対決、レイヤード商会
ダムラ星団公国に到着したシンノスケ達は早速レアメタルの買い取り先を探すことにする。
今回運んできたのは数あるレアメタルの中でも比較的取引価格の安定しているレアメタル、№625を5トンと№1247を15トンだ。
取引に出る前にシンノスケ達はダムラ星団公国での取引相場を確認する。
「№625は安定しているが、№1247の方が少しばかり安値になっているな」
「取引価格が下がっているのも一時的なものでしょうが、回復するのを待つ時間はありませんね」
「まあ、想定の範囲内だし。とりあえず行ってみるか」
シンノスケ達は買い取り先の情報を得ようと商船組合に行ってみることにした。
セイラは船舶に関する資格を取るための見習いだからレアメタルの取引に行くシンノスケ達についてくる必要はないのだが、本人の強い希望により同行することになる。
2種類のレアメタルのサンプルをケースに入れたシンノスケ達がドックを出ると、意外な人物?が待ち受けていた。
「お待ちしていました、カシムラ様。会長がお待ちしております。ご案内いたします」
そこにいたのはレイヤード商会の事務応接用の女性型ドールだ。
その背後にはレイヤード商会のロゴが入った社用車が待機している。
「お待ちしていた?」
顔を見合わせるシンノスケ達にドールが答える。
「はい。カシムラ様の船が入港したという情報を得まして、レイヤードが是非とも皆様をご招待したいと申しております」
どうやら、レイヤード商会が既に手を回しているようだ。
この様子だと他の業者との取引は期待できそうにない。
「ご招待に応じるしかないか・・・」
「それが一番早いでしょうな」
「・・?」
シンノスケ達はドールに促されるまま車の後部座席に乗り込んだ。
「前回の商談の際には気がつきませんでしたが、自律型のドールだったんですね」
自動運転の車を使い、単独でシンノスケ達を迎えに来たレイヤード商会のドール。
単なる事務応接用のドールではなかったようだ。
「はい、私はM-028TX型ドール、個体名ステラです。お気付きのように自律型ドールではありますが、人権申請はされていませんので、私に対するお気遣いは無用です」
そう言われても、ステラには生体組織外装が施されているので、頭部側面のセンサーユニットが無ければ普通の女性と見分けがつかない。
人権の有無で対応を変えられる程シンノスケは器用ではないのだ。
さりげなくステラのセンサーユニットを確認して見れば、軍事産業としても名高いスイン・エンタープライズ製のセンサーユニットだ。
真の運用目的は分からないが、軍用ではないものの、かなり高性能なドールなのだろう。
シンノスケ達の対面にすまし顔で座っているステラだが、現在のシンノスケ達に関する情報はレイヤードに筒抜けであり、今回もレイヤードのペースに持ち込まれそうだ。
10分と掛からずレイヤード商会に到着したシンノスケ達はレイヤードの執務室に案内された。
「ようこそカシムラ様。マークス様。そして、スタア様。急なお誘いとなり、まことに申し訳ありません。事前に連絡を下さればこのようなご無礼をお掛けすることもなかったのですが」
商船組合に登録された情報とはいえ、既にセイラの情報まで得ているとは抜け目のない男だ。
「お誘いありがとうございます。事前に連絡をしなくても私達のことはお見通しだったのでしょう。最初から逃げられなかったようですね」
「逃げるだなんてつれないことを・・・。私は大切なお得意様に失礼の無いように心を尽くしているだけです」
双方笑顔で牽制し合うシンノスケとレイヤードの様子を血の気が引いたような表情で見るセイラ。
そのピリピリとした雰囲気に興味本位でついてきたことを少しだけ後悔した。
挨拶もそこそこに商談のテーブルに着かされたシンノスケ達。
初手からレイヤードのペースだ。
「早速ですが、護衛業務でも無くダムラ星団公国まで来たということは、やはりレアメタルの取引が目的でしょうか?」
ここまで来れば隠し立てしても仕方ない。
シンノスケはサンプルのレアメタルを取り出した。
「はい、自由商人として経験と実績を積むために貿易に挑戦してみようと思いまして。2種類のレアメタルを運んできました」
シンノスケの承諾を得てレアメタルを検分するレイヤード。
「ふむ・・・№625と№1247ですか。品質は中の上程度。なかなかの品質ですね。ただ、№1247の方はやや値崩れを起こしています。タイミングが悪かったですね」
サンプルをシンノスケに返すレイヤード。
「仕方ありません。値が回復するのを待つ時間もありませんし、現状で勝負するしかありませんね」
「取引の当てがおありですか?」
白白しく覗うレイヤードにシンノスケは苦笑する。
「ダムラ星団公国に来て早々にお招きいただきましたからね。当ても何も・・・。これからですよ」
「だとしたら、当商会にもチャンスがあるということですね?」
「其方にはチャンスでも、退路を断たれているであろう私にはピンチでしょうか?」
「滅相もない!私はお互いの利益のことを考えています。信用を第一に、大切なお客様の不利益になるような商売はしません」
やはりレイヤードの狙いはシンノスケが運んできたレアメタルだ。
くだらない牽制にも嫌気が差していたシンノスケも頭を切り替えた。
「分かりました。とりあえず商談を始めましょう」
シンノスケが商談に応じる姿勢を見せたところ、レイヤードも表情を引き締めた。
「では、カシムラ様。今回はどの程度の量をお持ちですか?」
「№625を5トンと№1247を15トンです」
前回と違って今回は最初から自分の手札をさらす。
「それは結構な量ですね。かなり無理をしたのでは?」
「それほどでもありません。これまでの仕事の利益の範疇で仕入れてきたので、今回の貿易に失敗しても負債も抱えることもありません」
「堅実ですね」
「元々の性格で賭け事があまり好きではありませんからね」
そんな話をしながらも計算を済ませたレイヤードが買い取り価格を提示してくる。
「これ程の値段ではいかがでしょうか?」
レイヤードが提示したのは相場にほんの少しだけ上乗せした金額だ。
この金額でもそれなりに利益が出るが、あまり面白い金額でもない。
「他で交渉してもこの位の値は付きそうですね」
難色を示してみるシンノスケ。
未だレイヤードの腹の中が探れない。




