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穏やかな日々

 レイヤード商会との取引を終えて帰途についたシンノスケだが、丁度いい仕事も無かったので3隻とも空荷での帰還となった。

 武装した護衛艦3隻にちょっかいを出す宇宙海賊などめったなことではいないため、帰路はミリーナの艦長資格取得のために艦長の任務を任せて訓練をしながら進む。


 ミリーナは艦長の資格取得のための実務経験をクリアしているので、後は試験を受けて合格すれば晴れて艦長の任務に就けるようになるが、ミリーナの能力ならば不合格の可能性は万に一つもないだろう。


「次、想定12」


 訓練航行を統括するシンノスケの指示を受けてマークスが想定をシステムに入力する。


 各種モニターに存在しない架空の敵艦が表示された。


「レーダーに反応!高速の不審船2隻から奇襲を受けました。護衛対象の貨物船ホーリーベルが被弾。撃沈は免れましたが航行速度30パーセント減です」


 セイラの報告にミリーナは頷くと状況を判断し、各艦への指示を出す。


「了解。各艦は救難信号、開戦信号を発信。ホーリーベルはそのままの進路を維持」

『ホーリーベル了解です』

「フブキは不審船の対処に当たりなさい。既に先制攻撃を受けていて正当防衛が成立しているから警告は不要ですわ。但し、深追いは禁物、護衛対象のホーリーベルから離れすぎないように」

『フブキ了解よ、反撃を開始するわ!』


 護衛対象を護ることが護衛艦の使命だ。

 ミリーナはそれに従って指示を出す。


「フブキが敵艦1隻を撃沈。もう1隻を大破させました!・・・大破した敵艦が救難信号を発信、救助を求めています」


 今回は少し意地悪な想定だ。


「敵艦の状況は?」

「エンジンが大破しており航行不能。小型船なので機関停止状態で、船内の生命維持機能も5時間程度で限界を迎えます。付近に沿岸警備隊等の艦船はいません」


 ミリーナの表情が険しくなる。


「・・・救助活動の用意。フブキは救難船に接近して救難マーカーを打ち込みながら状況を確認。マークスとシンノスケ様はフブキに移乗してフブキが強行接舷した後にメーティスと3人で艦内制圧と遭難者の救助を」

『フブキ了解よ。これより該船に接近するわ』


 訓練なのでシンノスケとマークスがわざわざフブキに移乗することはないが、シンノスケが艦を離れるのでミリーナが操艦を交代する。


「フブキが該船に接近します」


 セイラの報告を聞いた瞬間、ミリーナの額の目が開いた。


「中止っ!フブキは直ぐに離れなさい!」

『了解!該船と距離を取る・・・』

「該船が自爆しましたっ!フブキに損害はありません」

「ふぅ・・・よかったですわ」


 間一髪で危機を回避したミリーナは深いため息をつく。


「はい、ここまで想定終了」


 シンノスケの宣言で想定が終了する。



「危なかったですわ。やっぱり判断が甘かったですわ。60点ってとこかしら?」


 訓練を終えて自己評価するミリーナ。


「いや、実際に損害は無いし、もっと高くても良いんじゃないか?80点ってとこだろう」


 実際の現場では確たる正解というものはないのだ。

 あるのは選択した結果があるのみで、その結果に対して何らかの責任が生じるだけ。

 護衛任務中に攻撃してきた宇宙海賊ならば護衛を優先して救助しなくてもいいし、救助が可能だと判断したならば救助しても間違いではない。

 今回ミリーナは救助が可能だと判断した上でその後の事態をすんでのところで回避している。

 結果としてミリーナの判断は間違えてはいない。


「しかし、シミュレーションの異変すらも予知出来るとは、ミリーナさんの能力は凄いものですね」


 感心するマークスにミリーナは肩を竦めた。


「私も船乗りとしての経験を積んできたことですし、大したことではありませんわ。それに今回のは予知というより読心の方?いえ、両方かしら?」


 シンノスケとマークスは顔を見合わせる。


「今回のはシミュレーションに対しての予知じゃありませんの。それよりも、シンノスケ様達が考えた想定ですもの、何か意地が悪い落とし穴があることは容易に想像できますわ」


 ミリーナの言葉にブリッジにいた皆が笑う。


「・・・ん?マークス、お前今笑ったか?」

「いえ、笑っていません」


 その後も意地の悪いシミュレーションを繰り返しながらシンノスケ達は無事にサリウス州惑星ペレーネの中央コロニーに帰還した。



 帰還して自由商船組合に報告に行けば、迎えてくれるのはリナの変わらない笑顔。


「おかえりなさいシンノスケさん。お疲れ様でした」


 いつもと変わらぬ手続きを済ませれば後は休息である。


 ヤタガラス、フブキ、ホーリーベルのメンテナンスもあるので、クルー達は少なくとも2週間の休暇だ。 

 商会の護衛艦全艦がメンテナンスドックに入るので臨時の仕事を受けることもできないのでグレン達の急な採掘の誘いを心配することもない。

 そして、時間ができればシンノスケがやることは1つ。


「よし、マークス!艦内の大掃除だ!」

「ですから、全艦メンテナンスドック入りです」

「・・・・」


 未だに休暇の使い方を知らないシンノスケは途方に暮れた。


 その後の2週間、シンノスケはミリーナ、セイラ、リナとのデートに引き回され、艦が無いならドックの掃除と、慌ただしい日々を過ごす。


 そして、その休暇の最中にミリーナは艦長資格取得の試験に挑む。


「じゃ、ちょっと行ってきますわ」


 相変わらずちょっとした買い物にでも行くかのような様子のミリーナ。

 それこそ奇跡でも起きない限りは試験に落ちるようなことはないだろう。

 

 そんな日々を過ごすシンノスケ。

 それはいつまでも続くことのない、続くことが許されない穏やかな日々だった。

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