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宇宙軍少佐シンノスケ・カシムラ

 シンノスケが選択したのは予備役として期間限定で軍務に就くことだった。

 それに伴い、相棒のマークスは軍属として特務曹長の待遇でシンノスケと共にヤタガラスに乗り込む。

 そして、シンノスケは宇宙軍時代の大尉から1階級昇格して宇宙軍少佐となった。


 シンノスケが決断してから数日、サイコウジ・インダストリーではヤタガラスの性能向上の作業が急ピッチで進められており、シンノスケとマークスは作業の進捗と、新しいシステムの確認作業のためにサイコウジ・インダストリーの工場に来ていた。

 ヤタガラスの船体上下にある2基の小型のレドームのうち、上部のレドームを新機能を搭載したレドームに交換し、電子戦用のシステムを改修するといった作業で、通常であれば数ヶ月を要する改修作業なのだが、サイコウジ・インダストリーの十八番であるユニット構成のため、レドームの交換とシステムアップデートも1週間足らずで完了する予定だ。


「マスター、出航は来週ですが、ミリーナさん達には何時、どのように説明するのですか?」


 確認作業も一段落し、工場の喫茶室で一休みしているシンノスケにマークスが問う。

 軍務に就けば数ヶ月は戻れないだろう。

 シンノスケもマークスも決死の覚悟を決めているとはいえ、死ぬつもりはない。

 それでも、無事に帰れない可能性の方が遥かに高い任務だ。


「いや、説明せずに行くつもりだ。そもそも機密事項だしな。まあ、後のことは心配する必要はないから気楽なもんだ」


 今回の任務でシンノスケとマークスが帰らなければ商会の後のことはミリーナ達に託す必要があるが、ミリーナ達がいれば商会のことは心配ないだろう。

 そもそも、今回シンノスケとマークスは軍人として任務に当たるので民間人のミリーナやセイラを連れて行くことはできないし、端から連れて行くつもりもない。


「確かに、説明したところで納得はしてもらえないでしょうからね。特にミリーナさんとセイラさんは意地でもついてこようとするでしょうし、リナさんはどんな手を使ってでも止めようとするでしょうね。それこそ、3人とも自分の命を賭してでも・・・いや、マスターを行かせないためにマスターを刺して大怪我をさせる位のことはしても不思議ではありませんね」

「それはおっかないな。尚更黙って行くしかないじゃないか」

「確かに、それが妥当ですね」


 シンノスケは肩を竦める。


 今回、シンノスケは貴重なヤタガラスを提供する条件に、万が一ヤタガラスを失うようなことになればその代わりに新造の高性能駆逐艦に加えてヤタガラスとの性能差に関する補償の上乗せか、または駆逐艦を受け取らず、その全額を金銭で補償するかについて宇宙軍に誓約させている。


「新造艦を受け取るか、金銭的補償にするか、残った皆で決めればいいさ。それについては俺達が口出しすることではないし、そもそも口出しできないからな。・・・ところでマークス、お前何か不満げじゃないか?」


 シンノスケの言葉にマークスは頷く。


「はい、私は少しばかり不満があります。マスターは我々が帰らない場合、ヤタガラスの補償に関して宇宙軍を相手にかなり強気に交渉していましたよね?」

「まあな。それがどうした?」

「なら、何故その補償の中に私の損失が含まれていないのですか?私は型落ちとはいえ高性能軍用ドールです。艦船程ではないにせよ、私もそれなりに価値があるのですよ」

「バカ言うな。お前は確かに高性能ドールだが、人権申請してあるから物品でなく人員の扱いだ。戦死したところで階級に見合った遺族補償しかないぞ。それに、俺達が戦死した場合の遺族補償の受け取りはミリーナ達じゃない。エミリア義姉さんだよ。俺はサイコウジに育てて貰った恩を返しきれてないからな。俺と、ついでにお前の遺族補償でチャラにしてもらうつもりだ」

「そんなことをエミリア様が知ったら叱られますよ。嫌ですよ、私まで巻き込まれるのは」

「大丈夫。その時には俺とお前は宇宙の塵だ」

「それもそうですね」


 シンノスケとマークスは顔を見合わせて笑った。



 そういうことでシンノスケは出撃までの残りの期間をいつもと変わらずに過ごすことにした。

 ミリーナは当たり前のように艦長資格試験をパスして艦長の資格を得たが艦が無いのですることもない。

 セイラやミリーナ、リナに付き合わされて慌ただしくも平和に休暇を過ごすシンノスケ。


「シンノスケ、ちょっといいかしら?」


 そんな日々を過ごし、明後日には出撃というある日、シンノスケがドック内の事務所の清掃をしていた時、アッシュが声を掛けてきた。

 周囲には誰もいない。


「何か用か?」


 たまにクルーの皆で食事等に行くこともあり、その時には他愛もない話をすることもあるが、基本的に仕事のやり取りしかしないアッシュの方から声を掛けてくるのは珍しい。


「私、ミリーナの能力程ではないのだけれど、勘は働く方なのよ。・・・貴方、何か隠しているわよね?」

「いや、別に・・・」

「誤魔化しても無駄よ。貴方の目が教えてくれているわ」

「目?」

「私ね、沿岸警備隊で特殊部隊に所属していたことがあるのよ。その時に何度も見てきたわ。全てを受け入れて、覚悟を決めた男の目を。その目をした男の多くは帰ってこなかった。貴方、それと同じ目をしているわよ」


 指摘されたシンノスケはアッシュを見ると自虐的に笑う。


「普段通りにしていたつもりだけど、俺もまだまだだな」

「私の勘もあるけど、シンノスケは分かりやすいのよ。あの3人だってシンノスケの様子がいつもと違うことには気づいているわよ。貴方、何をするつもりか分からないけど、3人にだけは伝えた方がいいんじゃない?」


 シンノスケは頷く。


「確かにそうなんだが、それでも伝えるわけにはいかないんだ」


 シンノスケの答えにアッシュは呆れたようにため息をつく。


「商会を通さない、説明もできないなんて、何をしようとしているのかおおよそ予想はできるけどね。まあいいわ、これ以上余計なことは言わない。商会のことは私達に任せてちょうだい。でもね、あの3人は直ぐに真実にたどり着くわよ。帰ってきたら覚悟しておくことね。ただでは済まないわよ」

「旅立ちにも覚悟して、帰ってきても覚悟が必要か・・・。肩がこるな」

「それだけ3人の想いが重いってことよ」


 アッシュは悪戯っぽく笑った。

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― 新着の感想 ―
>シンノスケとマークスは顔を見合わせて笑った。 いや、超高性能でもアンドロイドなんだよな。マークスはw
エミリア義姉さんは今回の件をご存知なのでしょうか? サイコウジ・インダストリー第1営業課長ハンクス氏の将来が心配です。
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