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残る者と前線に立つ者

 時は少しだけ遡り、シンノスケとマークスが復役し、出撃してから数日。

 カシムラ商会のドック内にある事務所にはミリーナをはじめとしたカシムラ商会の面々が集合していた。


「シンノスケ様とマークスは多くを語らずに旅立ちましたが、軍務に就いて、戦場に行ったことは間違いありませんわ。それも、並々ならぬ覚悟を秘めての出航です。・・・そこで、残された私達が何をすべきか、皆さんの意見をお伺いしたいですわ」


 ミリーナの言葉に皆が顔を見合わせる。


「・・・あの、シンノスケさん達のことは俺達では何もできないですよ・・・ね?」

「そうね、シンノスケが軍務に就いた以上、私達にできることはないわ。退役したシンノスケと、ヤタガラスをわざわざ引き込んだってことはかなり特殊なことよ。何処でどんな任務に就いているか分からないし、仮に分かったとしても、私達の出る幕はないわよ。それこそ、シンノスケ達や軍の邪魔になるだけ。悪影響しかないし、逆にシンノスケを危険に曝すことになるわよ」


 アンディの意見にアッシュが同意する。


「そっ、そんなことは分かっていますわ。・・・私が言いたいのは、残された私達はこの商会をどう守っていくか、ということですわ」


 胸を張るミリーナをセイラがジト目で見ている。


(ミリーナさん、昨日と言ってることが違う・・・)


 昨夜のミリーナはセイラに対して新しい護衛艦を手に入れてシンノスケ達の支援に向かうと息巻いていた。

 そのために重巡航艦クラスの船を手に入れて、護衛艦登録するために駆逐艦装備に換装するとまで言っていたのである。

 セイラが聞いただけでも無茶な考えだと容易に判断できるが、セイラ1人では説得が難しい。

 そこで、皆の判断に期待していたのだが、それが功を奏し、ミリーナの構想は初っ端から崩れ去ったのだった。

 特に、軍隊ではないが、沿岸警備隊あがりのアッシュの言葉には説得力がある。


 そもそも、艦長資格は取得したが、護衛業務資格を有しないミリーナは単独では護衛艦の運用ができない。

 となれば、護衛艦艦長としての資格を持つアンディかアッシュの協力が必要不可欠だが、その2人が揃って難色を示したのだから、その時点で実現は不可能だ。

 アンディはホーリーベルを、アッシュはフブキの艦長として運用しているので、新しい護衛艦を手に入れること自体が非現実的である。

 


 そこでミリーナは華麗に方針転換をしたのである。


「シンノスケ様達が不在とはいえ、商会の活動を停滞させるわけにはいきません。そこで、私達は引き続きあらゆる仕事を引き受けていくことにしたいと考えていますの」


 シンノスケが不在の現在、ミリーナがカシムラ商会の代表代理となることは自明であり、ミリーナ自身もアンディ達に請われてその責務を引き受けた。

 感情的になると暴走しがちなミリーナだが、冷静さを取り戻せば堅実な考えの持ち主だ。

 加えて、アッシュ達がいい助言役とし、ミリーナのストッパーとして機能すれば商会としても問題ない。


 結果、シンノスケとマークス不在のカシムラ商会は、基本的にフブキとホーリーベル2隻が帯同し、主にダムラ星団公国方面の仕事を請け負うことが基本方針となった。



【最前線】

 時は戻って最前線。

 神聖リムリア帝国軍はアクネリア第2艦隊等の攻勢と正体不明の電子戦艦の暗躍によって支配圏を狭め、戦力を失いつつあった。


 しかし、敗色濃厚な戦況でありながら、不思議なことに前線の兵士達の士気はいささかも衰えが見られない。

 ここ最近は圧倒的不利、挽回不能な状況でも前線の帝国軍は降伏も後退することなく最後の1艦まで戦う勢いであり、それがアクネリア軍の損害を蓄積する原因にもなっていた。


 そして今、神聖リムリア帝国軍艦隊とリムリア銀河連邦軍艦隊による大規模会戦が始まろうとしていた。

 神聖リムリア帝国軍、第2艦隊8百隻と、最後に残っていた盾艦隊80隻が展開し、前方のアクネリア艦隊7百隻と対峙している。


 神聖リムリア帝国第2艦隊旗艦のブリッジでは艦隊司令官のアイザック中将がモニターに映る敵艦隊の反応を見ていた。


「敵はどの艦隊だ?」

「第6艦隊の識別信号は確認しています。第6艦隊の他に主力第9艦隊か、分艦隊の混成部隊だと思われます」

「そうか、強敵だな」


 決戦を前にアイザックは険しい表情だ。

 アイザックも歴戦の提督であり、目の前の敵を相手に戦うことはそう難しいことではないし、十分に勝機はある。

 件の電子戦艦の存在を加味しても勝てない相手ではないだろう。

 だが、問題はそこではない。


 第2艦隊は神聖リムリア帝国の最後の前線機動艦隊だ。

 帝国にはまだ2千隻程の戦力が残っているが、これらの艦隊は残された領域に分散して拠点防衛を担っており、前線艦隊程に柔軟な行動ができない。

 しかも、2千隻のうち半数弱の9百隻を占める第1艦隊は近衛艦隊として皇帝と首都星を守る艦隊だ。


 つまり、万が一にも第2艦隊が敗北すれば、帝国は機動艦隊を失うことになる。

 敗北しなくても、ある程度の損害を被れば結果は同じだ。


「帝国の興廃を決める一戦だ。正に負けるわけにはいかない戦いだな」

「負けてもよい戦いなどありませんが、この戦いは特に負けるわけにはいきませんね。・・・で、提督。作戦は予定どおりでよろしいですか?」

「・・・そうだ」


 アイザックは指揮席から立ち上がった。


「予定どおり、囮の盾艦隊を前進させろ。盾艦隊の前進に合わせて本隊は後退。その後に盾艦隊と本隊の間の宙域に偵察艦、哨戒艦、対電子戦艦を投入し、何れかに潜んでいる敵電子戦艦を見つけ出し、速やかに撃沈させる。潜在脅威を排除した後に前方の敵艦隊との戦端を開く!」


 この戦争の行く末を決める一戦が始まった。

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シンノスケが危な〜い! 次回はのど鳴らして、緊張回かな?
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