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崩壊する帝国

「何故こんなことに・・・」


 神聖リムリア帝国首都星軌道上に展開する帝国軍艦隊。

 皇帝エルラン・リムリアは帝国軍総旗艦のシュタインフリューゲルの玉座で拳を握りしめた。


 現リムリア銀河帝国皇帝ウィリアムによる謀略の手から逃れるために皇帝の座を譲った陰にはエルランなりの策があった。

 ウィリアムに恭順の姿勢を見せ、皇帝の座を譲る代わりに宇宙艦隊司令長官の地位を確保し、帝国の軍事力の実質的な指揮権を手に入れる。


 その後にダムラ星団公国への侵攻の指揮を執り、戦力の逐次投入に見せかけて帝国の宇宙艦隊の多くをウィリアムから引き離し、多くの戦力を手中に収めた。

 そして、本国から離れた場所で体制を整え、機会を伺って新帝国樹立の宣言と共にリムリア銀河帝国への逆侵攻を実行し、ウィリアムを討伐して皇帝の座を奪い取る。

  

 決して完璧な計画ではなかったが、成功の可能性は大いにあり、現にその計画は順調に進んでいた。

 ダムラ星団公国を攻め落とした時点で他国が介入してくることも織り込み済みだったのだが、この辺りから計画に綻びが見え始めたのである。


 ダムラ星団公国を攻め落とした後に新国家の樹立を宣言し、リムリア銀河帝国への宣戦布告を行ったところまでは順調だったのだが、その直後にアクネリア銀河連邦が介入してきたことは想定外だった。

 無論、他国の介入、特にアクネリア銀河連邦が介入してくることはあらかじめ想定していたのだが、その速度と規模がエルランの予想を上回ってきたのである。


 エルランにしてみれば他国が介入してくる前にリムリア銀河帝国を攻め落とし、神聖リムリア帝国の体制を盤石なものにしようと画策していたのだが、結果として神聖リムリア帝国はリムリア銀河帝国とアクネリア銀河連邦を相手に二正面作戦を強いられる事態に陥ってしまったのだ。


 幸いにして、ウィリアムの戦力を削いで、自軍を強化することには成功していたため、対リムリア銀河帝国戦は有利に進んでいる。

 リムリア銀河帝国は未だに多くの宇宙艦隊を有しているが、周辺国との関係が微妙な帝国は広大な領域を守るだけでなく、それら周辺諸国への牽制のためにも領域の各所に宇宙艦隊を配置しなければならず、戦力を集中運用することができないのだ。

 加えて、エルランとウィリアムのいわば兄弟喧嘩に対して色々と理由をつけて日和見を決め込んでいる貴族や宇宙艦隊もある。

 その結果、ウィリアムは信頼できる貴族の私兵艦隊までもを動員して守りを固めている程だ。


 リムリア銀河帝国相手の戦いには勝機は十分にあるのだが、アクネリア銀河連邦の猛攻による危機はそれを上回っていた。


 電撃的な作戦で旧ダムラ星団公国領を次々と開放するアクネリア軍に対してエルランの策は後手に回りっぱなしで、アクネリア艦隊と再編成されたダムラ星団公国艦隊はいよいよ首都星の周辺宙域にまで迫ってきている。



「いったいどうしたら・・・」

 

 歯噛みしながら呟くエルランの背後からその肩に手が置かれた。

 

「大丈夫、貴方なら大丈夫よ」

「姉さん・・・」


 エザリアだ。

 

「エルラン、貴方の目的はウィリアムから帝国を取り戻すことでしょう?ダムラ征服と新国家樹立はその足掛かりに過ぎません。その準備が整い、帝国への布告を成して帝国を相手の戦いが有利に進んでいる今、この国に固執する必要などないのです」

「首都を放棄しろと?」

「ええ、貴方が帝国を手中に収めた後、資源の乏しいこの国は邪魔でしかありません。領域の大半を放棄して、帝国に隣接する一部領域のみを残しておけばいいのです。帝国の領域を奪還し、国力を増強してから改めて統一すればいいのですよ。貴方にはそれが出来るはずです」


 エザリアの額の第三の目で見つめられたエルランは力強く頷いた。



【アクネリア総旗艦アストライアー】

 神聖リムリア帝国の首都星の目前にまで迫った宙域にはアクネリア銀河連邦艦隊とダムラ星団公国の宇宙艦隊が集結していた。

 第2艦隊を初めとしたアクネリア艦隊が3個艦隊、ダムラ星団公国艦隊は完全充足でないものの、辛うじて2個艦隊。

 加えて、別の宙域にも別働隊の艦隊が集結しており、3方向からの一斉攻撃を仕掛ける算段だ。


「先行している強行偵察艦隊から報告!敵首都星軌道上に展開していた艦隊の大半が移動を開始しました。リムリア銀河帝国方面に向かっています」


 報告を聞いたアレンバルは静かに頷いた。


「やはりダムラ星団公国領には固執しないか。リムリア銀河帝国への攻撃に注力する心づもりだろう」


 この展開はアレンバルの想定の範囲内だ。


「いかがしますか?追撃を行いますか?」

「首都星に残っている敵の艦隊は?」

「前線から後退してきた敵の第2艦隊です。数は多くありませんので、一部の部隊をこちらに当たらせ、我々の艦隊を含めた主力艦隊をもって追撃に当たれば敵の主力艦隊に背後から攻撃を加えることが可能です」


 副官の言葉にアレンバルは首を振る。


「追撃したとしても追いつくのはリムリア銀河帝国との境界付近になる。そうなると、2つの帝国と我々、三つ巴の戦いになってしまう。それに、我々の至上目的は神聖リムリア帝国からダムラ星団公国の開放だ。リムリア銀河帝国を巻き込んでの戦線拡大は本来の目的を逸脱してしまう。我々はダムラ星団公国開放を優先する」

「了解しました!」


 確かに追撃すれば勝てる見込みは十分にある。

 しかし、あくまでもダムラ星団公国領の奪還と公国の再建が最優先だ。


「帝国の兄弟喧嘩に付き合う必要はない。最後の仕上げは別働隊に任せるとしよう・・・」


 アレンバルは全艦隊に前進を命令した。

 帝国の崩壊が始まる。

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― 新着の感想 ―
まぁ戦術的に勝利しても戦略的に敗北してはなんの意味もなくなります。 ここで手を引き、戦略的勝利(ダムラ星団公国領の奪還と公国の再建)を確定させるのが正解でしょう。
迷惑系の兄弟に愉快系の姉がセット! シンノスケの試練は第2段に進む……のか?
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