団と、船団を襲撃する不審船を捉えた。
「各艦戦闘用意!パイレーツキラーは直ちに発艦してください」
『了解!』
シンノスケはダムラ星団公国の護衛艦との通信回線を繋ぐ。
「こちらアクネリア銀河連邦サイラス恒星州所属の護衛艦ケルベロスです。これより船団護衛に当たります。現在の状況、並びに敵船の詳細を送られたい」
『・・・こちらダムラ星団公国所属の護衛艦タイフーンⅡ。現在15隻の敵船に襲撃を受けており、護衛艦3隻と難民船1隻が撃沈された。敵船の所属は不明だが、リムリア軍の旧式艦艇を使用している。重巡航艦1隻、巡航艦3隻、駆逐艦ないしフリゲートが15隻だ』
タイフーンⅡからの返信を聞いたシンノスケの表情が険しくなる。
「難民船まで撃沈したか。宇宙海賊ではないな。リムリア軍のゴーストユニットか下請けのチンピラか・・・」
非正規部隊のゴーストユニットや宇宙海賊崩れの連中に旧式艦を与えて非正規戦を行わせることはリムリア軍がよく使う手だ。
特に今回のように民間船を襲うような非人道的な作戦を担わせることが多い。
彼等が運用するのは軍用艦とはいえ旧式艦ばかりだが、ゴーストユニットは練度が高いし、宇宙海賊崩れのチンピラであっても軍用艦を運用しているので決して油断は出来ないのだ。
「了解しました。状況が状況です。ここからは本艦が全体の指揮を執ります」
『了解。頼んだ』
続けて通信の全回線を開く。
「民間船に攻撃を加えている所属不明船に告げる。我々はアクネリア銀河連邦自由商船組合所属の護衛艦だ。我々はダムラ星団公国からの難民船団護衛を受任しており、たった今、船団は我々の保護下に入った。我々の保護下にある民間船に攻撃を加えるならば、我々は襲撃を排除するための必要且つ最大限の措置を執る!」
シンノスケの警告に対して不審船の返答は無言の砲撃だ。
「敵船からの攻撃を確認しました!本隊はこれより護衛戦闘を開始します。以後、戦隊統制はマークスに、通信管制はセラに任せる」
「「了解」しました」
シンノスケは宣言すると戦隊統制をマークスに通信管制をセイラに委任した。
マークスはシンノスケの指示に対して最適な策を選択してデータリンクシステムで各艦に指令と情報を送信すると共に、その情報を基にセイラが通信による指示伝達を行う。
単独で護衛艦を運用しているアイラ達にはデータリンクシステムによる情報表示に加えて音声による指示もあった方が動きやすいためだ。
「本艦とA884、パイレーツキラーは敵船を食い止めます。シールド艦は船団の最後尾、ゴルゴーンは船団全体の防護に当たってください。タイフーンⅡ以下のダムラ星団公国護衛艦は船団を取りまとめ、船団護衛を継続してください。多少速度が落ちても構いません、船団の隊列を崩さないようにしてください。現時点をもって全ての武器の使用を許可します!」
経験と自主訓練を重ねて通信士としての技術が向上したセイラは自信に満ちたよどみない通信管制を行う。
普段の大人しいセイラとは大違いで、その成長はめざましい。
ケルベロス、A884、パイレーツキラーの3隻が船団と敵船の間に割り込んだ。
敵の重巡航艦から他の敵船に対してしきりに何らかの情報が送信されている。
つまり、敵の指揮を執っているのがこの重巡航艦だと推定され、真っ先に排除すべき目標だ。
「重巡航艦を最優先目標に!」
シンノスケの指示に対してマークスが選択したのは重巡航艦に対するパイレーツキラーによる攻撃だ。
「パイレーツキラーは敵重巡航艦を攻撃してください。ケルベロスとA884が援護します」
『了解だ!あの大物は遠慮なく俺がいただくぜ。真っ先に撃沈して指揮系統と士気を砕いてやる』
ケルベロスとA884が援護の攻撃を開始すると、ザニーのパイレーツキラーは速射砲を撃ちながら最大速度で吶喊した。
しかし、旧式艦とはいえ戦艦並の装備を持つ重巡航艦だ、パイレーツキラーが搭載している速射砲ではそのシールドを破ることは出来ない。
『俺の船はミサイル艇だ。メインは速射砲じゃねえからな!』
ザニーは敵船からの砲撃を巧みにかいくぐり、重巡航艦の直前まで接近する。
パイレーツキラーの照準用モニター一杯に映し出される重巡航艦。
ここまで接近すれば外しようがない、必中距離だ。
『てめえ等に食らわせるには贅沢なもんだが大サービスだ』
ザニーは重巡航艦目掛けて対艦ミサイルの発射ボタンを押した。
パイレーツキラーの船首にある発射管から対艦ミサイル2発が発射され、目標目掛けて超高速で飛翔する。
パイレーツキラーが放った対艦ミサイルは射程こそ短いが、戦艦すらも撃沈する程の威力を持つ代物だ。
パイレーツキラーの速力を生かして敵船の懐に飛び込んで、放たれたミサイルは重巡航艦のシールドや装甲を易々と貫いた。
装甲を突き破り、船体内に食い込んだ2発の対艦ミサイルが爆発する。
ミサイルの威力もさることながら当たり所が悪かった。
1発は重巡航艦の艦首ミサイル発射装置付近に着弾したため、誘爆が発生し、重巡航艦は艦首部分から船体前部が跡形もなく吹き飛んだ。
周囲の敵船がパイレーツキラーを撃沈すべく砲撃を食らわせようとするが、その時にはパイレーツキラーは既に敵船の間を突っ切って背後に出て大きく旋回している。
ザニーお得意の一撃離脱戦法だ。
間抜けな敵船がパイレーツキラーを追って回頭しようとするが、アイラのA884の主砲の餌食となる。
『張り合いがないわね。此奴ら只の雑魚なんじゃない?』
軽口を叩くアイラだが、決して油断してはいない。
重巡航艦と駆逐艦を撃沈し、先制には成功したが状況が不利であることに何ら変わりはないのだ。
「指揮船を沈めてもゴーストユニットなら直ぐに立て直すし、チンピラならそもそも統率が取れていない。気をつけろ。敵の一時的な混乱に乗じて距離を取る」
マークスが即座に次のデータを送信する。
「船団と護衛はそのまま進んでください。本艦とA884は敵を牽制しつつ後退。パイレーツキラーは迂回しつつ敵の右翼側を確保してください」
『了解。側面を突く時は言ってくれ。直ぐに突っ込むぜ』
「了解しました。今のところは待機願います」
マークスのデータを基に的確に指示を出すセイラ。
マークスとの連携にも目を見張るものがある。
「ミリーナ、一時的にケルベロスのコントロールをそっちに回す。速度を維持しつつ後退を続けてくれ。敵の攻撃回避も任せる」
「り、了解ですわ。お任せください」
「頼むぞ、ユー・ハブ・コントロール」
「アイ・ハブ・コントロール」
ミリーナの額に第3の目が開く。
シンノスケはグラスモニターに映る敵の巡航艦に狙いを定めた。
「お前達も腕に自信があるのだろうが、自由商人の護衛艦乗りをなめるなよ」