凶悪海賊シンノスケ1
「来たキタきたっ!これで何度目の襲撃だよっ!」
「そんなことどうだっていいでしょう!早く追っ払って!」
「あのっ、敵船高速ミサイル艇、右舷方向に回り込みました、A884を狙ってます」
「了解!砲撃しながら間に割り込む」
第2想定が始まって2日目、アンディ達は早くも混乱と疲労の境地にいた。
第2想定はいくつかのチェックポイントを通過して指定された宙域に到達することが目的であり、通常航行で進めば3日から4日間を要する行程だ。
そして、この想定には任務失敗による想定終了は無い。
仮に撃沈判定を受けたとしてもそのまま仕切り直して想定は続き、目的地に到達するまでは終わらないのだ。
想定開始初日は7回に渡る襲撃をくぐり抜けたが、今のところ撃沈判定は受けていない。
そこで少しだけ調子に乗ったアンディは
「少しは調子が出てきたかな」
なんて己惚れかけたが、直ぐにそんなに甘いものではないことを思い知らされる。
1回の攻撃は激しいものではないのだが、攻撃を加えては退き、退いては攻撃を仕掛けてくる、波状攻撃のように延々と繰り返され、息をつく暇もないのだ。
連続で襲撃を受けたと思えばピタリと止み、その隙に少しでも休憩をしようと休み始めれば、また襲撃がある。
嫌がらせ以外の何ものでもない。
「敵船に向けてレーザー機銃をばら撒くぞ!」
アンディは操舵ハンドルのトリガーを引く。
命中しなくてもいい、敵を近づけさせないためのものだ。
「敵船、離れていきます。レーダー索敵範囲から外れます」
「よし、追っ払ったか・・・」
「油断しないで、また直ぐに襲撃があるかもよ」
エレンの言うとおり、攻撃を凌いだからといって全く安心できない。
何時再び攻撃があるのか分からないので警戒を怠るわけにはいかないのだ。
そんな状況に追い込まれ、3人共に想定開始からずっと全く休めていない。
このままでは海賊の襲撃でなく体力気力の限界で行動不能になってしまいそうだ。
「警戒も大切だが、少しは休まなきゃいけない。エレンとセイラは交代で3・・いや、4時間ずつ休んでくれ。俺も襲撃がない限りはオートパイロットにして次のポイントまで休む」
アンディは決断した。
今回はセイラがいるが、実戦に出ると自分とエレンの2人しかいないのだから、今後のためにも効率よく休むことを学ばなければいけない。
今はとにかく無理をしてでも休息が必要だ。
8回目の攻撃を止めてビートルから離れ、母艦であるシールド艦に接近するパイレーツキラー。
「ダグ、補給のために帰還するぞ。収容してくれ」
『了解した。いつでもいいぞ』
シールド艦の後部ハッチが解放され、ザニーのパイレーツキラーが着艦する。
「手加減してやってるとはいえ、連中も少しは慣れてきたんじゃねえか?」
シールド艦のブリッジに戻ったザニーの言葉にシンノスケとダグは頷く。
「確かに、護衛艦乗組員の経験を思い出してきたのでしょう。襲撃への対応がスムーズになってきましたね。でも、本番はこれからですよ」
「次はシンノスケの番だが、直ぐに出るのか?」
「いえ、彼等もそろそろ限界です。訓練で事故を起こすわけにもいきませんから、次の襲撃まで数時間は間を空けましょう。でも、ただで休ませるようなことはしませんよ。ダグさん、シールド艦で彼等の右舷後方、距離260の位置をキープしてください」
「分かった。・・・お前、意地が悪いな」
シールド艦はビートルの索敵範囲ぎりぎりの位置を追跡し始めた。
「まったく、あの3人ときたら、嫌らしいことをするわね。仮想でなく本物の宇宙海賊なんじゃないかしら」
A884のブリッジではアイラが紅茶を飲みながらため息をつく。
「どういうことですか?」
同じく紅茶を飲みながらリナが首を傾げる。
「ハハハッ、彼等を海賊役に選んだ君の判断は正しかったということだ」
アイラとリナの会話を聞いていたダルシスが笑う。
「どういうことですか?」
更に首を傾げるリナ。
「つまり、彼奴ら3人は本物の宇宙海賊と遜色ないってことよ。むしろ、並の宇宙海賊よりよっぽど悪質だわ」
アイラがリナに説明するが、現在シンノスケ達が行っている戦法も宇宙海賊がよくやる手だ。
小規模な攻撃を繰り返し、獲物が疲弊するのを待ち、疲れ切ったところで一気に勝負を掛ける。
一見すると地味で根気のいる作戦だが、これがまた実に海賊らしいのだ。
宇宙海賊は基本的に勇敢な船乗りではない。
獲物を襲うのに攻撃を仕掛けるものの、船を襲うとなれば襲う方にも危険が伴うが、実際のところは自分が返り討ちに遭うリスクを考えると、出来ることなら戦いなんかしたくないのだ。
だから船を襲うときには複数の海賊船で襲うが、それは仲間と協力して、という意味ではなく、自分が被弾する可能性を少しでも下げるためだ。
故に、仲間が攻撃を受けても助けないし、平気で見捨てて逃げる。
宇宙海賊の殆どはそんな自分勝手な連中なのだ。
だからこそ、時間は掛かるが危険が少ない今シンノスケ達が行っているような戦法もよく使う。
「しかも、たちが悪いことに襲撃を止めても索敵範囲ぎりぎりの位置を姿を見せながら追跡していて、おいそれとは休ませないつもりだわ。こんな嫌がらせを平気で、しかもスムーズにやって見せるなんて、本当に彼奴ら宇宙海賊だったんじゃない?確かに、奴等を海賊役にした貴女の人選は極めて適切だったってことね」
アイラは完全に呆れている。
しかし、ダルシスとアイラにそんなことを言われてもリナ自身はそこまで見越していたわけではない。
確かに3人の船乗りとしての実力は考慮したが、3人を海賊役にしたのはただ単に、シンノスケとザニーとダグの見た目のイメージだっただけだ。
その頃、シールド艦ではシンノスケ達が次の企みの準備を進めていた。
「さあ、休めるのも今のうちですよ。真の恐怖はこれからです」
「たっぷりいたぶってやろうぜ!」
確かに、アイラの言うとおり宇宙海賊そのものである。
しかも、見た目も行動もとびきり凶悪な宇宙海賊だ。