船団護衛1
ケルベロスは予定の宙域でラングルド商会の船団とビートルと合流した。
「ラングルド商会の船団並びにビートル、こちらケルベロスです。よろしくお願いします」
セイラがラングルド商会の船団とアンディのビートルに通信を入れる。
『こちらラングルド船団の司令船オリオン。ケルベロスとの仕事は2回目ですね。今回もよろしくお願いします』
『こちら護衛艦ビートル。私達は初めての護衛任務ですのでケルベロスの指示に従います。よろしくお願いします』
シンノスケ達は合流した宙域で改めて隊列を組む。
船団は2隻の大型船を中心に2列縦隊を組み、隊列が長くならないようにし、その2列縦隊の先頭にビートルを配置し、ケルベロスは最後尾上方に位置して、警戒態勢を取る。
経験も浅く、火力も弱いビートルを先頭に置き、ケルベロスは全体を把握できる位置であらゆる事態に対応する、シンノスケとアンディで予めシミュレートしていた基本的な隊列だ。
「ケルベロスからオリオン。本艦並びに護衛艦ビートルは通常航行時はそちらの指揮管制下に入ります。準備は整いましたのでいつでも出発して貰って結構です」
『オリオン了解しました。それではダムラ星団公国に向けて出発します』
貨物船6隻と護衛艦2隻の計8隻はダムラ星団公国に向けて出発した。
ダムラ星団公国まではケルベロスなら約2週間の行程だが、足の遅い貨物船の船団に帯同しているので3週間は掛かる予定だ。
「さて、長丁場になるが、緊張状態に緩急をつけて航行しよう。さしあたり、最初の数日間はアクネリア領域の航路で沿岸警備隊や宇宙軍が警戒しているから危険は少ない。休める時には休みながら行こう」
宇宙海賊が出没するのは主に宇宙軍や沿岸警備隊の目が届かない国際宙域や、排他的経済宙域だ。
これらの宙域でも救難信号を発信すれば近接する国の宇宙軍や沿岸警備隊が救助に駆けつけるが、到着までは時間が掛かる。
つまり、宇宙海賊にとっては恰好の仕事場であるのだ。
シンノスケはアンディに通信を入れる。
「ケルベロスからビートル艦長のアンディへ。ここから3日間は海賊が襲撃してくる可能性は極めて低い。警戒を怠るわけにはいかないが、肩の力を抜いていこう。オートパイロットを活用して疲労の蓄積を抑えた方がいい」
『ビートル艦長のアンディです。了解しました』
通信越しでもアンディが緊張しているのがよく分かる。
しかし、適度な緊張は仕事をする上で必要不可欠なので、シンノスケも敢えてそこには言及しない。
改めてアンディのビートルを見れば、シンノスケのアドバイスを取り入れ、結果的にラングルド商会に付け込まれたのだろうが、艦の上部と左右側面に3門の大口径の対空レーザー機銃が増設されている。
「ステアード・アーマーメント製のSL35対空機銃か。軍の中古品だろうが、悪くない選択だな・・・」
ビートルの新しい対空機銃はケルベロスのレーザーガトリング砲程の威力や速射性には及ばないが、機銃としてはなかなかに強力だ。
アクネリア宇宙軍の艦艇にも採用されていたが、既に型遅れで、このSL35対空機銃を装備している艦は殆ど無い。
ラングルド商会は軍の放出品をアンディに斡旋したのだろう。
どの程度の値段で売りつけたのかは知らないが、中古とはいえその性能に間違いはない。
護衛艦乗りは新人、ベテランに限らず、装備品には気を配ることが大切だ。
威力もそうだが、自分に合った装備品を持つことで生存率が上がり、アンディのような新人が経験を重ね、手練れの護衛艦乗りとして育っていくのである。
尤も、そのおかげでアンディ達はラングルド商会にいいように使われているのだが、やはり悪徳商会と言われていても、商売に対してはいい加減な取引はしないのだろう。
最初の3日間はシンノスケの予想どおり、何事もなく順調に進むことが出来た。
しかし、異変が起きたのは4日目だ。
レーダーによる警戒と通信を担当しているセイラが声を上げた。
「左舷方向アンノウン。レーダー索敵範囲ぎりぎりの位置を一定の距離を保ちつつ併走しています」
シンノスケもモニターで確認する。
「偵察だな。よし、各種武装のロックを解除。ビートルにも伝達、武装を起動し、各砲門を左舷方向のアンノウンに向けてやれ」
『ビートル、了解』
言いながらシンノスケも武装のロックを解除して起動させると左舷方向に砲門を向けた。
「アンノウン急速離脱。索敵範囲から離れていきます。・・・今の、海賊でしょうか?」
宇宙海賊の偵察がつかず離れずに付き纏ってきた場合、その進路先で別の海賊船が待ち伏せしているのはよくあることだ。
しかし、今回はつかず離れず、ではなく、完全に離脱していった。
「宇宙海賊の偵察だったんだろうが、この船団を狙うのを止めたんだろう。自分達では無理だと判断したんだろうな。海賊とはいえ、そういった危機管理が出来ることが長生きの秘訣だよ」
シンノスケの言ったとおりその後の航路では海賊に出会うことも無く、いよいよ1回目の空間跳躍ポイントに接近した。
流石に8隻同時に空間跳躍は出来ないので、先ずケルベロスが空間跳躍をして、跳躍先の安全を確保する。
「座標計算終了、跳躍先の座標を固定しました」
マークスの報告を受けてシンノスケはスロットルレバーを押し込んでケルベロスを加速させた。
「跳躍突入速度に到達しました。跳躍ポイント接近、カウントダウン開始します。5、4、3、2、1・・」
「ワー・・」
「クシュンッ!あっ、すみません」
シンノスケの声はセイラのくしゃみにかき消された。