難民船団護衛1
2日後、シンノスケはミリーナを伴って組合に訪れた。
組合のブリーフィングルームに集まったのはC級以上の護衛艦乗りの自由商人37名。
組合には他にもC級以上の者はいるが、半数以上は他の仕事を受けていて、参集出来たのがこの人数というわけだ。
参集している自由商人の中にはザニーとダグ、アイラの姿もある。
大規模な任務が予想されているため、皆一様に緊張した面持ちだ。
そんな自由商人達の前に組合の依頼処理の責任者であるダルシスが立つ。
リナを含めてそれぞれの自由商人の担当職員も集合している。
「自由商人の皆さん、急な召集にもかかわらずにお集まりいただいて感謝します。今回、組合が主体となり大規模な護衛任務が敢行されることになり、参加者を募るために集まっていただきました」
ダルシスはブリーフィングルームを見渡し、一呼吸おいて再び口を開いた。
「護衛対象はダムラ星団公国からの避難民の船団。宇宙艦隊の派遣に合わせてダムラ星団公国からの避難民の船団がこのアクネリア銀河連邦に向けて出発する手筈になっています。数は大小10隻から20隻程度の船団が数十。無論ダムラ星団公国の護衛艦も護衛に付くが、まるで数が足りません。アクネリア側としても我々サリウス恒星州のみでなく、アクネリア・ガーラ・ライラス・イルークの各恒星州から護衛艦を派遣しますが、ダムラ星団公国に隣接しているサリウス恒星州、つまり皆さんが真っ先に護衛に向かうことになります」
予想していたよりも困難な任務の内容にブリーフィングルームに響めきが走る。
本来、紛争地域から避難民を乗せて脱出する民間船を攻撃や拿捕することは国際法で禁じられているが、その国際法が守られることは少ない。
侵攻している軍の側からしてみれば『民間船を装った船で要人が脱出しようとしていると判断した』とか『民間船で兵器を輸送している疑いがある』等と己の正当性を主張してくるのは容易に想像できる。
また、持てるだけの財産を持って国から逃げ出す避難民が乗る船は宇宙海賊の恰好の標的にもなるのだ。
そのように軍隊や宇宙海賊から狙われる船団を護衛するのは命懸けの仕事になることは間違いない。
「確認したいんだが、このサリウス恒星州の組合からはどれ程の護衛艦を派遣するつもりだ?」
ザニーが立ち上がってダルシスに問い掛けた。
「サリウス恒星州に向かってくるのは4つの船団約50隻の予定です。そこで、5隻1組を1隊として5隊、最低でも20隻を考えています。1つの船団に1隊5隻が護衛につき、もう1隊は予備戦力と遊撃です。20隻以上の護衛艦が引き受けてくれれば助かりますが、それに満たない場合にはこちらから指名させてもらいます」
言いながらダルシスはシンノスケを含む複数の自由商人に対して鋭い視線による妙な圧力を送ってくる。
まるで『お前達は断ってくれるなよ』と言わんばかりだ。
ダルシスの説明と視線の圧力、各自の端末に送られてきたデータ、報酬額を吟味し、各々が引き受けるかどうかを判断する。
その後、依頼受諾の可否について確認が行われ、結果として25名の自由商人が依頼受諾を表明した。
ダルシスの圧力に関係なく事前の打ち合わせどおりシンノスケは組合からの仕事を引き受けることにしたが、他に依頼を受諾した自由商人にはザニー、ダグ、アイラが含まれている。
結果、志願した25名が避難民の船団護衛に向かうことになり、直ちに出航するため、それぞれの船に向かった。
シンノスケとミリーナも急いでケルベロスに戻り、直ちに出航しなければならない。
「シンノスケ様、私の我が儘を聞いてくださってありがとうございます」
組合からの依頼を受諾したことに礼を述べるミリーナ。
「別にミリーナの希望だけを聞き入れたわけではない。マークスはともかく、ミリーナとセラがダムラ星団公国の民のために希望し、俺は自由商人としての損得で依頼受諾を決めただけだ。現に示された報酬は俺が予想していた以上の額だったしな。危険に見合うだけの割のいい仕事だ」
素っ気なく話すシンノスケだが、ミリーナはシンノスケの真意を見抜いているようだ。
「シンノスケ様、嘘が下手ですわね」
「別に嘘をついているつもりはないよ」
「ふふっ、そういうことにしておきましょう」
そんなことを話していたシンノスケとミリーナだが、ふと気がつくと、リナが何かを言いたげな表情でシンノスケを見ている。
「ミリーナ、先にケルベロスに戻ってマークス達と出航準備を進めておいてくれ」
シンノスケの言葉を聞いたミリーナは全てをお見通しのようだが、無粋なことは言わない。
「畏まりましたわ。先にケルベロスに戻っています」
ミリーナはそう言い残すと先に組合を出ていった。
その間にリナはシンノスケに歩み寄る。
「シンノスケさん、気をつけてください。必ず帰ってきてください・・・」
不安そうな表情を隠そうとして、いつも以上に真剣な表情でシンノスケを見上げるリナ。
「分かりました。行ってきます」
シンノスケの短い返事にリナの不安は更に膨らむ。
リナも今回の船団護衛任務が非常に危険なものであることは理解しており、本心ではシンノスケを向かわせたくはない。
しかし、仕事を依頼している側の組合職員であるリナはシンノスケを引き止めることは出来る筈がないのだ。
「シンノスケさん。本当に気をつけてください。・・・いってらっしゃい」
リナの精一杯の笑顔にシンノスケは敬礼で応えた。
シンノスケがケルベロスに戻るとマークス達が出航の準備を進めていた。
「マスター、艦のチェックは完了しています」
「出航の手続きも済んでいます。出航要請をすれば何時でも出航できます」
マークスとセイラの報告を聞いたシンノスケが頷く。
「了解。今回の仕事はダムラ星団公国からの避難民の船団護衛だ。危険で困難な任務だが、引き受けたからには完遂しなければならない。みんな、覚悟はいいな?」
シンノスケの言葉にマークス、セイラ、ミリーナが敬礼で応えた。
 




