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旅客船の危機、シンノスケの決断

 どうにかダムラ星団公国の首都星軌道ステーションコロニーを脱したケルベロスはアクネリア銀河連邦への帰路を急ぐ。

 ダムラ星団公国港湾局の情報によればリムリア銀河帝国は多方面から複数の艦隊による侵攻を試みており、公国側はかなり押されているようだ。

 首都星の付近にも防衛のため、公国軍の艦隊が展開している。


「かなり切迫した状況だな」


 シンノスケは防衛艦隊の邪魔にならないように迂回する航路を選んで進む。


「元々リムリア銀河帝国とダムラ星団公国では国力も保有戦力も差がありますからね。それでも帝国が今一歩攻めきれないのは侵攻作戦に投入する戦力が限られているからでしょう。どのような理由や目的があるのは分かりませんが、国際法を無視した侵攻です。下手をすると6325恒星連合国やアクネリア銀河連邦が介入してくる可能性もありますから、それに備える必要もある筈です」


 マークスの分析どおり、リムリア銀河帝国はダムラ星団公国侵攻に相当な戦力を投入しているが、それでも公国全体を攻めるには戦力が足りていない筈だ。

 おそらく、帝国の狙いは短期決戦によって公国の首都星を陥落させ、政治中枢を掌握するつもりの可能性が高い。

 無論、公国側も易々と敗北するつもりはないだろうから、周辺宙域が戦火に包まれるのは時間の問題であり、他国の民間船であるケルベロスは一刻も早く脱出する必要がある。


「とにかく、早急にダムラ星団公国の領域を出よう」


 シンノスケはスロットルレバーを押し込んでケルベロスの速度を上げた。



 翌日、ケルベロスは未だダムラ星団公国の領域を航行していた。


「アンディのビートルは既にアクネリアに帰っているんだな?」

「はい、航行計画どおりなら、船団護衛の後に補給を済ませてアクネリアに向けて出港しています。今頃は公国の領域を抜けて国際宙域に入っていることでしょう。ラングルド商会の貨物船はそれぞれ違う目的地に向かうということでしたが、何隻かは未だに公国のステーションコロニーに留まっているでしょうね」

「それは仕方ないことだ。俺達にはどうすることも出来ないしな」


 シンノスケとマークスがそんな話をしていた時、周辺の警戒をしていたセイラが声を上げた。


「救難信号を受信。アクネリア船籍の旅客船、ブルーホエール号が武装船の追跡を受けているとのことです!」


 ブリッジ内に緊張が走る。


「混乱に乗じて宇宙海賊でも出たのか?」

「分かりません。ただ、救難信号が繰り返し発信されています」

「位置は?」

「現在地から約3時間の距離です」


 状況は分からないが見過ごすわけにもいかない。

 シンノスケの護衛艦業務資格はアクネリア銀河連邦、6325恒星連合国、そしてダムラ星団公国での活動が認められているが、それに加えて護衛艦としての責務も課せられているのだ。

 救難信号を発している民間船を救助するために必要な措置をとる義務がある。

 加えて、救難信号を発しているのがアクネリア船籍の民間船ならば尚更だ。


「本艦はブルーホエールの救助に向かう。マークス、ブルーホエールに連絡、こちらに誘導してくれ・・・」

「最短で合流できる地点は計算済みです。ブルーホエールを誘導すれば1時間50分で合流できます」


 シンノスケの言葉をセイラが遮る。

 先を見越していたらしく、オペレーターとしてはめざましい成長だ。


「よし、セラに任せる。ブルーホエールを目標地点に誘導してくれ。本艦も急行する!」


 シンノスケはセイラが指定したポイントに向けて舵を切り、合流地点へと急いだ。



 1時間30分後、ケルベロスはブルーホエールとブルーホエールを追う不審船3隻を捕捉した。

 

「ブルーホエールを確認。アンノウンは・・・嘘だろう?リムリア銀河帝国軍だと?」


 ブルーホエールを追跡している武装船は3隻。 

 それぞれリムリア銀河帝国軍の識別信号を発している。

 宇宙海賊ではない、ブルーホエールはリムリア銀河帝国の軍艦に追われているのだ。


「識別信号を照合。帝国軍の巡航艦1隻と駆逐艦2隻です」


 マークスの報告にシンノスケは歯噛みする。


「巡航艦と駆逐艦?ケルベロスでは分が悪過ぎる。そもそも何故帝国軍が他国の民間船を追い回しているんだ」


 シンノスケの疑問は当然だ。

 リムリア銀河帝国がダムラ星団公国に侵攻しており、それだけでも国際法違反だが、帝国軍の艦船が公国の領域内で民間船に対して臨検をしたり危害を加えることも重大な国際航宙法違反である。

 帝国の軍艦が民間船であるブルーホエールを襲っているのなら、シンノスケが実力をもってブルーホエールを救うことは正当業務行為だ。

 しかし、ケルベロス1隻で帝国正規軍の巡航艦と駆逐艦を相手にするにはリスクが高すぎる。


「どうしますか?介入しますか?」


 マークスの問いにシンノスケが答える前にミリーナが声を上げた。


「シンノスケ様、お願いです。あの船を助けてあげてください。亡命した身とはいえ、元帝国貴族として帝国軍のあのような暴挙を捨て置けません!」


 ミリーナに言われるまでもない。

 シンノスケの腹は決まっている。


「直ちにブルーホエールを救助するための措置を執る。セラ、救難及び開戦信号を発信。続いて警告を実施する」

「了解しました。回線を強制接続、何時でもどうぞ」


 シンノスケはグラスモニターを装着し、ロックを解除して各武装を起動すると共に警告を行う。


「リムリア銀河帝国艦船に通告する。こちらはアクネリア銀河連邦サリウス恒星州自由商船組合所属の護衛艦ケルベロス。貴船はダムラ星団公国領内において民間船を不当に追跡しているが、これは国際航宙法に違反している。直ちに不法行為を止め、追跡中の民間船から離れろ」


 1回目の通告を実施してもリムリア艦船の行動に変化は見られない。

 

「警告する。リムリア艦船は直ちに不法行為を止めろ。警告に従わないなら本艦は法と規則に従って必要な措置を執る!」


 2回目の警告が終了。

 以後はケルベロスが武力行使をしても、仮に帝国艦を撃沈したとしても国際航宙法に従った上でのことで、何も咎められることはない。


 シンノスケは速射砲の照準を巡航艦のエンジンに定めた。


「リムリア艦から通信。スピーカーに繋ぎます」

『我々はリムリア銀河帝国法及び軍の規則に則って行動している。我々の行動を妨げるならば貴船も敵とみなし、即刻撃沈する!』


 巡航艦の主砲がケルベロスに向けられた。


「敵艦に発砲の兆候!」

「了解!回避しつつ反撃する!」


 シンノスケが操舵ハンドルを転把すると同時にリムリア艦3隻が砲撃を始める。

 シンノスケは敵の砲撃を躱しながらトリガーを引いた。


「こうなったら後には退けないぞ!」

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