難民船団護衛2
サリウス恒星州中央コロニーを出港したケルベロスは護衛部隊の集結宙域に向かった。
今回の護衛任務でケルベロスが配置されたのは護衛隊3番隊。
ダムラ星団公国から第1陣としてやってくる5個梯団のうちの1つを護衛する。
アクネリア宇宙艦隊の軍事介入に乗じて避難を試みる避難民の第1陣は当然ながらリムリア銀河帝国艦隊や宇宙海賊に狙われる可能性も高く、非常に危険な役割だ。
ケルベロスの他に3番隊に配置されたのはアイラのA884級フリゲート、ザニーとダグのパイレーツキラー、シールド艦の他に、アレックスとシンシアの双子の兄妹の護衛艦乗り。
アレックスとシンシアの2人が操る双胴式の船体を持つ護衛艦ゴルゴーンは、かつてアクネリア宇宙軍で試験的に運用されたコルベットだ。
操縦士の負担軽減と運用効率の向上を目的とし、2つの胴体を持ち左右対称の形状のゴルゴーンは左右の船体が分離して個別に行動できる特殊な艦だが、実用性に特筆すべき点が無く、少数の艦が短期間運用された後に退役している。
退役した艦はデータ収集用の実験艦となったり、解体処分されたりしたが、僅かだが数隻が民間用に転用された。
何れにしても30年以上前に退役した艦で、一部の艦船マニアからは珍兵器として評価されている有名な艦だ。
ゴルゴーンが分離した際に1番艦ステンノーを操るのが兄のアレックスで、2番艦エウリュアレーを操るのが妹のシンシア。
2人は護衛艦乗りとしてはC級に昇格したばかりで、シンノスケと面識はないが、アイラやザニー達とは共同で任務に当たったことはあるらしい。
このように今回の護衛任務の部隊は互いの連携を考えて編成されていた。
『集まったようね。これから私達はダムラ星団公国まで避難民船団を迎えに行くのだけど、1つハッキリさせておくことがあるわ』
アイラからの通信にシンノスケは頷く。
「誰がこの隊の指揮を執るか、ですね?」
『そのとおりよ。今回の作戦はB級以上の連中の大半は遊撃と予備戦力として温存されていて、矢面に立つのは私達C級が殆どよ。ご多分に漏れず私達も全員がC級。誰が指揮を執るかを決めておく必要があるわ』
アイラの意見はもっともだ。
5隻(6隻?)もの戦闘艦が作戦行動をするとなれば指揮を執る者が必要だ。
『確かにそうですね。でも、私達兄妹はまだC級に昇格したばかりで経験不足ですので・・・』
『大丈夫よ、貴方達に任せるつもりはないわよ。それに指揮官はもう決まっているしね』
アレックスの言葉にモニター越しに笑うアイラ。
『まあな、俺は最前線に特攻するから無理だな』
『そもそも俺達は1人で船を操船しているからな・・・』
ザニーとダグの言葉にシンノスケは嫌な予感を感じる。
『というわけでよろしくね、シンノスケ』
案の定、モニターごしではあるが、全員の視線がシンノスケに集まった。
「私ですか?」
『そうよ。だって貴方だけよ複数の人員で船を運用しているのは。私達は自分の船だけで忙しいの』
『そうだぜ。それに、シンノスケの船のマークスなら戦隊統制もお手のものだろう?優秀な通信士もいるし、見習いだが副操縦士もいる。隊長はシンノスケ以外にいないだろう?』
ザニー達の意見にぐうの音も出ないシンノスケ。
「マスター、私は問題ありません」
「あの、私も頑張ります」
「雑用でも何でも申し付けてください」
挙げ句にマークス達にも裏切られ?たシンノスケは仕方なく3番隊の指揮を執る羽目になったのである。
シンノスケ率いる3番隊はダムラ星団公国に向けて出発した。
予定ではアクネリア銀河連邦とダムラ星団公国の間の国際宙域の公国寄りの宙域で待機し、公国の護衛艦に守られながら避難してくる避難民船団と合流することになっている。
しかし、状況がそれを許さなかった。
「レーダーでダムラ星団公国からの避難民船団をキャッチしました。・・・大変です、交戦中の模様。船団は15隻と公国の護衛艦5隻の予定でしたが、識別信号を出している船の反応が16しかありません!既に犠牲が出ている模様です!他に識別信号を出していないレーダー反応が8・9・・更に増えています!」
双方共に予定宙域に到着しておらず、避難民船団に至っては未だにダムラ星団公国領内を航行中だが、船団が襲撃を受けたことで限界まで速度を上げて一目散に逃げているのだろう。
レーダーの反応も隊列を組めていなく、縦長に分散しており、その後方から半包囲するように所属不明船が追撃している。
「予定どおりお出迎えとはいかなかったな。マークス、セラ、これより戦隊の統制を始めるぞ」
「「了解」しました」
シンノスケは各艦に向けて指示を出す。
「避難民船団が襲撃を受けている模様。本隊は直ちにダムラ星団公国領内に進入して護衛任務を開始します。船団に合流したら直ぐに戦闘を開始しますので各艦は戦闘準備を。本艦はこれより戦隊の指揮を執る」
『『『『了解!』』』』
シンノスケ達も速度を上げてダムラ星団公国領内に進入した。
『シンノスケ、俺のパイレーツキラーの速度なら先行して敵に一撃を加えられるぜ。行くか?』
ザニーは行きたくてうずうずしているようだがシンノスケは首を振る。
「まだ早いです。敵の正体が判明していません。足の速いパイレーツキラーなら先制出来ますが、その後が続かない可能性があります。今は状況を見極めることが優先です」
『了解した。指示に従うぜ。でも、戦力の出し惜しみはするなよ。今回の仕事はエネルギーも武器弾薬も組合持ちの大盤振る舞いだ。遠慮せずに行こうぜ!』
「了解です。戦闘が始まったら頼みますよ」
『おうよ!任せておけ』
その間にも双方の距離は縮まり、状況も見えてくる。
避難民船団を襲っている敵船の数は15隻にも上っていた。