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新米護衛艦乗り

 今回護衛艦訓練を受けるのは護衛艦の乗務員として経験を積んで、晴れて独立したアンディと、アンディの独立についてきたエレンの2人組だ。

 2人とも24歳とまだ若いが、船乗りに憧れて船舶学校を卒業して直ぐに護衛艦乗組員になり、経験を積んできたアンディと、同じく船舶学校を卒業し、貨物船の乗組員として働いていたエレン。

 幼なじみの2人はアンディが護衛艦業務資格を取り、中古の護衛艦を手に入れて独立したのを機に2人で事業を始めることにした新米護衛艦乗りだ。

 新米といえば、ある意味シンノスケも新米護衛艦乗りではあるが、護衛艦乗りになるまでの経験がアンディとは段違いである。


 アンディの船であるビートル号は護衛艦といっても貨物船を改造したもので、武装も艦首にレーザー砲1門と艦尾に小口径のレーザー砲1門の他には、対空機銃と小型ミサイル6発装填式のミサイルランチャーがそれぞれ1基しかない。

 護衛艦の装備としては平均以下だが、独立したばかりのアンディにはローンを組んでもこれが精一杯だ。


「あ~っ、訓練とはいえ緊張するな」


 訓練宙域に向かうビートルのブリッジで操舵ハンドルを握るアンディは落ち着きがない。

 この訓練ではアンディ達に対抗役の編成や数等の情報は伝えられておらず、全く未知の敵が何時何所から襲ってくるのか分からないという実戦的な想定だ。


「訓練でそんなに緊張していちゃダメでしょ。しっかりしてよね」


 緊張して落ち着かないアンディをオペレーター席のエレンが諫めるが、エレン自身も手の震えが止まらない。


『肩の力を抜きなさい。失敗を恐れなくていい実戦訓練なんて貴重な経験よ。上手くやろうなんて考えないで、思ったようにやってみなさい。それで失敗したら、その反省を生かして次につなげればいいのよ』


 ビートルに併走するのは護衛対象役を務めるのはアイラのA884級フリゲート。

 アンディのビートルと並ぶと、どちらが護衛対象だか分からない。


「了解しました。やってみます」


 アイラの言うとおり、失敗を恐れずに出来る実戦訓練は貴重だ。

 護衛艦乗りになって初めての仕事に出た船乗りがそのまま帰らないことも珍しくない世界でこのような訓練を受けておけば、実際の仕事の生還率も上がるだろう。

 アンディは深呼吸をして気持ちを落ち着かせる努力をした。


 そんなアンディ達を見守るアイラ。

 本来ならこの手の仕事は面倒くさがって引き受けないアイラだが、今回は仮想護衛対象ということで、訓練を受ける護衛艦について回るだけで報酬が出るという楽な仕事だったため喜んで引き受けた。


 アイラは元々生粋のソロの護衛艦乗りで、彼女の操るA884級フリゲートも普段からアイラが1人で運用している。

 そんなアイラの船だが今回はアイラの他に複数の同乗者がいた。

 まず、効果測定のために訓練を見届ける商船組合職員のリナと、先の任務放棄事案を受けて自分の仕事に対する姿勢を見直しているイリスに2人の上司であるダルシス。

 そして、見学という名目のセイラだ。

 セイラは第1想定では護衛対象からの目線で見学することになっている。


「まったく、新米とはいえ頼りないわね」

「まあ、彼等の船とアイラさんの船を比べてしまっては頼りないのも仕方ないですよ」

「船の性能の問題じゃないわ。訓練とはいえ、護衛任務に挑む心の持ちようの問題よ」

「確かに、アイラさんは3年前の初仕事から大活躍でしたからね」

「6325恒星連合宇宙軍で25年も軍務に就いてたのよ。巡航艦2隻と駆逐艦8隻を率いた戦隊司令の経験は伊達じゃないわ」


 そんなアイラとリナの会話を聞いていたセイラが首を傾げる。


(えっ?25年の軍務経験?)


 アイラの見た目年齢と軍務経験の年数が一致しないのだが、アイラの実年齢等の疑問については口に出すべきではないと判断して口を噤む。

 10代女子特有の空気を読む能力も伊達ではないのだ。

 


 アンディとアイラの船が向かう先の訓練宙域ではダグのシールド艦が息を潜めて獲物が来るのを待っていた。

 シールド艦の格納庫にはザニーのファルコン級ミサイル艇であるパイレーツキラーと、今回シンノスケが搭乗するSRF-102型戦闘艇が格納されている。

 SRF-102型戦闘艇はアクネリア銀河連邦宇宙軍において高等練習機と実戦配備機の2つの役割を担っていた戦闘艇だ。

 既に旧式化し、宇宙軍では全機退役して既に使用していないが、沿岸警備隊の一部の部隊や商船組合では未だに運用されている。

 高等練習機としても使用されていたことから、その操縦性能は素直の一言に尽きる扱いやすい機体だ。


「まあ、手加減無用と言われていても、新米の護衛艦1隻に俺達が本気で当たったら秒で終わっちまうからな。多少は手加減してやる必要もあるだろう。でないと訓練にならないからな」


 相変わらず粗野な口ぶりだが、なかなか思慮深いことを言うザニー。


「確かにそうですね。本気で当たるのは相手の力量を見極めてからでも遅くはないでしょうね」


 パイロットスーツ姿のシンノスケも同じ考えだ。

 

 ザニーのミサイル艇であるパイレーツキラーは普段からダグのシールド艦の艦載機のような運用をしているからシールド艦にザニーが乗り込んでいるのは普段どおりだ。

 そして、ミサイル艇よりも航続距離や作戦行動時間が短く、コックピットも操縦席だけで、パイロットスーツと密閉型ヘルメットを被って乗り込む必要がある戦闘艇では訓練宙域まで到達することが出来ないので、今回ダグのシールド艦はシンノスケの戦闘艇の母艦としての機能も担っており、シンノスケもダグのシールド艦に乗り込んでいるのだ。


「2人とも、間もなく獲物が予定の宙域に到着する」


 ダグの声でシンノスケとザニーは立ち上がった。


「よしっ、行くかっ!」

「了解。・・・ところで、何か作戦は考えていますか?」

 

 今回の訓練の取り決めで、シンノスケはザニーとダグの指示に従うことになっている。

 襲撃の中心を担うザニーに策があるならばそれに従わなければならない。


「作戦?そんなものはねえよ。今回俺達は海賊だ。だったら海賊らしく好き勝手にやろうぜ!」


 思慮深いのか、そうでないのかよく分からないザニーだが、『好きにする』というのがザニーの策ならばそれに従おう。


 シンノスケとザニーはそれぞれパイレーツキラーと戦闘艇に乗り込んだ。


「さあ、仕事の時間だ!海賊旗を揚げろ!」


 ザニーのパイレーツキラーは宇宙空間に飛び出していった。

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