表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/333

侵攻

 海賊の襲撃を退けた船団はその後は順調に航行を続け、無事にダムラ星団公国に到着した。


『オリオンから護衛艦ケルベロスとビートルへ。今回も無事に目的地に到着できました。ここまでの護衛に感謝します』

『こちらビートル。こちらこそありがとうございます』

「ケルベロスです。またよろしくお願いします」


 船団がダムラ星団公国の首都星軌道ステーションコロニーの管制下に入ったため護衛任務もここで終了。

 司令船オリオンからの通信を最後に任務終了、解散となった。


 ラングルド商会の貨物船は納品を済ませた後、直ちにダムラ星団公国で新たな積荷を積載して出航するとのことだ。

 8隻が別々の目的地に向かうため、ダムラ星団公国の商船組合で護衛艦を雇うらしい。


 アンディとエレンは初めての仕事をやり遂げたということで、アクネリアへの帰路では無理をせず、護衛依頼を受けずに帰る予定だという。

 そして、シンノスケ達にはレイヤード商会との商談が待っている。


 三度レイヤード商会との商談に挑むため、セイラとミリーナを伴って商会に赴いたシンノスケ。


「ご注文を受けたレアメタルですが、事前に連絡を入れたとおり、№1247は注文どおり20トン用意出来ましたが、№854は3トンしか用意出来ませんでした。もし、注文どおり10トンでないと駄目ならば、№854は取引を辞退します」


 シンノスケの言葉にレイヤードは頷いた。


「いや、3トンでも結構です。買い取らせていただきます。実は、公国内でレアメタルの仕入れが非常に困難になっておりまして、私共としましても少しでも仕入れておきたいのですよ」

「市場で何か変化でもあったのですか?」

「そうですね、ダムラ星団公国での採掘量が少なく、他国からの輸入に頼っているレアメタルの種類、№1247や№854も含まれているんですが、公国政府による買い取り量が増えておりまして、私達のような中小企業では入手が困難になっています。ですので、カシムラ様のように専属取引をしてくれる他国の商人は今の私共には正に命綱です。多少足下を見られても手放すわけにはいかないのです」


 珍しく自らの弱みを見せるレイヤードだが、それ自体がレイヤードの策なのかもしれない。

 尤も、シンノスケにしてみればレイヤードの足下を見るつもりはなく、通常価格で取引して貰えれば十分で、それだけでも儲けが出るから不満はないのだ。

 それでもレイヤードは通常価格に少しばかり上乗せした価格でレアメタルを買い取ってくれたのである。

 今回は腹の探り合いもなく、非常にスムーズに貿易取引を終えることが出来た。


 商談後のお茶をご馳走になっている際にレイヤードがミリーナを見る。


「そういえば、リムリアから亡命したミリーナさん、でしたか?カシムラ様の護衛艦で働いているとは意外でした。私も貴女の亡命宣言を拝見しましたが、その後はアクネリアで静かに暮らしているものかと思っていましたよ」

「労働は尊いものですもの。私も帝国を捨ててアクネリアの市民になったのですから、労働や納税の義務は果たさなければなりませんわ。アクネリアは職業選択の自由が保証された自由の国。私も好きな仕事で1人の職業人として一人前になれるように精進しているところですわ」


 そこでレイヤードはミリーナのイヤリングの話題に触れた。


「そのイヤリング、私がカシムラ様にお譲りしたものですね?」

「ええ、シンノスケ様からの私への贈り物ですわ」


 艶っぽい目でシンノスケを見るミリーナだが、シンノスケは気付いていない。


「なるほど。そうしますと、私がカシムラ様にその宝石を託した理由も聞いていると思いますが、率直な感想をお聞かせいただけますか?」

「そうですわね・・・。とてもキレイだし、面白い物だと思いますわ」

「ほう、それでは気に入っていただけたと?」

「当然です。とても珍しいものですし、宝石としての成型も見事なものです。それに、これはシンノスケ様からの贈り物なのですから、一生ものですわ」


 この言葉はシンノスケにも聞こえたが、シンノスケは敢えて聞こえないふりをした。

 不思議なことに、宝石を受け取っていないセイラが何か勝ち誇ったような表情を見せているが、その理由は分からない。


「そうしますと、その宝石は新たな商品としての見込みはあると思いますか?」


 レイヤードの問いにミリーナの表情がスンッと冷たくなる。


「商品としてはまあいいでしょう。ただ、これを宝飾品としての戦略を練っているなら、失敗しますわよ」


 ミリーナの言葉にレイヤードがニヤリと笑う。


「ほう・・・」

「宝飾品として、大衆向けとするならば活路は十分にありますわ。ただ、そのためには一般市民でも手が届く価格にまで抑える必要があります。もしも、これを高級宝飾品として売り出すことを考えているならば、間違いなく失敗しますわ」

「理由をお聞かせいただけますか?」

「高級宝飾品を嗜むハイクラスの人々は身に着ける宝石はナチュラルで控え目なもの、人の手では生み出せない自然の美しさを好みます。太古の昔より美しい宝石が人々を魅了してきたことこそがその証拠ですわ。この宝石のように人の手が加わり過ぎた物やゴテゴテと飾り立てた大きさや派手さだけの物をこれ見よがしに着けるのは、物の本当の価値を見出せない、小金持ち、言わばにわか者達です。でしたら、ターゲットをぐっと下げてカジュアルなものとして売り出した方がいいですわ。ただ、それだと流行り廃りが激しいので、気をつける必要がありますわ。もしも、価格を抑えられて、ある程度大量に生産できるならば、別の販路も見出せるのではありませんの?例えばアミューズメント施設の装飾とか、ですわ」


 ミリーナの話を興味深そうに聞いていたレイヤードは深く頷いた。


「なるほど!忌憚の無いご意見、ありがとうございます。今後の参考とさせていただきます」


 聞けば、この宝石は未だ安定生産には至っていないが、その目処もつきつつあり、更にある程度の量が生産されたので、試験的に市場に出してみることを考えていたらしい。

 ただ、今のところは生産量も少なく、コストも高いため、高級宝飾品としての販売を考えていたらしいが、ミリーナの意見を聞いて軌道修正を検討するということだ。


 3度目のレイヤード商会との取引は極めてスムーズに、そしてミリーナの独壇場のようなものだったが、無事に終えることが出来た。

 後は帰路の準備をして帰るだけだ。

 レイヤード商会への納品を済ませ、宇宙港に係留されているケルベロスでそんなことを考えていた矢先、ダムラ星団公国全域に向けて緊急放送が流された。


『本日、リムリア銀河帝国の宇宙艦隊が我が国の領域に侵攻。我が国に対して宣戦を布告しました。現在、帝国艦隊は我が国の辺境警備隊及び第3艦隊と交戦中です。市民の皆さんは落ち着いて、次の発表をお待ち下さい』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] こらこら。 待てマテまて。 ナニとち狂ってんだ?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ