黒い薔薇が狙うのは
「目標、シュタインフリューゲルに向けて最大戦速!」
「了解しました」
白薔薇艦隊、黒薔薇艦隊の包囲を振り切ったナイトメアは神聖リムリア帝国艦隊とリムリア銀河帝国が戦闘を繰り広げている宙域に艦首を向けた。
「黒薔薇と白薔薇の追跡は?」
「現在、可能な限り最大出力でのジャミング実行中ですが、メインレドームの損傷により本艦の索敵範囲も狭くなっています。よって、互いに捕捉できませんが、我々を追っていることは間違いありません」
「・・・だろうな。敵の動きが読めないのは面倒だが、俺達の目標はあくまでもシュタインフリューゲル1隻だ。兎に角、シュタインフリューゲルを捕捉することが優先だ」
「了解しました」
本来のナイトメアは索敵能力が抜群に高い電子戦艦だ。
広範囲にジャミングを実行しても自艦の位置を見失うことはないし、敵の索敵機能を妨害しながらナイトメアからは一方的に敵を補足することができる。
しかし、メインレドームを損傷したことにより電子戦能力が低下し、ジャミングの範囲も、ジャミング実行中の索敵能力も著しく低下しているのだ。
そのような状態であり、シンノスケ達はほぼ目隠しのまま敵艦隊の追跡を逃れて目標であるシュタインフリューゲルを見つけなければならないのである。
低下したナイトメアの能力をシンノスケの船乗りとしての経験と技術、マークスの分析能力を駆使して補完しつつまだ見ぬ目標へと宇宙の闇の中を駆け抜けた。
【ブラック・ローズ】
「ジャミングの影響により亡霊を捕捉できません」
ザックバーンの報告を聞いても操舵ハンドルを握るベルローザは余裕の表情だ。
「このジャミングの先に奴がいるのは間違いないさ。方向を誤ってジャミングの範囲から外れれば奴から離れているということ。ジャミングの中にさえいれば少なくとも奴を取り逃すことはないよ。それに、奴の目標は私達と同じエルランのシュタインフリューゲルさ。目標が同じならいずれ見つけ出せるだろうから、焦る必要はないよ」
互いに捕捉できずとも、ブラック・ローズは確実にナイトメアを追い続けている。
「しかし、亡霊の狙いがシュタインフリューゲルなら、いっそのこと亡霊にやらせてしまえばいいのではありませんか?亡霊を噛ませ犬として、シュタインフリューゲルを仕留められれば余計な手間をかけることもありませんし、亡霊が返り討ちにあったとしても、その隙を突いて我々がシュタインフリューゲルを仕留めれば問題ありますまい」
ベルローザはザックバーンを睨む。
「バカ言うんじゃないよ。シュタインフリューゲルは私の獲物だよ。私は私の獲物を横取りされるのを黙って見ている程つまらない女じゃないよ!・・・それに」
「それに?」
「あの男も私の獲物さ!絶対に逃しやしないよ。今度こそ宇宙の塵にしてやる!」
残忍な笑みを浮かべるベルローザ。
ブラック・ローズは着実にナイトメアとの距離を詰めつつあった。
【ナイトメア】
「神聖リムリア帝国艦隊に接近。艦隊後方、右翼端を捉えました」
「敵の動向は?」
「最前列ではリムリア銀河帝国と交戦中ですが、詳細は不明。ジャミングにより本艦の正確な位置は悟られていないでしょうが、そもそもジャミングを実行しているのですから、敵に潜在脅威、つまり本艦が接近していることは察知されている筈です。敵右翼が複数の哨戒艇を発艦させ、警戒を強めています」
このままではジャミングの中に潜むステルス性の高いナイトメアでも発見される可能性がある。
一度捕捉されてしまえば再び隠れるのは困難だ。
「了解した。それではジャミングの範囲を右方向に指向しつつエンジンカット。本艦は慣性航行でエンジンを冷却しながら左方から敵後方部隊の背後に回り込む」
「了解しました」
ナイトメアは敵の警戒の目を右方向に向けながら左方向に向かう。
「エンジン冷却完了。ジャミングを切り、隠密航行により敵旗艦の背後を突く」
「了解。敵旗艦シュタインフリューゲルの位置を特定。同宙域において戦闘が行われています」
「黒薔薇艦隊別働隊による攻撃だな。よし、好都合だ。本艦は迂回しつつ、乱戦に乗じてシュタインフリューゲルを狙うぞ」
「了解しました。シュタインフリューゲルとの接触は40分後です」
「了解。・・・しかし、その前に敵に見つかると厄介だな」
ジャミングを切ったナイトメアは最低限の動力による隠密航行に入り、最終目標であるシュタインフリューゲルへと忍び寄っていく。
向かう先では神聖リムリア帝国と黒薔薇艦隊別働隊が戦闘を繰り広げている。
さらにシュタインフリューゲルを守る白薔薇艦隊もいるだろう。
その戦場にたった1隻で向かうナイトメア。
失敗すれば戦場にいる全ての敵艦隊からの集中攻撃を受けて一巻の終わりだ。
本作のコミカライズ第1巻(電子版)
9月12日に発売となりました。
よかったら覗いてみてください。
私は各電子書籍サイトでとりあえず4冊ポチりました(何故?)。
全て読みましたが、当然ながら中身は一緒でした。




