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宇宙海賊シンノスケ1

 ザニーに続いてシンノスケも発進準備を進める。

 戦闘艇のコックピットに乗り込んでパイロットスーツやヘルメットにコード類を接続しながらメインスイッチを入れた。

 起動したモニターを見ながら機体の状態をチェックする。

 

「・・各種モニター、了。火器管制システム、了。エンジン始動・・・エンジン、了。各部スラスター、了・・・。シンノスケからパイレーツキラー、シールド艦へ、これより本機をスティンガーと呼称する」

『パイレーツキラー、了解したぜ!』

『シールド艦、了解』

「通信、了。チェック終了、スティンガーからシールド艦、発艦準備よし!よろしくお願いします」


 シンノスケが発艦を要請するとラッチで固定された戦闘艇がシールド艦の船体下部から船外に出された。


『シールド艦からスティンガー。ラッチを切り離すぞ』

「了解。よろしく願います」


・・・ガタン!

 

 軽い衝撃と共にシンノスケの乗る戦闘艇が切り離された。

 空母や戦艦のようなカタパルトを装備していない母艦からの発艦はこのように宇宙空間に放出する方法で行われるのだ。


「切り離しを確認。機体各部異常なし。よし、行くぞ!」


 スロットルレバーを押し込むとSRF-102は一気に加速し、シールド艦から離れた。

 ケルベロスとは比べものにならない急激な加速によりシンノスケはコックピットのシートに押し付けられる。

 とりあえず、目標を襲う前に機体の機動性のチェックを兼ねた慣熟航行を行う。

 シンノスケは通常の艦船では味わえない激しいGに耐えながら戦闘艇の操縦感覚を取り戻す。


「ぐっ!・・久々だけど、やっぱりキツいな」


 そう言いながらもケルベロスとは全く違う軽快な運動性にシンノスケの心は昂ぶりを覚える。

 SRF-102の武装はレーザー機銃2門と小型ミサイルが2発のみ。

 ケルベロスに比べると貧弱な装備だが、それを補ってあまりある速度と機動性があるのだ。

 宇宙海賊の装備としては贅沢過ぎる。


「これはちょっとワクワクしてきたな」


 宇宙海賊シンノスケはヘルメットの中で笑った。

 


 アンディのビートルと護衛対象のA884は予定の訓練宙域を航行していた。


「到達目標地点まで約3時間か。何が起きるかさっぱり分からないな。エレン、レーダーから目を離さないでくれよ」

「分かってる。・・・あっ!レーダーに反応。アンノウン1、方位7+30、距離240(7時の方向、上方30度。距離240)。急速接近!・・えっ、速すぎる!」

「いきなり来たか!って高速艇かよ!エレン、A884に警告を。A884を先に逃がしてくれ」

「了解。ビートルからA884。左後方から不審船が接近中です。そちらは現在の速度と進路を維持して下さい」

『了解。しっかりね』


 エレンが警告を発している間にアンディは接近する不審船とA884の間にビートルを割り込ませる。


「不審船に警告を・・・うわっ、撃ってきた!って、あれは戦闘艇じゃないかっ!いくらなんでも反則だ!」


 ビートルの目の前を戦闘艇がレーザー機銃を撃ちながら通過した。


「言っている場合じゃないでしょう!先制攻撃を受けたんだからこちらからの警告は必要ないわ。直ぐに対処行動を!」

「了解。全武装のロックを解除。対空機銃で対応。A884には近づけさせない」


 ビートルの対空機銃がスティンガーを追って射撃を開始、A884の周囲に弾幕を張る。

 今回の訓練は武器の出力を訓練や威嚇用の最小に抑えているため、直撃しても損傷を受けることはないが、実際に発砲するので感覚的な緊張感は高い。


 アンディ達に真っ先に襲い掛かったのはシンノスケのスティンガー。

 戦闘艇の速度と機動力なら初手でA884に攻撃を加えることも出来たが、それでは訓練にならないのであえて狙いを外した。

 

「弾幕が薄いな・・・。あの護衛艦の装備では仕方ないか」


 反転して2隻の後方に回り込むシンノスケは後方から追尾する位置を確保する。

 


 A884のブリッジでは襲撃の状況をアイラが笑みを浮かべながら見ていた。

 アイラのA884級フリゲートのレーダーはアンディのビートルよりも先にシンノスケの戦闘艇を捕捉しており、最初の襲撃に際しても思わず反撃しそうになったのを慌てて踏みとどまった程だ。


「危ない危ない、咄嗟に撃っちゃうところだったわ。しかし、護衛訓練に戦闘艇って、意地が悪過ぎない?あんなの使っている宇宙海賊なんていないわよ」

「シンノスケさんの護衛艦が修理中でしたので・・・。それにあの戦闘艇もたまには動かさないといけなかったんですよ。ここ暫くは定期整備代だけ掛かって運用実績がありませんでしたから、組合長がちょうどいい機会だって言っていたのでシンノスケさんにお願いしたんです」

「まあ、戦闘艇程ではないけど、高速艇を使う海賊もいるから、難易度高めの想定としてはちょうどいいのかもね。・・・しかし、弾幕が薄いわね。これじゃあ操縦士の腕の良い高速艇だと取り付かれちゃうわよ」

「それも含めての訓練で、彼等の経験になりますよ」


 吞気に話すアイラとリナの傍らでセイラはシンノスケの戦闘艇を羨望の眼差しで見ていた。


「シンノスケさん、凄い。戦闘艇をあんなに自由自在に乗りこなしている・・・」


 思わず呟くセイラだが、実は戦闘艇の操縦自体はそれほど難しいものではない。

 長距離の航行は行わず(そもそも出来ない)、基地周辺の防空や目標近くまで母艦で移動する戦闘艇の操縦は意外な程に簡単で、アーケードゲームのようなものだ。

 操縦という面ではケルベロスの方が余程難しい。

 操舵ハンドルだけ見ても、ハンドルの左右にあるレバーを握ってハンドル操作を行うが、このレバー自体も独立して可動する構造で、ハンドル本体と左右のレバーを操る必要があり、フットペダルにしても踏み込むだけでなく、つま先で引き上げる動きがある等複雑なものであり、基本的には操縦桿とスロットルレバー、フットペダルだけで操縦が可能な戦闘艇の方が余程単純だ。

 それでも戦闘艇の操縦の方が困難だといわれる所以は、激しいGに耐えながら一瞬の判断を求められ、実戦でそれを誤れば即死に繋がるからである。

 故に戦闘艇を操るパイロットは超人的な身体能力と精神力、反射神経が求められるのだ。


 セイラから見ると戦闘艇を軽やかに操っているように見えるシンノスケだが、その現実は宇宙軍戦闘艇パイロットの基礎訓練程度の機動しかしておらず、実際に宇宙軍のパイロットとドッグファイトをすれば5分と保たずに撃墜されてしまうだろう。

 シンノスケ自身もそれを自覚しており、アンディの力量に合わせつつ、自分にも無理が掛からない程度の範囲で飛び回っていた。


 尊敬?するシンノスケ故に上位補完して評価してしまっているセイラは本来の見学という目的を忘れかけていたが、アイラの言葉で我に返る。


「しかし、最初の反応は悪くなかったけど、判断を間違えたわね。このままだと第1想定は失敗になりそうね」


 その言葉を聞いたセイラは現在までの状況を確認した。

 左斜め後方から襲撃してきた宇宙海賊に対してビートルが応戦し、護衛対象であるA884を先に逃がしたため、現在の各船の位置関係は、後方から追撃する宇宙海賊とそれに応戦するビートル、そして先頭に護衛対象のA884。


「あっ、これじゃあ・・・」

「気付いたかしら?」


 思わず呟いたセイラに操縦席のアイラが声を掛ける。


「はい。あのっ、このまま進むと危険ですよね?」

「そう。宇宙海賊がよく使う手段、奴等のセオリーみたいなものよ」


 次の瞬間、A884の前方と右舷方向に新たな反応が出現した。


「あっ、やっぱり・・・」

「ほら来た。別働隊の待ち伏せよ」


 前方を塞いでいたのはダグのシールド艦。

 そして右舷から急速に距離を詰めて来たのはザニーのパイレーツキラーだ。


・・・ピーッ!ピュイッピュイッ!


 A884のブリッジに激しい警告音が響く。


「詰んだわね・・・」


 アイラは肩を竦めた。



 A884の後方で追撃を食い止めていたビートルのレーダーでも新たな反応を捉えていた。


「レーダーに新たな反応!護衛対象の前方と右方向!」


 エレンの報告を聞いたアンディが浮き足立つ。


「しまった、待ち伏せか!単純な手に引っ掛かっちまった!今から間に合うか!」


 慌ててA884に追いつこうと加速するビートル。

 しかし、時既に遅い上に一瞬の隙が生じた。


ピーッ!ピュイッ・・ビーッ!


 警告音に続いて被弾したことを示す警報。

 A884に気を取られて後方の警戒が疎かになった隙を突かれて攻撃を受けたのである。

 

「あっ・・・撃沈されちゃった。護衛対象も攻撃を受けて大破、航行不能判定。護衛任務失敗・・・想定終了よ」


 エレンの報告。

 護衛訓練第1想定はアンディ達の任務失敗で終わった。

あれよあれよという間に私の代表作(烏滸がましいですが、一応代表作)である「職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~」の総合評価に迫り、追い越す勢いです。

これも皆さんから評価していただいたおかげです。

ありがとうございます。


本作もここまでは個々のエピソードの積み重ねでしたが、間もなく物語が大きく動きだします。

ご期待ください。

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