ナイトメア
「作戦開始から3分25秒。時間どおりならナイトメアが敵艦隊の右舷側から突入してジャミングを開始した頃合いです」
ナイトメアからのジャミングの影響を避けるため、未だに電子機器を遮断し、ナイトメアの位置どころか、敵艦隊の様子すら掴めない状況下で副官の報告にアレンバルは頷く。
「カシムラ少佐は常に時間厳守、時間管理には厳しいですからね。予定の時間どおりに事を進めている筈です」
見えてはいないが、ナイトメアは敵艦隊の前衛と後衛艦隊の間を横断しながら電子戦を仕掛けている筈だ。
電子機器の使用制限解除まであと5分。
その頃には双方の距離は戦艦の主砲の射程距離にまで接近している筈であり、万が一ナイトメアのジャミングが失敗していれば敵艦隊から一方的に攻撃を受けるのはアクネリア艦隊の方だ。
「現時点で敵の攻撃がないといことは作戦が順調に進んでいるということでしょうか?」
普段は冷静な副官も流石に不安そうな様子だが、無理もない。
完全に目隠しの状態で何時攻撃を受けるか分からない状況だ。
副官だけでなく、艦隊の全ての将兵が同じように不安を抱えていることだろう。
「ナイトメアのジャミングが成功しなければ作戦自体が瓦解します。しかし大丈夫。初見ではあの艦の電子戦には対抗できませんし、カシムラ少佐は与えられた任務を完遂する男です」
ナイトメアに装備された電子戦システムは新規開発のシステムで、試験も終わっていない状態での実戦投入であり、アクネリアの艦船にも防御システムは装備されていない。
従来の電子妨害システムとは違い、強力な妨害波を撒き散らし、電子機器そのものを破壊してしまうものであり、現状ではアクネリア宇宙軍の艦船も無差別に影響を受けてしまう。
それを避けるためにナイトメアがジャミングを実行中には全ての電子機器をシャットダウンする必要があるのだ。
【帝国旗艦ファイアバード】
「システムの復旧を急げ!このままでは成す術なく全滅するぞ!」
「システム機器そのものが破壊されました。システムの復旧でなく、機材の修理や交換が必要です!」
中将の命令に対し、オペレーターが悲鳴に似た声を上げた。
「とにかくやるんだ。修理完了したシステムから再起動しろ。艦内通信が使えないなら各部署に伝令を走らせろ」
中将の指示を受け、兵達が修理や伝令のために立ち上がる。
(他の艦も現状を正しく把握して冷静に行動すればいいのだが・・・)
旗艦だけが復旧しても意味がない。
艦隊各艦が同じように行動しなければならないのだが、第3艦隊は歴戦の精鋭部隊だ、その辺りは大丈夫だろう。
「所属不明艦が本艦の前方を通過します」
外部カメラ直結のブリッジモニターに1隻の黒い船が映し出される。
ほぼ目視に近い状態のモニターで艦影を確認できる程だ、相当の至近距離だ。
「迎撃は可能か?」
「無理です!該船をレーダーロックできません。各銃座への伝令も間に合いません」
その間に所属不明艦はファイアバードの艦首鼻先を通過していった。
【ナイトメア】
ナイトメアのブリッジではシンノスケが操艦を、マークスが電子戦を含めた全ての管制を行っていた。
「作戦は順調に進行しています。妨害波を敵艦隊全域に行き渡らせるまであと2分」
マークスの報告にシンノスケは頷く。
「友軍艦隊の動きは?」
「既に主砲の有効射程距離に入っていますが、前進を続けています。全て予定どおりの行動です」
「了解。このまま作戦を継続する」
ナイトメアの速度が速すぎるとジャミングの十分な効果が得られない。
シンノスケは速度を調整しながらナイトメアを進める。
「敵艦隊の中央部を横断。ジャミングの効果確認・・・予定どおり、敵艦隊の電子機器の破壊に成功した模様」
「マークス、ジャミング終了しろ」
「了解。妨害波の発信を中止しました」
「よし、反転するぞ!」
シンノスケはナイトメアを反転させて再び敵艦隊の中に突入した。
【アストライアー】
「ナイトメアの作戦時間が過ぎました。敵艦隊に動きなし。艦隊各艦、予定どおり全ての電子機器を再起動します」
副官の報告どおり、第2、第9艦隊、M19艦隊の各艦が所定の行動に入る。
「よろしい。敵の後衛艦隊を捉えた戦艦は各艦の判断で任意の目標に対して攻撃開始。3分間の砲撃戦の後、艦載機を発進させて制宙権を確保。同時にM19艦隊は突撃し、敵の前衛艦隊を保護しなさい。なお、艦内突入の際には予想外の反撃や各種事故防止に留意すること」
アレンバルの司令の下、アクネリア艦隊はリムリア艦隊に向けて攻撃を開始した。
【帝国旗艦ファイアバード】
「敵艦隊が攻撃を開始しました!」
「攻撃用機器の復旧を最優先。急げ、このままでは反撃もできないまま全滅するぞ!」
次々とアクネリア艦隊からの攻撃の犠牲になるリムリア艦隊。
一方的な展開だ。
「後退しろ!後退しながらマニュアル照準でもいい・・・狙いがつけられないなら、狙わなくても、牽制でも構わない。とにかく反撃しろ!」
このまま全滅するわけにはいかない。
なんとか態勢を立て直そうとしたその時だ。
「提督!あれをっ!」
副官の緊迫した声。
その指差した先にはモニターに映る黒い船。
その漆黒の船、ナイトメアの主砲がファイアバードを狙っている。
「・・・駄目か」
呟くような諦めの声。
それが神聖リムリア帝国宇宙軍第3艦隊司令官の最後の言葉になった。




