宇宙海賊シンノスケ2
アンディ達の訓練の第1想定は任務失敗で終わった。
第2想定に入る前に第1想定の講評が行われる。
「海賊との戦闘には慣れていたつもりだったけど、自分の判断で行動するとなると全然駄目でした。海賊が罠を仕掛けるなんて珍しくないのに、思いつきもしませんでした。自分の能力不足もありますが、何より余裕が無かったのが原因だと思います」
自分の失敗の原因について反省するアンディ。
総合的に見ればアンディの自分に対する評価は概ね正しい。
『そうね、貴方も護衛艦の乗組員として経験を積んできたのだから今回のような襲撃は経験したことがある筈よ。むしろ、真っ先に想定して対処法を考えておくべき案件だわ』
アイラも同様の意見だ。
『確かにな。今回の海賊船は俺達3隻だったが、実際には5、6隻やそれ以上で徒党を組んでくる海賊もいる。そういった場合、どうするべきか考えておいた方がいいぜ。その時に間違えちゃいけねえのが、海賊をどう倒すべきか、じゃねえ。護衛対象をどうやって護るかだ。襲い掛かる海賊の邪魔をしつつ逃げ回るってんだが、それならばお前達の船でもやりようはいくらでもある。基本的に海賊船は護衛艦には容赦しねえが、護衛対象を沈めたりはしない。沈めたところで何の稼ぎにもならんからな。そういう目で見ると、海賊ってのもなかなか難しい仕事をしているんだが、そこに付け込む隙がある。要は勝つことじゃねえ、生き残ることだ』
相変わらず口は悪いが、ザニーのアドバイスはなかなか奥が深い。
やはりこのおっさんは粗野なだけではないようだ。
『私もアイラさん達と同意見ですが、もう一つ気になったのが君達の船の火力不足についてです。最初の襲撃で護衛対象に海賊船を近づけないために弾幕を張ったとこまでは良かったですが、いかんせん弾幕が薄過ぎました。あの弾幕では護衛対象に簡単に取り付かれてしまいます。確かに、独立したばかりの君達には武装の大幅な強化は難しいでしょうが、対空機銃の1、2門の増設なら何とかなるんじゃありませんか?ザニーさんの言ったとおり、相手を沈めるんでなく、邪魔をするには対空機銃でも数があれば十分だと思いますよ』
シンノスケも具体的なアドバイスをする。
護衛艦乗りに限らず、船乗りの仕事は自己責任の部分が多いが、新しく護衛艦乗りとなった仲間のためだ。
訓練を受けるアンディ達が真剣なのは当然だが、訓練を引き受けたシンノスケ達も真剣だ。
「分かりました。いただいたアドバイスを参考に、第2想定はもう少し上手くやってみせます!」
アンディとエレンは第2想定を前に意気込みを新たにする。
第2想定に入る前、シンノスケはあることを思いついた。
『1つ提案なんですが、セイラをそちらの護衛艦に乗せてもらえませんか?』
『わっ、私がですか?』
「えっ?それは構わないですけど・・・。何か意図があるんですか?」
シンノスケの急な提案に驚いたのはセイラだが、アンディも困惑している。
『セイラは私の護衛艦の乗組員といっても、立場は見習いです。今回も見学という名目で同行していますので、あらゆる視点から見学させたいんですよ。それに、次の想定は数日間に渡る長丁場です。これを君達2人で乗り切るのは難しいのではないかと考えました。なので、セイラを君達の仲間として参加させてください。船舶の操縦は出来ないものの、通信やレーダーオペレーターとしては優秀ですよ。経験不足は否めませんが、それでも実戦経験はありますから、きっと役に立ちますよ』
実のところ、シンノスケは第2想定ではセイラをダグのシールド艦に同乗させて、襲撃者の立場から見学させるつもりだった。
しかし、先の想定を見て、今のアンディとエレンには数日間に渡る作戦行動は無理なのではないかと判断したのだ。
2人共に複数で運用していた船の乗組員だったこともあり、少人数運用の航行で、緩急をつけた緊張感を維持するのは難しいと考え、それならば、セイラを組み込んでしまおうと思い立ったのである。
アンディ達の訓練に便乗してセイラの訓練にもなるし、アンディ達の負担も軽減され、より訓練に集中出来る、そして、3人共に経験不足とはいえ、その少ない経験も3人分なら半人前位にはなるかもしれない。
一石何鳥にもなる策だ。
『あの、やらせてください!』
シンノスケの言葉に俄然やる気を出すセイラ。
「俺達からもお願いします」
「そうね、手伝ってもらえると助かります」
アンディとエレンも了承し、第2想定はアンディとエレンの2人に加えてセイラも訓練に参加することになった。
セイラはシンノスケに認められた上に勉強になる。
アンディ達は負担が軽減され、訓練に集中出来る。
それぞれの思惑によりシンノスケの提案に乗った3人。
この時、3人はまだ知らなかった。
シンノスケの提案は3人を地獄に誘う悪魔の囁きだったということを・・・。