戦火の広がり。その時自由商人は?
リムリア銀河帝国とダムラ星団公国の紛争は泥沼の様相を呈していた。
攻め入る帝国軍に対して数で劣る公国軍は防衛戦を主体としているが、公国の首都が帝国側に隣接しているが、首都防衛のために多くの戦力を集結する必要があるため、辺境地域の防衛が疎かになってしまい、公国は開戦以降辺境地域を中心に領域の2割程を帝国に奪われてしまったのである。
アクネリア銀河連邦宇宙軍も公国との境界付近に展開していた艦隊の再編成を進めており、軍事介入も近いと噂されており、戦火の更なる拡大は時間の問題だ。
そんな情勢の中、シンノスケはセイラを伴って商船組合に来ていた。
新たな仕事を見繕うためだ。
「ダムラ星団公国方面の仕事が多いですね。しかも報酬が高額です」
セイラは組合に出されている仕事を端末で検索しているが、セイラの言うとおり、ダムラ星団公国への物資輸送の仕事が多く、その報酬額も跳ね上がっている。
2人が端末検索をしていると何かと縁のある2人組に声を掛けられた。
「おっ?シンノスケと嬢ちゃんじゃねえか。仕事探しか?」
ザニーとダグだ。
「ええ、色々とキナ臭くなってきましたが、我々自由商人はそんなこと言ってられませんからね。稼げる時には稼がないと」
「まあそうだな。こんな時勢になると結構旨い仕事があるからな。で、嬢ちゃんを連れて仕事を見繕っているわけか。もう1人の姉ちゃんはどうした?」
「私のとこもクルーが増えましたからね。役割分担を明確にしようと思っているんですよ。セイラは通信と管制、各種事務手続きで、ミリーナは副操縦士見習い兼法務担当ってな感じです」
自由商人は組合に所属しているが基本的に個人事業主だ。
船を動かして仕事をすればいいというものではなく、行政手続きや納税申告等雑多な手続きも多い。
基本的な手続きは組合の担当者が代行してくれるが全ての手続きというわけにはいかないし、組合の担当者では賄えない手続きや、最終的には手続きのチェック等は自分でしなければならないのだ。
「なんだ、シンノスケは船の運航以外の面倒くせえ事務仕事も自分でやってんのか?」
「ええ。私のところには優秀な相棒がいますからね。今まではマークスが事務手続きを進めて、最終的に私がチェックしていたんです。でも、クルーが増えたんでね、私が楽をするための分担ですよ」
「ふーん。まあ俺達はその辺の手続きは組合と契約している書士や税理士、弁護士なんかに丸投げだからな。色々考えるのは面倒くせえんだ。スパッと仕事をこなしてガッツリ稼ぐ方が性にあっているしな」
「ザニーは適当過ぎる」
呆れ顔のダグにザニーは声を上げて笑う。
「ワハハッ、いいじゃねえか。組合通してやってんだし、そういった職業の連中にも仕事を回すってのも大切だせ」
ザニーの考えにシンノスケとセイラはも思わず感心した。
セイラに至っては何かとかまってくる豪快なおじさんの意外な一面を見て驚いているようだ。
「ところで、お前達はどんな仕事を引き受けるつもりだ?」
シンノスケにダグが問い掛ける。
「そうですね。ダムラ方面の仕事が増えているみたいですが、艦隊の派遣も決まったようだし、どうしたものかと・・・」
思案しているシンノスケにザニーが何かを思い出したかのように口を開く。
「それなんだがよ、組合が俺達護衛艦乗りに召集を掛けるみたいだぞ」
「召集、ですか?」
「ああ、俺達も担当職員から聞いたんだけど、かなりデカい仕事らしいぜ。ほら、お前達の担当の姉ちゃんが呼んでいるぜ」
カウンターを見てみればリナがシンノスケに向かって手招きをしている。
シンノスケが行かなければリナの方がカウンターから出てきそうな勢いだ。
「多分、俺が言った仕事の話だぜ。受けるか受けないかはシンノスケの自由だが、俺達としてはお前達と組みたいところだ。まあ、話を聞いてみろよ」
ザニーに促され、リナの待つカウンターに来てみれば、ザニーの言ったとおりの用件だった。
「シンノスケさん、申し訳ありませんが、明後日の正午にまた組合に来てくれませんか?C級以上の護衛艦乗りの皆さんに召集が掛かりました。組合からの仕事の依頼ですが、詳細は当日説明されます。仕事を受諾するかどうかの選択肢はありますが、受諾するとなると直ぐに出航してもらいますのでそのつもりでお願いします」
「宇宙艦隊の派遣が決まったようですが、それに関連した仕事ですか?」
「詳細はまだ説明出来ませんが、直接的には関係ありません。まあ、連邦政府が関係していますので全く無関係とは言えませんが、あくまでも、商船組合として自由商人である護衛艦乗りのセーラーさんにお願いする仕事です。戦争が始まるとそういう仕事もあるんですよ」
リナも説明できないというよりは、そもそも詳細を知らされていないようだ。
ただ、組合からの召集に対しては他の仕事を受けていない場合は応集義務がある。
ザニーやリナが言うとおり仕事を受けるかどうかは選択できるらしいが、今のところ他の仕事を受けていなかったシンノスケは召集には応じなければいけない。
仕方ないので明後日の召集に応じることを伝え、ひとまずは引き上げたシンノスケはケルベロスに戻りマークス、セイラ、ミリーナと話し合うことにした。
「仕事の詳細は分からないが、C級以上の護衛艦乗りを集めるということは相当な危険を伴う仕事であることは間違いないだろう。しかも、明後日に仕事を受けることを決めたら直ぐに出航だ。だから皆の意見を聞いておきたい」
何をさせられるのか分からない状態で難しい判断だ。
「私は是も否もありません。どうにも私のシステムは判断材料が乏しい状況でマスターやセイラさん、ミリーナさんを巻き込むような決断は難しいですね。強いて言えば、マスターの判断には異を唱えるつもりはありません」
マークスはシンノスケ達に従うという、平たく言えば『どっちでもいい』ということだ。
「私は引き受けたいと思いますの。国を捨てた身ではありますが、帝国の愚行に対して何か報いてやりたいですわ。まあ、これは私の私怨ですので聞き流してもらって結構です。でも、帝国の侵攻で公国の皆さんが危機に瀕していて、それに手を差し伸べることができるなら、私はそれを成し遂げたいですわね」
ミリーナは受諾の意思を示す。
「あの、私も、怖いですけど、困っている人がいるなら、やってみたいです」
セイラも同じ判断だとすれば後はシンノスケの腹一つ。
最終的には明後日にことの詳細を聞いてからの判断だが、今のところ8割方受諾する方向だ。
この時のシンノスケ達の選択が正しいものだったのかについては、この時にも、全てが終わった後になっても判断することは出来なかった。