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敵の包囲を突破せよ1

「前方及び後方のアンノウンを敵船と判断する」

「了解。武装のロックを解除。主砲、速射砲、ガトリング砲、その他の全武装を起動します」


 シンノスケはグラスモニターを装着する。


「まだ距離があるが、さっさと警告を済ませてしまおう。レーザー通信・・・」

「敵船発砲!射程外、命中しません」

 

 マークスの警告の直後、ケルベロスの右舷側の空間をビーム砲の光が貫いた。


「敵船の通告無しによる先制攻撃を確認。敵船に対する警告は不要となった。本艦は直ちに正当防衛行動に移行する。救難、開戦信号を発信」

「了解!」

「敵の狙いは我々の頭を抑えて5隻で包み込むことだろう。本艦は包囲を避け、ギリギリまで敵の左翼側に向かって進む」


 シンノスケは操舵ハンドルを更に右に切り、正面から包囲しようとしている敵の左翼端に向かう。


「敵船の姿を捉えました。映像出します!」


 セイラが超望遠カメラの映像をモニターに映し出す。

 それを見たシンノスケが舌打ちした。

 

「チッ!帝国宇宙軍の軍用艦じゃないか!」


 モニターに映し出されたのは流線型を基調としたリムリア帝国宇宙軍特有の外観を持つ巡航艦と駆逐艦の姿。


「アクア・アロー級巡航艦1、ファイア・ダガー級駆逐艦7」


 マークスが敵船のデータを表示する。

 どちらもリムリア帝国宇宙軍で運用されていた正規軍艦で、旧式化に伴って一線部隊からは退役している艦だ。

 国際法で定められた国籍表示は無く、識別信号も出していない。


「帝国はいつから軍用艦を下取りに出すようになったんだ?退役している旧式艦とはいえ巡航艦1隻と駆逐艦7隻が相手では分が悪過ぎるな」

「宇宙海賊等に武器を流して子飼いのようにしている可能性もありますが、軍艦自体を供与するとは思えません。あれはゴースト・ユニット(存在しない部隊)だと思います」

「ゴースト・ユニット?特務隊か・・・。ますます厄介な相手だ」


 シンノスケはそう言いながらも冷静さを失っていない。


「流石ですわね」


 その様子を見てミリーナが笑みを浮かべた。

 どちらかというとうっとりとした視線でシンノスケを見つめている。


「間もなく敵巡航艦の射程に入ります!」

「了解。敵船を脅威度ごとに順位付ける。以後敵船を敵船AからHと呼称する」


 マークスの状況報告を受けるシンノスケはモニターを睨みながら手元の端末を操作して目標を絞り込む。

 

「目標A、巡航艦砲撃開始!回避行動を!」

「了解。回避しつつ距離を詰める」


 シンノスケはケルベロスの速度をそのままに連続回避運動に入る。

 高機動が売りのケルベロスとシンノスケの操艦技術があっての賜物だ。


「目標BからE、敵駆逐艦の射程距離に入りました。敵の砲撃数が増えます!・・・本艦も敵船を射程に捉えました」

「了解!・・・向こうはビーム砲による攻撃が主体か。ミサイルは装備していないようだな」

「軍の正規装備品のミサイルを使用したことが露呈したら帝国軍の介入が明るみにでますからね」

「だとしたら、多少は望みがあるな」


 ケルベロスは砲撃を躱しながら敵部隊の左翼側を狙って突き進む。

 その間、シンノスケは敵船を捕捉しつつもロックオンまではしておらず、ひたすらにタイミングを計っている。


「前方の8隻全ての敵船が射程に入りました!」


 今だ!

 シンノスケは操舵ハンドルのレバーのポインターを操作して8隻全ての敵船をロックすると共にセレクターで使用武器を選択した。


「1番ミサイルランチャー全弾発射!」


 シンノスケが発射ボタンを押すとミサイルランチャーから12発の小型ミサイルが発射されて敵船に向かって飛翔する。

 生粋の巡航艦や駆逐艦では直撃しても1発では撃沈させるまでは期待できない小型ミサイルだが、2発、3発と命中すれば巡航艦でもただでは済まない。

 そんな小型ミサイル12発が8隻の敵船に襲い掛かるのだ。

 敵船各々が回避運動に入り、一瞬の隙が生じた。


「よし!左急速回頭!敵部隊の右翼側を突破する!」


 ミサイルが着弾するタイミングを狙ってシンノスケはケルベロスの進路を左方に転進させ、混乱の中にある敵部隊の右翼に突っ込んだ。


 運の悪い駆逐艦1隻がミサイルに追い立てられてケルベロスの前方、主砲の真正面に飛び込んでくる。

 照準を合わせる必要もない。

 シンノスケは迷わずトリガーを引いた。

 

 至近距離から主砲の直撃を受けた駆逐艦が爆散する。


「敵船Gを撃沈。他にミサイルの直撃を受けた敵船Eが大破」

 

 主砲で撃沈した敵船の他にミサイルの当たり所が悪かった敵船を航行不能に追い込んだ。

 

 意表を突いた一撃で2隻を沈黙させ、その隙に敵の包囲の突破に成功する。


「2隻を墜としても残りは6隻。しかも後方からの3隻が追いつけば状況は更に悪化してしまう。戦闘継続を避けてこのまま離脱する!」


 ケルベロスはアクネリア銀河連邦に向けて逃げ出した。


「敵船6隻、態勢を立て直して追撃に入ります。敵船の射程距離からは脱していません」

「了解。マークスは後方の敵の動きを逐一報告。特に巡航艦の特異な動きを見逃すな」

「了解」

「セラには周辺宙域の警戒を任せる。他にも敵が潜んでいるかもしれない。些細なことでも報告してくれ」

「はっ、はい。了解しました」


 敵船よりもケルベロスの方が足が速い。

 ケルベロスは敵船の引き離しにかかった。

 

 国際宙域を離脱するまであと少し。

 しかし、その先には排他的経済宙域がある。


「逃げきれるか・・・まあ無理だろうな」   


 シンノスケは不敵な笑みを浮かべた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 普通に考えて護衛艦としての軍艦以下のスペックに抑えられた主人公の船はかなり厳しそう。 型遅れとは言えこういう後ろ暗いことに投入される部隊であればこそかなりの高性能化もされているだろうな。 …
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