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窮地

「敵艦隊、盾艦隊の前進に呼応するように後退していきます」


 オペレーターの報告を受けながらモニターを睨むアイザック。


「妙だな・・・」

「はい、今までに無いパターンですね。盾艦隊の自爆に巻き込まれるのを恐れているのでしょうか?」


 傍らに立つ副官も訝しげな表情だ。

 

「例の電子戦艦も見つからないか?」

「はい、今のところは。加えて妨害波の兆候もありません」

 

 無論、敵が何度も同じ手を講じてくる筈もないが、今までとは明らかに状況が違う。

 そんな中でアイザックは1つの可能性に思い至る。


「前衛艦隊、前進速度を速めて敵主力艦隊との距離を詰め、射程に入り次第攻撃開始。当たらずともいい、兎に角攻撃を加えてみろ」

「しかし、敵に偽装がバレてしまいますよ?」

「構わん!・・・多分、それは敵も同じだ」

「了解しました。前衛駆逐艦隊、偽装を解いて速度を上げて敵艦隊を攻撃!」


 盾艦隊に偽装した駆逐艦隊がアクネリア艦隊との距離を詰め、一斉砲撃を加えた。


「前衛駆逐艦隊の攻撃、効果なし!」


 オペレーターの報告にアイザックの目が鋭く光る。


「敵艦隊からの反撃は?」

「反撃・・・ありません」


 間違いない。

 アイザックの想定が確信に変わった。



【ナイトメア】

「・・・バレたかな?」


 ナイトメアのブリッジでシンノスケが呟く。


「はい、気付かれた可能性が高いですね」


 マークスの答えを聞いたシンノスケの表情が険しくなる。


「これはちょっと厳しい状況だな。・・・友軍艦隊は?」

「現時点で反応が無いということは、到着が遅れているのでしょう」


 シンノスケはため息をつく。


「時間厳守は軍隊の基本だろうに・・・。さて、どうしたものか・・・」

「厳しいですね。敵の前衛艦隊も捕虜部隊に偽装した駆逐艦の艦隊のようです。ここでこちらの偽装を解くと敵に包囲される可能性があります」


 既に敵の砲撃が見えない筈のナイトメア周辺にまで届いている。

 当てずっぽうの砲撃のようだが、今回は敵の方が一枚上手だったようだ。


「アイザック提督といえば、冷静で狡猾、優秀な艦隊指揮官だからな。俺なんかが太刀打ちできる筈もないか」

「我々の思惑が露呈すれば、敵は本艦の電子戦を警戒して対処してくる筈です。足の速い駆逐艦にレーダーでなく光学カメラで捉えられ、追跡に入られたら逃げ切れません。レーダーロック無しの、目視の手動照準でも80隻もの追撃から逃れるのは困難です。但し、まだ若干の距離がある今なら脱出できます」


 実はシンノスケ達のナイトメアは敵の前衛艦隊と本隊の間の宙域に潜んでいたわけではなく、敵の前衛の駆逐艦隊が追うアクネリア第6艦隊の中心にいた。

 そして、ナイトメアの周囲には友軍の艦船は1隻たりとも存在しない。

 ナイトメアによる電子偽装により数百隻の艦隊を敵のレーダー上に映し出しているのだ。


 ナイトメアの偽装艦隊で敵の前衛艦隊を引きつけ、その間に敵本隊の背後を第6艦隊が突くという作戦だったが、その第6艦隊の到着が遅れているのである。


「しかし、本隊の到着が遅れているとはいえ、俺達には下命された任務があるからな。勝手に作戦を中止して離脱するわけにはいかない。敵に本艦の居場所を知られるわけにもいかないから、こちらからの反撃もできない。現状を維持しつつ後退速度を上げて対応するぞ」

「了解しました」


 如何に綿密に立てられた作戦計画でも、想定外の事態が発生することは多々あることであり、シンノスケもそれを念頭に置いて行動していたが、その想定外の事態により艦隊の到着が遅れているだけならまだしも、そもそも到着すらしないとなるとシンノスケとしても生き残るための選択肢が限られてしまう。


「艦隊到着までの時間的許容限界は?」

「既に限界を超えていますが、最大4分です」

「短いな・・・仕方ない、あと4分だけ粘るぞ。それまでに艦隊が到着しなければ想定外対処案Bを実行する」

「了解、話している間に時間を消費しましたので、実際には4分でなく、3分28秒です」

「それを言い出したらきりがないだろう!・・・約3分だ!」


 シンノスケはナイトメアが後退する速度を上げつつ追ってくる駆逐艦隊と一定の距離を維持する。

 光学機器で捕捉できず、それでいて追跡を諦めない程度の絶妙な距離だ。

 

「マスター、敵艦隊、左右に陣形を開いています。本艦を包囲する意図があると推測。・・・最大許容限界まで後2分20秒」

「了解。敵の本隊の動きは?」

「先行する駆逐艦隊に比べると低速ですが、敵本隊も前進を開始しています。限界まで後1分4・・レーダーに異変。敵本隊の左右両舷に向けて多数の反応が急速接近。第6艦隊が到着した模様。敵本隊と交戦状態に入りました」

「よし、遅刻はしたが、ギリギリ間に合ったな」


 シンノスケはさらに後退速度を上げた。


「敵駆逐艦隊、速度を上げ、本艦の追跡に入る模様」

「本隊に合流せずにこのナイトメアを仕留めることを選んだか。俺達にとっては迷惑この上ないが、賢明な判断だ」


 最早艦隊を偽装する意味はない。

 電子偽装を続けたままだとナイトメアも攻撃方法等が制限される。


「電子偽装を解くぞ!戦闘用意!」

「危険ですマスター。ですが、最善策ではなくとも妥当な判断です」


 ナイトメアは本作戦での役割を果たしたが、未だ窮地の直中にいた。

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― 新着の感想 ―
妨害波は全方位発送せず、指向性を持たせて狭い範囲に発砲すれば、近距離と中央付近の敵だけ、目潰し出来たりするのでは?
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