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黒薔薇艦隊

 シンノスケとマークスが駆るナイトメアは初戦の後に短期間で更に2回の作戦に参加して確実に戦果を挙げてきた。


 しかし、神聖リムリア帝国軍も馬鹿ではない。

 2度目の作戦の後には『新型ステルス電子戦艦』の存在が把握され、3度目の作戦時には離脱する際に敵の伏兵からの奇襲を受けたのである。


 尤も、その時にはシンノスケ達が予め敵の伏兵の存在を想定していたので、敵の伏兵12隻のうち5隻を撃沈した上で離脱することに成功した。


「いくらなんでも、そろそろバレてるよな。次の作戦あたりか・・・」


 2度目の作戦の後にシンノスケがなんとなく言った言葉を正しく理解したマークスがあらゆる事態を想定し、備えていたために敵の奇襲に対して即座に対応することができたのだ。

 しかしながら、奇襲部隊を殲滅させることができなかったため、敵がナイトメアの情報を持ち帰るという事態を生じさせてしまった。


「本艦の存在が敵に気取られた場合における作戦修正案に移行します。早期の作戦変換に該当しますので、プランBが適用されます」


 友軍艦隊から離れ、単艦での隠密行動のため、通信等による指揮を受けられないので、予め立案されていた作戦案に従って行動するしかない。 


「味方がプランどおりに動いているかどうか分からない状況で俺達だけ作戦変更するというのも勇気がいる・・・。万が一、味方がプランBに転換しなかったら次の戦いで俺達は宇宙の塵になるな」

「そこは友軍艦隊を信じるしかありませんね」


 確かにそのとおりだが、予想外の事態に陥る危険性は常に存在する。

 友軍を信じることが大前提の作戦だが、それでも疑って掛かる、用心に越したことはない。


「念の為、友軍が作戦変更しなかった場合に備えて対応策を立てておくか」

「すでに18想定の立案を完了しています。次の作戦までには40想定まで増やす予定です」


 シンノスケの考えに即座に答えるマークス。


「相変わらず抜け目が無いな・・・」 

「当然です。そもそも私に抜け目というものは・・・」


 胸を張るマークスにシンノスケは肩を竦めて笑った。



 神聖リムリア帝国ダムラ星団公国奪還のための戦いの最終局面においてナイトメアが暗躍していた時、もう1つの帝国、リムリア銀河帝国は国家の危機に瀕していた。

 

 リムリア銀河帝国皇帝のウィリアムは執務室で黙々と公務をこなしているが、その心境は穏やかではない。

 帝国の勢力拡大のために行われたダムラ星団公国への侵攻は順調に、予想以上の成果を得て完了することができた。

 当初の予定に反して侵攻に手間取り、侵攻作戦の指揮を執る兄のエルランの要望に従って増援艦隊を投入してきたが、それでもウィリアムは決して油断していたわけではない。

 本来は自分よりも帝位継承順位が上位の兄のエルランだったが、宮廷工作にてその立場を切り崩し、帝位を返上させて恭順させた。

 その兄が前線指揮を執るというのだから警戒しない筈がない。


 兄には必要以上の戦力を与えずに出撃させたのもそのためだ。

 その上で、公国全体を攻め落とせなくてもその一部でも切り取ることができれば十分だった。

 仮に完全に失敗したとしても、侵攻作戦の失敗の責任を追求するのは当然ではあるが、必要以上にエルランを処断するつもりもない。

 その場合には未だに少なくない求心力を持つ兄の力が弱まるだけでも十分だし、侵攻作戦に国民の目が向いている間に自らの皇帝の地位を盤石にすればよかったのだ。

 

 しかし、当初の予想に反してエルラン率いる帝国軍は勝利を重ねながら公国の奥深くまで食い込み、公国全域を手中に収める寸前にまで至ったのである。

 その時点での戦力増強はごく自然なことであり、ウィリアムもそれを拒否することはできなかった。

 それでも、エルランを警戒したウィリアムは最も信頼する姉のエザリアの助言に従ってエザリアの白薔薇艦隊を前線に送り込んだ。


 前線に増援艦隊を投入する中、久しく行方不明だったもう1人の姉のベルローザが帰還し、黒薔薇艦隊の司令官に復帰すると、そのベルローザまでが勝手に前線に赴いてしまい、遠征部隊が帝国軍の全兵力の半数近くにまで膨れ上がったところでダムラ星団公国への侵攻作戦は完全なる勝利で幕を閉じた。

 しかし、その直後にエルランは神聖リムリア帝国の樹立を宣言し、遠征艦隊を指揮下に置いたままその初代皇帝の座に就き、リムリア銀河帝国に宣戦布告をしてきたのである。


 初戦では大きな損害を受けつつも神聖リムリア帝国軍を押し返したものの、反撃に出る程の戦力がなく、アクネリア銀河連邦の旧ダムラ星団公国領奪還のための作戦が始まったことにより帝国同士の戦争は膠着状態に陥ったが、広大な領域を統治するための戦力にすら欠いているウィリアムの帝国には成す術がなかった。

 それでも、帝国貴族の私兵艦隊の助力を得てどうにか国内治安を安定させたのは皇帝ウィリアムの実力によるものだ。

 そんなある日、事態は発生した。


 帝国の首都コロニーにある宮廷の執務室で山と積み重なった公務に勤しんでいたウィリアムの卓上端末が鳴る。


「陛下、お忙しいところ申し訳ありません。至急にお伝えしなければならない緊急事態です」

「何事だ?遠慮するな、申してみろ」

 

 連絡してきたのは軍務担当の秘書官。

 近衛艦隊司令官の副官から転属させた、若いながら優秀な男だ。

 丁度ウィリアムの使いで軍港に出向いていたところだが、その彼が緊急だと判断して連絡してきたのならそのとおりなのだろう。


「はっ!先刻、神聖リムリア帝国側の宙域に200隻程の艦隊がワープアウトし、こちらに向かっています。・・・黒薔薇艦隊です!」

「なっ!黒薔薇・・・ベルローザ姉様か!」


 ウィリアムの顔から血の気が引いた。

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― 新着の感想 ―
黒薔薇姉さんは故有れば裏切りそうだからなー。しかし弟が皇帝になった割には兄や姉が生きている、母は同じなのかね
職業選択の狭さがつらい〜w
今さらながらツッコミどころの多い継承争いだったんだな。 兄を残していたのもだが増援艦隊を指揮下に回したりいないからしょうがなかったのかもしれないが最低お目付け役となる子飼いの将を副司令官にもっていくと…
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