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査問委員会2

「組合職員イリス・ステイヤーさんの行動についても私の判断は、否です」


 シンノスケの発言にその場にいた皆が耳を疑った。

 誰もがイリスには大きな瑕疵が無いと思っていたのだが、シンノスケの判断は違う。


「イリスさんに質問します。イリスさんは組合での受付業務は3年目、でよいですか」

「・・・はい」

「ウォルターさんとの面識は?」

「いえ、ウォルターさんは護衛艦乗りとして独立し、組合に登録したばかりでしたので・・・」

「それならばアイラさんの言うとおりウォルターさんの資質を見抜くことは困難でしょう。それでは、その情報をグレンさんには伝えましたか?」

「いえ、グレンさんからも聞かれませんでしたし、セーラーさんの経歴や経験について伝えなければならない規則もありませんので」


 イリスの説明には整合性があるし、手続きに大きな不手際があるとも思えない。

 しかし、シンノスケは厳しい表情だ。


「確かに、イリスさんの説明は分かります。しかし、伝える規則は無いと言うならば、逆に、伝えてはいけない、という規則はありますか?」

「えっ?・・・いえ、ありません」


 ここまでくるとシンノスケの質問は揚げ足取りのようで、皆が訝しげな表情でシンノスケを見ている。

 しかし、シンノスケは至って真剣だ。


「確かに、私の言っていることは理不尽極まりなく聞こえるでしょう。しかし、イリスさんは組合の受付職員として3年目。若手とはいえ、経験不足の新人という程ではありません。護衛艦が必要な仕事、護衛を依頼する者、依頼を受けた護衛艦乗り、これらが命がけであることは理解している筈です。そんな中で船乗り達はあらゆる情報からリスクを拾い出し、天秤に乗せて判断するのです。その上で仕事を仲介してくれる職員さんとの関係は無視できません。日々の仕事に慣れてお座なりな対応をされてはその職員さんと信頼関係を構築することは出来ません」

「・・・・」


 シンノスケの説明に言葉を失うイリス。

 一方で査問委員の席に座るリナは身を乗り出すようにシンノスケの言葉を聞いている。


「例えば、私は自由商人になって日も浅いですが、護衛艦乗りとしての初仕事は偶然にもそこのグレンさん達との契約でした。あの時は予定していた護衛艦がキャンセルになってグレンさん達が困っていたところに私が声を掛け、双方の話し合い?の結果、仕事を受けることを決め、組合を通して契約手続きをしました。幸いにして仕事は無事に終えましたが、もしも失敗していたら、その責任は私とグレンさんのもので、組合には責任を問えないでしょう。しかし、今回の件はグレンさんがイリスさんに相談して、イリスさんがウォルターさんを紹介した上で仕事を仲介した。この2つの件はまるで違います」


 シンノスケはイリスをじっと見据えた。

 その視線に耐えられずにイリスは俯く。


「更に分かりやすく言えば、商人が仕入れた得体の知れないAという商品を店に並べていたところ、客が来て『Aを売ってくれ』と言って買ったのならば仕方ないでしょう。しかし『何か見繕って売ってくれ』と言ってきた客に得体の知れない商品だと説明することなくAを売ったならば商人としての資質が疑われます。確かに商取引は成立しているでしょうが、そんな商人は信用できません。これが私がイリスさんの対応を否と判断した理由です」


 シンノスケの説明を最後に査問委員会は閉会した。

 ウォルターとイリスに対する裁定は後日言い渡されることになる。

 しかし、査問の中で見過ごすことの出来ない疑惑が発覚したウォルターは組合からの通報で駆け付けた沿岸警備隊によって身柄を拘束され、沿岸警備隊による捜査を受けることになった。


 何はともあれ、役目を果たして査問委員会から解放されたシンノスケ。

 会議室を出たところでアイラに呼び止められた。


「お疲れさまシンノスケ。時間があるならちょっとお茶でも飲まない?」

  

 思いがけない誘いだが、断る理由もない。


「構いませんよ。ここの喫茶店でもいいですか?」

「別にデートじゃないから何所でもいいわ」


 査問委員会で喉も渇いていた2人は手っ取り早く組合の中にある喫茶店でお茶にすることにした。


「しかし、随分と厳しい判断をしたわね。あの職員、半泣きだったじゃない」


 半ば呆れながらそう話すアイラは注文したホットの合成フルーツ茶に砂糖をたっぷり入れて飲んでいる。

 うっかりメニューを見ずにコーヒーを注文したシンノスケはアイラの飲むお茶が気になって仕方ない。


「私は第三者として判断しただけです。ウォルターに対する判断はともかく、イリスさんの判断は迷いました。それでも今のイリスさんに仕事の仲介をお願いする気にはならないというのが正直な気持ちです。まあ、限りなく適に近い否、というところですね」

「ふーん、まあ貴方の説明も確かにそのとおりだな、とは思ったけどね。それでも私は彼女の対応は適正だと思うわ」

「それでいいんじゃないですか?様々な判断を得て裁定を下すのが査問委員会でしょうから。意見が一致するときもあれば、そうでないときもあって当然ですよ」


 シンノスケの言葉をキョトンとした様子で聞くアイラ。

 

「前にも思ったけど、貴方の物言いはいちいち堅苦しいわね。自分で疲れない?」

「まあ、軍隊生活が長かったですからね、気になりませんよ」

「軍隊上がりだとは聞いたけど、どこの所属だったの?」

「宇宙軍第2艦隊隷下の辺境パトロール隊で、最終階級は大尉です。尤も、最後は左遷されてわけの分からない所属でしたが」

「第2艦隊か。アクネリア宇宙軍の基幹艦隊ね、凄いじゃない。・・・あっ、でも第2艦隊、今大変みたいよ」


 シンノスケの軍歴を聞いて感心していたアイラだが、ふと何かを思い出したようだ。


「何がです?」

「新しい艦隊司令官が着任した途端に内部の不正が次々と発覚して粛清の嵐が吹き荒れているみたいよ」

「そうなんですか?」

「私も噂で聞いただけなんだけどね。詳しいことは知らないわ。もしかしたらシンノスケが左遷されたのも関係してるんじゃない?」


 悪戯っぽく、揶揄うように笑うアイラにシンノスケも笑いながら受け流す。


「そんな筈ありませんよ。たかだか末端部隊の大尉風情がそんな不正に巻き込まれるようなことはないでしょう」


 アイラの話は噂話に過ぎないようだし、シンノスケには心当たりも興味もない。

 この時の2人の会話も単なる雑談に過ぎなかった。

僅か30話にして本作品の総合ポイントが1万PTを越えましたが、今までの私の作品ではあり得ないことで、とても驚いています。

これも全て読んでくれている皆さんのおかげです。

この作品もまだまだ続く予定ですが、皆さんの期待に沿えるように努力します。

今後もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです! [一言] シンノスケの要求レベルはなかなかに高い気もする 組合がそのレベルの仕事ができるやつを雇えるだけの組織か次第?
[一言] お互いしっかり仕事しませんか? って感じなんでしょうか。 シンノスケ、合成フルーツ茶にドはまりしてますね(笑)
[良い点] シンノスケの生ぬるい品の良い環境で育ったんだと言う感じが強く出ていて良いですね イリスは言われた物を用意して提供しただけ、船乗りはあらゆる情報を天秤にかけ云々と言うなら護衛について一言で…
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