凶悪海賊シンノスケ2
「さて、行きますか。ここからは手加減をしても手は抜きません。本当の試練はこれからです。もう休ませませんよ」
「よっしゃ!やってやるか。奴等に地獄を見せてやるぜ」
完全に悪者と化したシンノスケ達。
凶悪な海賊達の仕事が始まる。
ビートルとA884は最終目標ポイントまであと1日弱の地点まで到達していたが、そこで宇宙海賊による猛攻を受けていた。
「畜生っ、急に激しくなったぞ!」
「左舷方向、直撃来ます!」
「くそっ!避け切れない」
「・・・撃沈判定。想定一時停止。30分後に想定再開です」
「くそっ、これで何回目だよ!」
「この8時間で3回よ。護衛対象も含めると6回の任務失敗。海賊の攻撃をまるで捌けなくなってきたわ」
アンディ達3人は想定再開に向けて準備を進める。
目標地点はまだ先だ。
その頃、護衛対象のA884のブリッジではアイラが苛つきを露わにしていた。
「まったく、何時まで続くのかしら?何も出来ないってのもストレスが溜まるわね!」
シンノスケ達の猛攻が始まってから今まで、A884も幾度となく攻撃を受け、2回の航行不能判定と1回の撃沈判定を受けたのたが、歯がゆさも相まってアイラがイライラしているのだ。
「私、最後まで我慢出来るかしら・・・」
アイラは物騒なことを言い出した。
ビートルの撃沈判定を受けて想定の一時停止を受け、ビートルから離れたシンノスケ達だが、直ぐに態勢を立て直し、次の攻撃に備えている。
「彼奴ら、手も足も出なくて凹んでいるんじゃないか?」
そんなことを話ながらも楽しそうになザニー。
「そうですね。完膚なきまでに叩きのめしていますからね。でもまだまだ終わりませんよ。心がへし折れようが何だろうが、このまま続けましょう。ここから数時間が彼等の正念場になります。・・・そして、セラにとっては最後の試練です」
シンノスケも戦闘艇の補給を済ませて再び襲撃に向かった。
手前の宙域で数時間襲撃が止んだ隙に休息を取り、体力を回復したアンディ達だが、その後に再開された猛攻で早くも疲労困憊の状態だ。
「また来たわっ!これは目標地点まで攻撃の手は止まらないわよ!覚悟を決めましょう!」
エレンが叫ぶが、アンディもセイラも分かっている。
今行われているのは実戦で宇宙海賊が最後の勝負を仕掛けてきた想定だ。
「薄々気付いていたよ。あの3人組は多少は手加減をしてはくれているけど、実際に起こりうる襲撃を想定してくれているんだ。本気で護衛艦乗りになるならばこれ位は耐えてみせろってな。しかも、俺が護衛艦の乗組員だった時だってこんな襲撃は受けたことはない。つまり、手加減しているとはいえ、並の海賊以上の攻撃だ。これに比べればそこらにいる宇宙海賊なんて大したことないぞ」
多少なりとも経験のあるアンディはシンノスケ達の意図を理解した。
「あの、私もそう思います」
「これが先輩達からの愛の鞭ってことね!」
「そういうことだ!だから、何度やられても最後までやり遂げよう!」
アンディ達は本当の意味で覚悟を決めた。
ダグのシールド艦で進路を塞ぎつつ、ザニーのパイレーツキラーとシンノスケの戦闘艇で波状攻撃を仕掛ける3人。
「パイレーツキラーからスティンガー!俺は護衛対象を狙う。護衛艦は任せるぜ!」
「了解しました」
シンノスケはビートルとの距離を一気に詰めるとビートルの真下に回り込む。
下方に火力が無いビートルの完全な死角だ。
「くっ、下に潜られた!船体を90度回転、横倒しさせる!」
舌打ちしながら操舵ハンドルを転把するアンディ。
「90度?180度じゃないの?」
「敵は身軽な戦闘艇だ。また直ぐに回り込まれるから姿勢移動は最小限でいい」
船体を横倒しさせると対空機銃で弾幕を張る。
相変わらず薄い弾幕だが、敢えて広範囲にばら撒いた。
案の定敵船には再び船体下部に潜り込もうとするが、直ぐに船体を起こして応戦する。
薄い弾幕だが戦闘艇も迂闊には近づけない、それで十分だ。
「敵の高速艇、A884に向かっています!」
「了解。主砲で敵の進路を妨害する。A884、敵の高速艇が反転したら最大速度で逃げてください」
『了解したけど、私の進路上を別の敵船が塞いでいるわよ』
「大丈夫です、そっちの敵船は足が遅い。A884なら振り切れます」
『了解したわ。でも、ビートルだけで3隻を食い止められる?』
「大丈夫です。必ず後を追います!先に行ってください」
視野を広く取りながら指揮をするアンディだが、その声を聞いたセイラは思わず端末を操作する手を止めた。
「・・・あっ、2号要件」
「えっ?何だって?セイラ、何か言ったか?」
「いえ、何でもありません」
一瞬だけセイラを訝しげに見たアンディだが、細かいことを気にしている暇はない。
「敵の進路を妨害する。主砲3連射!」
アンディはパイレーツキラーの進路上の空間に向けて主砲を放った。
狙いをつけたところで躱される。
命中させるのではなく進路を妨害するのが目的だ。
狙いどおり、進路を妨害されたパイレーツキラーは反転してA884との距離を取る。
「よし、次はA884の進路を塞ぐあの船だ。主砲発射!」
続けてシールド艦に向けて主砲を放つ。
シールド艦は停船しているので躱さなければ命中するが、有効射程外なので命中したところで撃沈までは望めないし、避けるのも容易だ。
アンディの予想どおり、シールド艦は危なげなく砲撃を躱す。
「今だ!脱出して下さい!」
『了解。先に行くわよ!』
一瞬の隙を突いてアイラのA884は戦域を離脱することに成功した。
アンディの策に嵌まったザニーとダグ。
2人もアンディの行動を予測していたが、敢えてそれに乗ってやることにしたのだ。
甘いかと思ったが、並の宇宙海賊なら損害を恐れて同じ行動をするだろうから、有効な判断だろう。
『シールド艦からパイレーツキラー、目標に抜かれた。シールド艦の足では追いつけん』
ダグからの通信受けたザニーはニヤリと笑う。
「そろそろ目標地点か。間もなく訓練も終わりだな。だが、ただでは終わらせないぜ。シンノスケ、ここからは好きにしていいな?」
『どうぞ、ご自由に。私も護衛艦を片付けたら後を追います』
ザニーはスロットルレバーを押し込んで加速するとA884の後を追った。
アンディのビートルはシンノスケの戦闘艇によってこの想定訓練で5回目の撃沈判定を受けたが、護衛対象を逃がすことには成功したので今のところ想定終了には至っていない。
「アイラさんがこのまま目標地点まで到達してくれればいいけど」
「そうね。最後くらいは成功判定が欲しいわね」
今から追ったところでビートルの足では海賊の戦闘艇や高速ミサイル艇にも、護衛対象のA884にも追いつけない。
「そうは言っても最後まで全力を尽くそう!最大速度で後を追うぞ!」
「そうね。行きましょう」
追いつけないからといって、諦める理由にはならない。
アンディは最大速度でアイラ達の後を追った。
アイラの護衛艦であるA884級フリゲートはザニーの高速ミサイル艇程ではないが、高速性能に優れた船だ。
戦闘宙域を離脱したアイラは目標地点まで一直線に最大速度で向かう。
「せっかく切り開いてくれたんだから逃げ切ってあげるわよ」
現在の状況が最後の想定になる筈で、後に残ったビートルは撃沈されるだろう。
しかし、護衛対象のA884が目標地点に到達すれば護衛任務は成功だ。
最後くらいはアンディ達に花を持たせてやりたいし、この訓練で仮想の護衛対象をしていたアイラ自身もストレスが溜まっていたので遠慮無しに艦をすっ飛ばす。
ブリッジ内には警報が鳴り続けている。
ザニーのパイレーツキラーが追いついてきたのだが、想定中、護衛対象のA884には反撃が認められていない。
訓練が終わるまでは逃げ回ることしか出来ないのだ。
「全く、最後までイライラするわ!私も海賊側の方がよかったわ!」
後方からの攻撃を躱しながらアイラは不満を漏らす。
「アイラさん、損傷率が20パーセントを超えました。損傷率40パーセントを超えると航行不能判定になります」
リナの報告を受けるまでもない。
アイラの計算では損傷率34パーセント程度で目標地点に到達できる筈だ。
逃げ切ればアイラ達の勝ちだ。
「このまま逃げ切るわよ!」
遂に本作の総合評価が私の代表作(何度も烏滸がましいですが、一応代表作です)の「職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~」を超えました。
これも本作を読んで評価してくれた皆さんのおかげです。
ありがとうございます。
皆さんの評価を受けて本作の方を私の代表作にしちゃおうかな?なんて思ったりもしましたが「ネクロマンサーを選択した男」は私の初作品で、原点でもありますので、初心を忘れないためにも代表作はそのままです。
今後も私の小説にお付き合いいただけると嬉しく思います。